月に魅せられし者が追い求める物
時系列的にはちょっと遡る様です。
ドワーフの集落からちょっと離れた捨てられた廃坑の前にルゥスが居た。
連日連夜の夜の彼の襲撃により『魔狼』の群れは確実に数を減らしている。
一部の物見高い『魔狼』達の一部は既に仮の住まいを捨てて
移動を始めている様だが、彼が目指す『銀狼』はまだこの中に居る。
「先程物見役の『魔狼』が出て行ったのはここだったな。」
碌に寝ていないだろうその『魔狼』がフラつきながら出て行った
坑道の出入口を見る。
既に大まかな坑道にはマッピングの『クエスト』を請け負ったヒト達が
立ち入ってはマッピングしてくれているので大体の中の繋がりは見えて来ている。
「ふふ。ここは隅っこだけあってマッピングの連中はまだ来てない様だな。」
何枚かクエストの凱旋所で買って来た新MAPと無料で貰って来た旧MAPを
突き合わせ現在位置を確認するルゥス。
「新MAPとてまだ完全では無いが既にそっちの方には攻略者が入ってる筈だ。」
残ってる『魔狼』達はそれでも巣を守る為に出撃していると見る
ルゥスに取ってもこの状況は好ましい。数が多いとはいえ『魔狼』も有限には
違いは無いし、討伐数こそ稼げなくても彼は別に構わないのだ。
「セイバーも修復と強化も終わった事だし今が『銀狼』に近づくチャンスだな。」
満月下での『魔狼』達と戦った事で彼らの全力の状態を体験し、
おおよその『銀狼』の実力を試算してみた彼は単騎での突入が可能だと見繕っている。
群れのボス足りうる『銀狼』が満月下の『魔狼』以下の実力等有り得ないからだ。
「不確定要素が無い訳ではないが、満月でも無い昼間ならば俺でも『銀狼』は倒せる!」
その表情筋が死んでるかの様な顔の眼だけが赤い炎を宿したかの様に
静かに彼の闘志が高まっている事を映していた。何がそこまで彼を駆り立てるのか。
「今回はリーナ達の助力を得なければならないとは思ってたがそこまでする必要は無いだろう。」
彼の脳裏にふと龍の雛持ちとその友人達の事が過る。
「ケインの奴も実力を付けつつある。奴が魔法剣を一人で使える様になるのも近い。」
とライバルの事をも思い出して苦笑いするかの様に呟く。
「旨くいけば俺は今回の件でもっと強くなれる。今度こそお前をギャフンと言わせてやるぞ!」
私情を思いっきし挟みつつも、高みを目指す彼は一人、
出て行ったさっきの『魔狼』と入れ替わる様に坑道へと突入していくのだった。
ルゥスが目指す『銀狼』。彼はそこで何を得ようというのでしょうか。『乙女ゲー』フラグも内包しつつ進む『イベント』の一つが今動き出しました。




