奉納祭
祭りと言ってもいろいろある訳で。
あの後後ろを時々くるくると困惑した感じで振り返り振り返りしながら
村の中に戻って来たルゥは出迎えたミィナに引き連れられた友人達に
手荒に揉みくちゃにされるという状況に陥ってしまったのじゃった。
(仲良き事は善き事かな。)
私はそんな彼らを見つつスルリ。とミィナの足元へと身を寄せて
帰還をそれとなく伝える。
「あ、ソラ。ご苦労様。」とミィナが労いの声を掛けてくれる。
(どう致しまして。)そちらこそ子どもらを抑えるのは大変じゃったろうに。
「ほらほら、皆揃ったみたいだし、そろそろ家に帰らないとっ!」
とミィナに告げられて彼らは「「はぁーい。」」と生返事して
ゾロゾロと己が家への帰路に就くのじゃった。
「おねぇちゃんありがとねー」
最後のエルフの子を村外れ気味な家まで送り届けると
私らも凱旋所まで行ってリーナらと合流し、空の籠を返すと宿へ戻り
遅めの夕食をとって明日に備えて寝る。
翌日。晴れ渡った空の下、私達は『社』の前の広場で
入山に向けての『儀式』を受ける。
その内容は『巫女舞』やら『下賜の儀』等と結構多彩じゃったわ。
豊作祈願の舞だけで無く、西洋でいう所の「佩剣」の儀式も兼ねた『祭り』でな。
儀式の神官から代表者が授けられるのは剣では無い所がミソで、
お祓いを受けてから授けられたのは斧とかシャベルみたいなのとかの農具。
当然というべきか『刃』が入ってない飾り用の物じゃったから
山小屋か祠にでも飾る用のかも知れん。
『巫女舞』自体は村民にも開放してたから昨晩の子らも多分見学してたと思う。
本式の『狐巫女』達が舞い踊るんじゃが踊る狐巫女さんは目の保養になったわ。
人員が足りないせいなのか他種族の方々や他の町や街から来た者も居たりと
華やかかつ厳粛に行われてたんじゃが、ルゥとやらはひょっとしたら
目ぇ皿の様にして彼女ら見ておったかもしれんな。
私は『狐メイク』は『偽装』で隠しておいたし、なりより月夜の光の下じゃったから
同一狐ヒトな子を見つけようにも見つからんくて逆に混乱してるかもじゃが
こればっかりは私が混ざって踊る訳にはいかんしな。
なんせこっちは送り出される側なんじゃし。
(まぁあの邂逅は『化かされた』位に思われてれば御の字よ。)
さて、今回の『祭り』は私らが村から出立すれば一区切りとなる。
なけなしの屋台も出とった様じゃが主に炊き出し用でな。私らの昼食用の弁当とか
そこで作ったのを係のヒトが持たせて貰てった。
気分は少しズレた秋の遠足てな感じもしないでも無いが山の緑を手入れするなら
おちおちもしていられない時期なのも確かなので、気を引き締めていかねばならん。
やっかい毎に遭遇しなければ良いが。
これは出立式みたいな物だったのでいわゆる『お祭り』な場面を期待した方御免なさい。祭り全体としては『前夜祭』では過去を。この出立式な『奉納祭』では現在から未来に向けてを『祭る』という流れにはなっています。さて、秋から冬に掛けての山には不穏な空気も漂っている様ですが果たして何が出るのでしょうか!?




