群れを守る存在(モノ)
『銀狼』視点です。
その魔物は閉鎖鉱山のとある奥まった空間に仮の巣を構えていた。
寝床となる巣の前には特別に見繕った敵対性生物を迎え撃つ為の空間がある。
己が役割は最大の牙にして最強の盾である事を知るその魔物は
ついにその役割を果たす刻が近づいている事を本能的に自覚した。
愛しき子ども達の何頭かは逃げる事すら失敗してしまった様ではあるが
群体として観れば取るに足りない頭数であり、生え変わりの毛程にも感じない。
だが、確実に向かってくるソレは明らかにこちらを目指していた。
弱肉強食の世の中に於いては強者と言えどもいつ何時命を落とすかは分からない。
必要最低限な取り巻き以外は既に別経路で脱出済みである。
後に残っているのは群れに付いて行けるだけの余力の無い寿命の迫ったモノか
どうしても離れたがらなかったヘルパー役のみ。
念の為に足跡消しも命じておいたがその担当のモノもはや戻ってくる事は無いだろう。
感心なのはソレにしろ後続のモノ達にしても無駄な殺生はしていない点である。
他の巣穴の残存組達が押し並べて被害を計上しているのに比べても
単騎突入してるソレやその後方に居るモノ達は無駄な争いを避ける傾向がある様だ。
だが、だからと言ってこちらも手を抜く心算は無い。
―サガレ。ソレハワタシノエモノダ。-
決戦の為の空間の入り口を守る『魔狼』達に命令する。
―イケ。オマエタチハ、コウホウノモノタチヲムカエウツノダ。-
『魔狼』達もソレの放つある意味異様な思念の波動に気が付いたのであろう。
その魔物の顔を見やると名残惜し気に横穴へと次々に飛び込んでいく。
ほど無くしてその空間の入り口に現れたのは、あのルゥスだった。
「ほぅ。手荒い歓迎を受けるとばかり思っていたんだがな。」と鋭くその魔物の顔を見る。
カンテラモドキを床に置き辺りを見回すルゥスだが取り巻きな『魔狼』達は既にいない。
「妙に明るいと思ったら『夜光石』の大鉱脈帯か。これなら明かり要らずだな。」
と冷静に腰のセイバーを抜き払い構え対峙する。
「さぁ、『銀狼』よ。貴様の実力を見せてみろ!」
「グォォオォッ!!!!」開口一番にその『銀狼』の発した咆哮は緑色の突風を伴っており、
ルゥスの踏ん張りも空しく次の瞬間には彼を坑道への口付近の壁へと叩き付けていた。
『銀狼』はあえて自らを囮とする事で群れ全体を守る事に成功していた様です。ミィナ達は間に合うんでしょうか。次回は戦闘シーンです。




