分岐点にて
狼達の罠は周到に張られている様です。
そこはさらなる支道への分岐点じゃった。
元々は支道から集めた鉱石の一時仮置き場でもあった様で
朽ちかけたスコップモドキやマトックモドキの残骸が立てかけてあったりする。
多分坑道を捨てる寸前まで働いた方々がわざと置いていったのじゃろう。
ミィナ達が残された足跡を確かめている間に1個マトックの
先っぽだけになった奴を『ストレージ』に回収させて貰う。
「弱ったわね。『魔狼』達に足跡を消されてるわ。」
と地面を検めていたアンヌが困った様に眉を顰める。
見ると『魔狼』達の足跡がそれこそ乱雑に上書きされる様に残されており
ルゥスがどの支道に入っていったかが分からなくなってしまっている。
(む。多分さっきの連中じゃな。あやつら、それが主目的じゃったか。)
群れで行動する連中の中には足跡消しをして行先を誤魔化す習性を持つ者もいるのじゃ。
足跡消しとは行先への足跡を足跡でもって消すと同時に匂い付け等を行って
どれが正解か分からなくするという狩猟型の動物等が行う偽装行為である。
普通ならばある程度の誤魔化しで引き返すなりして足跡を誤魔化しきれないが
そこは穴掘りもするタイプの『魔狼』だけあって、こういう場所では
不正解ですら誤魔化してしまえるので余計タチが悪い。
(うぐぐ。例え『MAP』で敵分布を見れるとは言ってもこれではな。)
索敵範囲内の赤い点はどの支道の先にも存在はしている様ではあるが、
そこに横穴があれば彼らはそこから正解の道へと逃げていいのだから
そこに行ってみてももぬけの殻か逆に袋叩きの目にあうのは目に見えている。
(分散したら向こうの思う壺じゃな。どれか一つに絞らんと。)
と何個か開いている支道を見比べて考えてみる。
「そういえば、さっきの『魔狼』達、一角緑兎みたいな
技だか魔法だか使ってたわね。どうやって覚えたのかしら。」
とミィナが首を捻っている。
アンヌの後方で進展具合を見守ってたキィーロがそれを聞いて「ふむ。」と腕組みをした。
「それなら、さっき『解体』してた時にヒントというか答えがあったわよ。」
とリーナがごそごそと腰のポーチモドキから『魔狼』の『素材』の袋を引っ張り出して
手の平に中身を少し出してアンヌに見せる。単なる骨の様じゃが?
「え。コレ?唯の骨の破片じゃ無かったの?」とミィナが少し顔を引いて確かめている。
お主も『解体』に参加してたじゃろうに。・・・って担当してた部位が違うか。
「コレね、一角緑兎の角の残骸よ。胃の中から出てきたの。」
とリーナが『魔狼』の技のカラクリを明かす。
「成程。食べた一角緑兎の角を飲み込んでたのか。」
とキィーロが彼らの使い方に気が付いた。使い捨てアイテム扱いの角を飲み込む事で
任意で体内で発動させ口から風を発射する。咆哮は発動の際のキーワードみたいなモンかの?
角そのままでは長すぎて飲み込めないじゃろうから発動がギリギリ可能な程度までは
しゃぶって削ったりしてるんじゃろうが旨い事考えたもんじゃの。
「後ね、案の定というか『月光石』も飲み込んでたわ。」とリーナが骨の残骸の袋を仕舞い
ポーチモドキから別に引っ張りだした石の破片も見せる。
おぃおぃ。ある童話の話じゃあるまいし、そんなんまで腹ん中に詰まってたんかぃ。
狼といえど犬系ですので骨っこ大好きだと思うんですよね。狩った相手の技を一部といえど借りれるのであればなおの事取り込もうとするのは当たり前?かも。月光石までお腹に収めてしまうのも彼らなりの応用の手段です。