聖夜の邂逅
クリスマス・イブという事で邂逅させてみました。ルゥス視点です。
まず俺の目に入ったのは照明に明るく照らされた見慣れない薄汚れた天井だった。
「お。気が付いた様じゃな。一時はどうなるかと思ったぞ?」
と聞きなれない幼めな女性の声が近くから聞こえて来た。窓の外は既に暮れて夜の様だ。
「ここはドワーフの集落の宿屋じゃ。おっと。まだ下手に動かん方が良いぞ?」
と起き上がろうとした俺の動きを制する様に声が聞こえる。
目の端の方で焦げた様な犬耳らしきモノがチラリと視界を掠めるが、
ちょこまか動いてるのかぺタン。スタスタ。という音と共にあっという間に見えなくなった。
動こうにも全身が激しい筋肉痛みたいな感じで碌に身動き出来そうにないな。
「ったく。一人で『銀狼』の討伐に向かったばかりかまだ生きてる
『銀狼』の魔石を飲み込んだ上に『ワーウルフ』化を強行するだなんて
何考えてるんじゃお主は。」と「ぺシっ。」と程よく濡れてる
熱冷まし用の布が横の方から額の上に放り投げられ、
遅れて近寄って来た声の主は小さめな手で布を調整してくれつつ文句を言う。
その時その言葉遣いとは裏腹な幼さそうな細い腕を退けた時に
その声の主の顔を観る事が出来た。どうやらベットの足元の踏み台に乗ってるらしいが?
(何処かで見掛けた顔だな。確か学園に居た・・・)
思い出した。狐ヒトな幼めな女の子。名前は知らなかったが時々廊下で見掛けてた。
相変わらず旅人な服装をしている所を見ると、来たばっかりなのだろうか?
大方『銀狼』の件でこの集落へとやって来たついでだろうが一応俺を見舞ってくれてるのか?
しかし余り仲良くなってたりしてた記憶は俺には無いな。
「・・・良く入れたな?宿屋の個室なら、普通は他人は通さないと思うんだが。」
と冷静になりつつ個室であろうこの部屋に入ってこれた彼女に軽く突っ込むが、
「ん。宿の人に魔力カードを見せたら快く通してくれたぞ?一応関係者じゃしな。」
と事も無げに告げられた。
ひょっとしなくてもあの連中の仕業か。どうやら俺を回収してくれた様だから贅沢は言えんが。
「因みにお主が飲み込んだだか言う『魔石』はそのままじゃそうじゃぞ?」
と彼女は両手を自分の腰に置いてふんぞり返る様にしつつ俺を見据えて言う。
「だろうな。『銀狼』を倒した今、『魔石』は俺の身体の一部になっている筈だからな。」
と答えると俺は天井の方を再び仰ぎ見る。
「そうか。覚悟の上で。なんじゃな。が、余り無茶はいかんな。私も余り人の事は言えんがの。」
と彼女はそこでため息を付いた。
「うん?あぁ、そういえば君は狐ヒトだったな。」
と横目でさっき犬耳と間違えた狐耳を観て腑に落ちる事があった。
幼めな外観に似合わずソロで動き回れる、狐ヒトの女の子。
狐ヒトの社会は女性優位な筈だがそれでもソロで動き回るという事は
彼女が仄めかした様に無茶をやっている事に等しい筈である。
(確かクィナが言ってたな。狐ヒトの女性でもソロで動き回れる『職』はあるにはあると。)
恐らくはその『職』狙いなのだろうか?だからこそ『学園』に通ってるのかも知れない。
「無茶もするさ。君と違って俺は単なる『ヒト』だったからな。」と天井を見たまま言う。
今の俺は『ワーウルフ』だ。獣化するまで暴走するとは正直思わなかったけどな。
「んー?言いたい事は良く分からんがほどほどに、の?」と首を傾げられてしまった様だが
普通な反応の様で逆にホッとする。ちょっと引っ掛けてみた心算だったんだけどな。
「兎に角、今日はもう遅い。せっかくの『聖夜』だと言うのに起きててもつまらんじゃろ?」
とウィンクすると踏み台からしずしずと降りると部屋の入り口の方へと歩いていくらしい音がする。
「じゃぁの。早く寝るんじゃぞ?あ、そうそう。私が見舞ってた事は皆に内緒でな?」
という声と部屋の照明が消え、パタン。と扉を閉めて出て行ってしまった。
お忍びで来てたんかぃ!と突っ込みたくはなったがうら若き女性が男性の泊まってる部屋を
尋ねて来てた事に今更ながら照れたのかも知れない。狐ヒトだし常識がズレてても仕方が無いか。
名前を聞くの忘れたのに気付いたのは翌日の朝の事だった。
「所で、『聖夜』って何だ・・・?」
ルゥスは『狐巫女』の事をクィナから聞いて知ってるのであえてソラを試した様ですね。今日はクリスマス・イブという事で特別に2話投稿してます(ぇ。




