お互い狭間の者だから
平穏を望む者同士だった様です。
廊下に出た私の目の前に居たのは魔属な生徒じゃったのじゃ。
確か街で女の子連れててすれ違ったりした奴じゃったかの?名前は知らんが。
「ん。すまんの。通るのに邪魔じゃったかの?」
と脇へと避けようとするが彼の方から声を掛けて来た。
「いえ。たまたまかち合ってしまっただけです。それよりも。
どうやって貴方は中庭に忍び込んだんです?途中までは居なかった筈ですが。」
と彼が言う。む。見張り役じゃったのか?こやつ。
あぁいう非公式な集会なんかの場合には廊下に見張り役の生徒が立つのが普通じゃ。
『断罪シーン』等『苛め』の延長線みないなモノじゃしな。
私が『軟化』で中庭の方へと忍び込んだのもそういう輩の目から逃れる為で
あったのじゃが、初めから周囲に潜んでいる『影』の類いから見れば
いきなし監視対象が増える訳じゃからな。聞きたくもなろう。しかし・・・
「お主、それを聞いた相手がマトモに答えると思っとるのか?
気配を隠すとか気を逸らすとかいろいろやり様はあるのじゃぞ?」
と呆れた様に言い返す。狸と狐の騙し合いと言う訳では無いが手持ちスキル等
そうそう自慢気に晒す冒険者とかおらん筈なんじゃがの。
「それよりお主、ひょっとして『傀儡』師とかそういう者の類いではあるまいな?」
と私は鎌を掛けてみる。
「いいえ。それは私ではありませんよ。私が『魔属』だからそれを聞くのですか?」と
彼は即座に私の問い掛けの意味に気が付いて答えて来た。伊達に魔属をやってないと言う事じゃな。
「いや。『魔属』とか『けも耳』とか関係は無いわ。お主同様に聞いてみただけじゃ。」
とこちらも先ほどの問い掛けの趣旨返しである事を仄めかしておく。
「『魔属』も『貴族』も似た様な存在。ならば裏で対立を煽り利を貪ろうとする者もおるじゃろう。
その者らにとってはそれは飴や肉料理なんぞと同じなモノなのであろうが
私ら一般ヒトにとっては嵐ともなるからの。」と先生らの解散命令が出たらしい
一際賑やかになった中庭の方をちらりと伺う。
「私らとて生きていく上で嵐にあがらうのは当然の事じゃ。それはお主とて同じ事じゃろう?」
と魔属な生徒を見る。
「違いない。ですね。貴方が一般ヒトであるという事には完全には同意しかねますが。」
と私が『狐ヒト』の女性である事を踏まえた上で言う。
「私とて守りたい者は居りますし、貴方もそうなのでしょう。お互い大変ですね。」
と自分もまた嵐に揉まれる側である事を自覚している模様。
「まぁの。私は出来うる限り彼女らと今の関係を続けていくだけじゃ。
いずれお主と戦いあう様な事は是が非とも避けたい所ではあるがの。」
と肩を竦めて見せる。
立場は違うのじゃろうが守りたい者が居る者同士ぶつかり合う時もあるかも知れん。
出来れば話し合いで済むのならそれに越した事は無いんじゃがな。
「それはどうでしょう。なにしろ貴方はいずれ『狐巫女』に成られる方でしょうから
戦いをしなくてもいい様にこちらがお願いをする側になるかも知れませんけどね。」
とこちらの成長を見越した様な言われ方をされてしまったけど、
ソロで動き回れる様な『狐ヒト』ならばそう思われても仕方無いかも知れんな。
「それでもじゃよ。こちらもいつ『狐巫女』に成れるか分からんし確約は出来んしの。」
と余裕は持たせておく。(今戦ったら多分私の負けじゃな。こっちは徒手空拳じゃし。)
廊下の奥の方からメイド姿の娘がこちらに心配そうに寄ってくるのを見つけると
「じゃぁの。」と彼らに右手で軽くヒラヒラとバイバイするとそそくさと校舎内を
逃げ回り『MAP』を確認しつつトイレで『変化』を解いてミィナの部屋へと
滑り込む。急いで片付けないとっ!!
何より性質が悪いのは狭間に立って旨く立ち回る者。ソラも無名な魔属さんもその掌の上の存在であるという事をお互い確認しただけという回でした。真犯人?答えは『誰でもない』としか言い様がありませんよ。そんなん。




