峠の攻防 VS狼 その②
向こうも後には引けないようです。
リーナやアンヌが居る右側面を攻める狼達にとっては
正に『前門の龍と後門の狼』状態であったろう。
上空からはヒューイの突っ付きやら旋風による土埃での目晦ましやらで
行動を制限された所をミラのブレスによる火炎放射の追撃による
小型火災旋風で止めを刺される運命位しか無かったのだから。
キィーロが守る荷車後方は主に物理による攻撃だから楽かと思えば
尻尾攻撃を一撃でも食らえば身体はへしゃげてしまいかねない剛力の持ち主とあっては
へっぴり腰な下っ端狼なんぞは姿勢を低くして唸り避ける位しかやる事は無い。
かといって私やミィナを襲ったとしても結果は攻撃の空振りの連続である。
『立体機動』で攻撃をかわしまくっては翻弄し口で銜えたナイフでちまちまHPを削っていく。
召喚術師系が後衛組に分類されるのはその攻撃力の大半を『召喚獣』に依存しているからだが
本体たる彼ら自身だってけっして弱いのばかりな訳ではない。
例えばリーナは鳥ヒト族なだけあってか回避率はこのPTの中ではミィナよりも高く
ブレスの炎でボロボロになりながらも飛びかかってくる狼の攻撃をひょいと避けると
蹴りでミラの目前にいた狼の所に蹴り飛ばして激突させブレス責めにしていたり
アンヌは犬ヒト族なのとその鑑定眼を使って同属たる狼の最も脆そうな部分を的確に見極め
ヒューイにだけでやらせるのではなく自分も持っていた杖でボコりまくっているし
よろよろになった生き残りの狼が鳥馬に攻撃しようにもその強靭な脚の爪で蹴らるのがオチだった。
だが、これで安心する訳には行かない。
囲んでいた5頭がまるで役に立たない事に業を煮やしたのか、
「ウォォォーーーン!!!!」という怒った感じの遠吠えが森の奥から響いて来た。
発生源は最初の襲撃に参加してなかったあの赤い点、つまりはこの群れのボス。
「いまの何!?」とリーナが眉を顰め声のした方を伺うが、藪に阻まれボスの姿はまだ見えない。
上空に舞い上がったヒューイが「キューーイ!」と警戒の声を上げる。
アンヌが「げ。」といって顔を顰めると
「どうやらこいつら前衛に過ぎないみたいよ!第2波が来るわ!!」と警戒を皆に呼びかける。
『MAP』上でもまるで波状攻撃な感じで赤い点が次々に現れこちらに迫ってきている。
(ちょっとまて。10匹じゃと!?どっから湧いて出てきたんじゃ!?)
明らかにこの周辺に生息している数よりも多いだろうその数に半ば呆れてしまう。
多分一族狼党総出なのだろうが相手の強さを測り間違えてはいないだろうか。
(余程こちらを襲いたくてしょうがない様じゃな。ヒト狙いならこれ位は最低は必要じゃろうが。)
と考えを巡らせてみる。おそらくはミラとリーナは攻撃の範囲内では無い。
格上だし下手すれば龍の親を呼びかねないのだから。
ちらと荷車の荷物を見る。定期便なだけあって村への物資も積んではいるが、それが狙いかの?
積んでいるのは野菜とかそんなんばっかだった気がしないでもないが、
(いぬ・・・いや狼が喜びそうなものねぇ?驚かせれば荷物置いて逃げるとでも???)
と迫りくる第2波な赤い点を私は見つめる。どうやらボスも後が無くなり動き出した様だ。
楽を覚えた結果が今回の襲撃だとすれば司令塔たるボスを倒せばこの群れは終わる。
生き残り後を纏めるであろう狼がヒトを襲うのを愚策だと学習してくれれば良いが。
ナイフを銜え直し第2波が現れるのを待つ。「グオオオオオン!!」
不機嫌な唸り声をバックにまず5匹の狼が目の前に現れた。
「え。色が違う!?」とミィナが驚く。現れたのはただの狼ではなく『魔狼』だった。
唯の狼なら楽勝でも『魔狼』ならどうなるのか。ボスを余り強くしてしまうと生態系ぶっこわし兼ねないので匙加減が大変ですね(これをフラグとも云う。




