月を呑むモノ
ルゥスが『変化』を使う様ですが!?
ルゥスの『銀狼』との戦いがどうなっているのは知らず、
その空間の入り口から中を恐る恐る私達が覗き観た物は
奥まった所で4つ脚を踏ん張りこちらを向いた『銀狼』が
空間を満たす月の輝きの色に染まって金色に近い黄色に輝いている状態だった。
「そんな!こんな地中で一体どうやって月の光を集めているんだ!?」と
リーナやミィナの顔の上から中を伺ってたキィーロが驚いた様に呟く。
『銀狼』を良く観るとルゥスが奮戦して与えたであろう傷口が
あちこちに開き、治りが悪いのかかなりボロボロな状態であった。
(む?月の光をあんなに浴びている筈なのになんか治りが悪いの?)
所謂オーバーブースト状態にある筈なんじゃからもっと治りが良くてもいい様な?
私の疑問はそれまで瓦礫の山と思ってた入り口付近の横の方の土砂の中から
よろよろと立ち上がったルゥスによって解き明かされる事となる。
「流石は『銀狼』だな。『魔石』を抜き取られたのにまだ戦えるか。」
と血に塗れズタボロ状態のルゥスがセイバーを片手によろよろと
『銀狼』の前に歩み出た。
もう片方の手には抜き取ったであろう『銀狼』の『魔石』をしっかりと握り締めている。
(まさか、生きてる状態の奴から引っこ抜いたのか!?無茶な事しよって!)
驚くべきは『魔石』を抜き取られてもああやって戦闘態勢を取ってられる『銀狼』
の驚異的な生命力の方なんじゃろうがあの状態が月の光のお陰であるにせよ、
戦い続けられるだけのチャージが行い続けられるのであれば、ルゥスに勝ち目は無い気がする。
(なんせルゥスは『けも耳』でも無い、ただの『ヒト』なんじゃからな。)
ミィナ達とは違いただの『ヒト』であるルゥスは『けも耳』程のスタミナや身体構造の
優位性等は無いに等しい。それでもまぁほぼ団栗の背比べの範疇なんじゃろうが
キィーロの様な『竜人』相手ともなればその差は歴然じゃろう。彼ら程長命でも無いし。
戦力で観た場合は魔物相手ではどうかは知らんが武器や防具でカバー出来るうる分は
『けも耳』よりは上回る事は可能かの?種族特性の弱点は『けも耳』程顕著では無い筈じゃからな。
だが、ルゥスの顔は今まで観た事も無い位に微笑みに満ち溢れていた事に
私はまだその時気が付いていなかった。
「くくく。今こそ俺は『ヒト』を超える事が出来る。『銀狼』よ、貴様のお陰でな。」
と『銀狼』の魔石を月の光の中へと掴んだまま掲げて見せる。
銀の鈴が鳴るかの如く「キィィィン!」と鳴り出したその『魔石』はルゥスの
『魔力操作』と『銀狼』のチャージに共鳴し、空間内の月の光を『吸収』しだした。
「ルゥス!お前、何をやっているんだ!」思わず飛び出したケインとその後ろの
私達を僅かに見返し笑顔をさらにニヤっとさせたルゥスが告げる。
「あぁ、お前達が後から追って来てたのか。どうやら罠は回避出来た様だな。」
と『銀狼』の方を向き直ると、
「一足遅かったな。良く観ておけ!俺が今、『ヒト』を超え、新たな力を手に入れる瞬間を!」
とある程度チャージが終わったらしい光り輝く『魔石』をその口の中に放り込み無理やり飲み下した。
(鳥種とかミラの真似かっ!?いや、あれはそんな生易しいモノではないな。)
傍目から観ていても分かる位の光点が彼の胸の辺りへと下がっていくと同時に
ルゥスが自ら最後の調整に入ったのか力む様にグググと全身に力を込めて行く。
同時に彼の毛が銀色に染まって行き、耳が犬、いや狼耳へと変化していく。
「嘘だろ・・・。自ら『ワーウルフ』に『変化』を望むなんて・・・。」
とキィーロが呟く。ミィナ達も両手で口を覆って絶句している。
『ワーウルフ』か。それも唯の『ワーウルフ』では無い。『銀狼』の『ワーウルフ』じゃ。
ったく。とんでもない物に手を出してくれたの。
月といえば狼。狼と言えばワーウルフでしょう!という訳でルゥスがワーウルフへ強制自己変化してしまいました。『銀狼』もまさか自分が整えた環境を利用されるとまでは思ってなかったでしょうね。




