ガヴリンの巣戦 前半
戦いは巣の中だけとは限らない様で
ガヴリンの巣を幾重にも包囲する様に乱立する簡易な木の柵の外側では
喧噪という名のお祭り騒ぎとなっていた。
ゴロゴロゴロ。予備の回復剤や解毒剤を
載せた荷車が走り回っているかと思えば
負傷した生徒やギルドからの派遣冒険者を載せた荷車や担架が走り回り
戦利品を載せた荷車が攻略者と共に商人や生産職系の生徒達の元へと通り抜ける。
「A班はこっち! D班!あんたらはこっちだこっち!!」
「おーぃ、うちの班の回復師は何処だーー」
「中級魔力回復剤が足りない?そこらに素材があるだろがっ」
まさにてんやわんやのその状況の中にはソラ達の姿は無い。
精々消耗品の補充に来た女子達や実力のある女子達が男子達とつるんで
ガヴリンの巣へと突入していく姿が垣間見える程度である。
「キューーイ」「クェェェェ」「ピーーーィ」
上空でのんびりと輪を描いて飛ぶ様々な『召喚獣』達。
彼らの眼下の草原では巣の攻略に参加出来ない学年の女子を含めた
生徒の一団が分散して様々な素材を回収しまくっていた。
薬草やら毒草やら研磨用の石から木の枝までと使えそうな物はどんどん回収。
たまにガヴリンが仕掛けた罠も見つかるので分解やら無力化も彼女らの役目である。
「ねぇねぇ聞いた?街のギルドから『迷宮泣かせ』が来てるんだって。」
とある女生徒が隣の生徒に耳打ちする。
「えー?本当?それじゃ攻略楽になるんじゃないのー?」
『迷宮泣かせ』。それはギルドに所属する冒険者の中でも異色のソロハンターだ。
彼は自分がその時気に入った迷宮に張り付き雑魚狩りを繰り返す。
迷宮主は基本放置で兎に角出ては入り出ては入りを繰り返すので
張り付かれたが最後彼が飽きるか討伐期間期限寸前まで迷宮内は惨憺たる有様と化す。
狙われた迷宮主にとっての唯一の救いは彼が移り気気質だという事だ。
気に入らなければ最低1周分の被害で済む。が、今回は何が気に入ったのか
既に何度も突入を繰り返されてるまっ最中なのだそうだ。
(ふーむ?ガヴリン相手なら攻撃予測も楽じゃろうしやりやすいのかの?)
と私は薬草を収集する傍ら彼女らの密やかなおしゃべりに耳を傾ける。
(戦闘狂という枠内に括るにはちと違うかもしれんが味方としては心強い相手ではあるな)
とトコトコとミィナ達の元へと戻る。
ミィナもアンヌもリーナをそれぞれ分担して『解体』やら分類やらをしている。
ミラはリーナの横で絶賛お昼寝中。ヒューイは上空で他の子の『召喚獣』達と
一緒に警戒中だったりする。
「・・・にしても貴族の方々も見学に来るとは思わなかったわ。」
とリーナが纏め終った薬草の束を脇に置きながらちょっと離れた空き地に陣取る
貴族の馬車群の方をさりげなく見て呆れた様に呟いた。
まるで壁の様に整然と並べられた様々な装飾がなされた箱馬車の群れは圧巻でもある。
「貴族のクラスの男子達も巣の攻略に参加してるっていうしそれもあるんじゃない?」
とミィナが纏められた薬草を袋に詰めつつリーナに答える。
「ま、こっちとしてはいろんな物が観れて有り難いんだけどね。生産職系としては。」
とアンヌがその鑑定眼を光らせつつ馬車の外で纏まって日除け傘の下で
優雅にお茶を飲みつつ寛ぐ貴婦人達の調度品をちらちらと見まわしている。
(なるほど、『鑑定』したとしても調度品相手ならば探知魔法には引っ掛かりにくいのかの?)
とちらりと私は貴婦人達の方をみやる。
貴婦人達の周りにはさりげなく護衛の者達もついているし、『MAP』には潜んでいる『影』
らしい者達の黄色い点も探知範囲内に多数確認出来る。
(もしかしたら『鑑定』される事も想定済みかも知れんの。『偽装』してバレたら赤っ恥かくだけじゃし)
と貴婦人達の強かな対外戦略の一端を垣間見るソラでした。
「迷宮泣かせ」の方はそういうあだ名というか称号持ちなヒトです。




