ミャーニウル地下迷宮第五層〜その三〜
リーンの実力も分かったことで迷宮の先をどんどん進んでいく。進行速度的にあと少しでボスの部屋というところだろうか、五層に入る前に十三階層までのボス部屋までのマップは入手している。このマップはギルドの受付で貰うことが出来る。
あくまでもボス部屋までのマップであって隠し部屋や細かいトラップの位置などはマップには載っていない、因みに迷宮ではトラップなどの罠は一度解かれた場所、作動して壊れた場所では再度生成されることはなく、別の場所に生成される。しかし大体の場所は限られており予想はつけることが出来る。
しばらくして、前方から三体の何かの気配を感じた。全員が反応し警戒をする、さてお次は誰に相手をしてもらおうか…。エルかスライムか…どちらでもいいのだがまあ、ここはスライm…。
『私にお任せください魔王様!』
我の思考を途切れさせたのはエルの名乗りだった。まあ、結局のところ我としてはどちらかがやってくれればいいわけなので、エルに任せても問題ないだろう。特に断る理由はないのでうなずいて置く。
エルは自身の短剣を取り出し身構える、いつでも対応出来る様だ。さてエルはどう戦うか…見ものだな。遠距離か中距離か近距離か…まあスキル的には中、遠距離だろうがどう戦うかな?
現れたのは黒狼、名前の通り黒い毛並みをもっており金色の瞳がこちらをとらえている。その牙は鋭く人の身体をたやすく貫きそうだ。それが三体、こいつらに近接を挑むのはいささか無理だろう。こいつらは基本群れで探究者を襲う、ゆえに連携能力はとても高い。
狙うなら各個撃破のできる様にするかそれとも範囲殲滅系の魔法でまとめて倒すか…だが連携能力の高いこいつら相手だと殲滅系の魔法の詠唱に時間を掛ければたちまち囲まれて喰われるだろう。なので範囲殲滅による倒し方はこの場合適してはいないだろう。残る手としてはうまく各個撃破できる状況を作るしかないだろう。
エルもそれは分かっているようで何やら考えているのがわかる。
三体はじりじりとエルとの距離を詰めていく、エルも警戒しつつ何やら準備を始めている。
先に動いたのは黒狼た達だった、一体がとびかかり残る二体は左右からエルに迫る。それと同時にエルも詠唱を完成させる。
『ウォーターシールドⅣ!!』
エルは自身の左右正面に流れる水の盾を展開させた。と同時に短剣を鞘から取り出し風の刃をまとわせ正面の黒狼を斬り付ける。一体目を仕留めている間に左右にいた黒狼は水の盾に阻まれて通れなかったようだ、何故か血まみれになっているのが見える。
阻まれた黒狼達も驚いているようで警戒して近づけていない様子。黒狼達も馬鹿ではないのでそのまま突っ込めば確定で死ぬのはわかるだろう、そもそもその例を実際に見ていたのだから分かりきった話だ。
一対一ならばエルが負ける要素の無い場面を作り出したのだ、可能性としては水の…正しくは水流の盾を破らない限り勝ち目は無いといえる。
仮に今のものが壊されても更にトラップはあるのだろう。正しアイツらに壊せるならばの話だ、アイツらでは壊せないこれははっきりとした事だ。
エルは水と風の属性を操り二つ合わせて盾を作り出したのだ、それを壊すには当然二つの属性が使えなくては意味がない。
カルド辺りなら馬鹿力でその程度壊すのは簡単だろう…しかしそれはタラレバの話、アイツらにはもう死という選択肢のみしか残されてはいない。
『これで、終わりです!』
エルがそう言うと同時に自身の正面からと左右の盾の中から黒狼に向かって盾と同じように作った流れを持つ水の刃を撃ち出す。
黒狼達はなす術なくそのまま水の刃によって身体を二つに分けることになった。
しばらくエルは黒狼達だったものを見つめていたが、解体をカルドに任せこちらに戻ってくる。その様子はうまく黒狼を倒したから褒めてもらおうというのがありありと伝わってくる。いつもは、カルドに注意をしたりといろいろとお姉さんみたく振舞ってはいるが案外雰囲気に対して幼げなのだと改めて実感する。
『魔王様!どうでした?私はちゃんとできたでしょうか?』
やや不安そうに、しつつも本人は褒められると思っているようだ。まあ、倒し方については問題ない、近接でも捌けていたし自身に有利になるような戦いの運び…申し分は無いだろう。エルの頭を撫でて褒めてやる。少しエルは恥ずかしそうに頬を染めるも大人しく撫でられている。
「ああ、お前達ならこの程度問題ない。と思って連れてきたのだからな、予想以上…とは言わないが我の四天王として申し分ない程だ。この調子で頑張ってくれな」
ほんとはこんなこと言わなくてもいいとは思うも、自身で作った眷属…とも言えるものなのだ。愛着は湧くし家族のように思っているのだから褒めたくなっても仕方ないだろう。
さて、後少しでボスの元へと辿り着くだろう。カルド→リーン→エルと、来たから次はスライムがボスの相手をするのだろう、若干不安な気もするがまあ、四天王の一角なのだから問題はない…はず。なんとも言えない嫌な…いや、きっと悪いことは起きないだろうが、嫌な予感が我の中で渦巻いていた。
因みにその時カイザーは気づいていないが、エスと呼ばれる少女が黒いオーラ…(嫉妬心と思われる)を自身から煙のように纏っていてリーンが少し距離をとっていたというのがあったがご愛嬌というやつだろう。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、スライムの戦闘…………になると思います。エスさんは…暴走しないことを祈るばかりです。
5層ボスを倒したらある程度はカットしてところどころかいつまんだ形で何話かやったら、戴冠式に移ろうかと思います。