前夜祭(後編)
村ヒトのルゥ視点です。
ふと一人で月を見たくなった。その夜は所謂前夜祭という事で
カボチャのランタン持って家々を回ったり、見回りのヒト達に
お菓子を強請ったりしてた時に見上げた月の光に魅せられてふらふらとさ迷って。
「こんばんわーなのじゃ。いや、ここはとりっくあとりーと!じゃったかな?」
村をちょっと外れた田んぼへの辻の所で腰を屈めて月を見ていたら
村の方から誰かが一人で歩いて来たらしく、何気なさそうに声を掛けられた。
聞いた事の無い声。多分山に入る為に海の町から来たヒトなんだろうけど、
知らないヒトなら答えなくてもいいよね?流石に人攫いじゃ無さそうだし。
「んー?あれ?何か決め言葉間違えてしまったかの?」
とかブツブツ後ろで呟いてたけど、ここから去る心算も無いらしい。
一人にしない様に気に掛けてくれてはいるのだろうか。
友人達を置いて一人でここまで来てしまっただから
今頃探し回ってるかも知れないしこのヒトもその口かと思ったけど
その事には一言も触れず、つられたかの様に月を見上げてる気配がする。
「ふむ。おぬし、月の光に誘われたか。やはり田んぼには月が似合うのぅ。」
何処かズレているその声は何故か自分よりも幼さを感じさせるものだった。
幼い?何を言っているのだ。こんなにも齢を重ねている様な言い回しをしてるのに。
目の端に鼻緒が付いた木下駄を履いた華奢な足がちらりと見えた。
そしてその上にあるどっかで観た事のある朱色のスカートの様な服の端と・・・犬の尻尾?
ふーんだ。そんな黄色と白い穂先をユラユラ揺らしてたって気にもとたげないよ。
こっちは月を見てるんだから。邪魔しないで。
「所でおぬし、名前は何という。私は・・・そうじゃな。『ルナ』と呼ぶが良い。」
ちょっと吹いた。なにその如何にもとって付けた様な名前は。
呆れて首を巡らせて彼女を見る。頭にはピンと立った焦げたかの様な色の形のいい犬耳が
生えていた。犬ヒトにしては何か毛色が違う気がするけど気のせいだろう。
何処かで慣れ親しんだ毛並みな気がしないでもないけど。
腰まで伸びた金髪と多分澄んだ蒼い瞳のその子が着ていたのは何処をどう観ても
巫女衣装だった。
-え?ひょっとして明日の本祭に招かれた子?-
思わず怪訝な顔で月明りに照らされる彼女の顔を見つめてしまったのは無理もない事だろう。
「・・・ルゥだよ。で、何か様?『ルナ』ちゃん。」と偽名をあえて突っ込まずに
応対してあげる。多分こっちが年上なんだろうし。
「そうか。おぬしがルゥか!村の方でお主の友人らが捜している様じゃぞ。」
とにんまりと目を細めて笑ってようやく本題に入る。変な子。
「あ、そうそう。狐の『玩具』もおぬしを探しておったわ。そろそろ村に戻らんといかんぞ?」
とついでの様にその子は告げた。狐の『玩具』?あぁあの『狛狐』様モドキの事ね。
町から来た猫ヒトが連れてた『召喚獣』らしいけど、そっか見回りのヒト達も探し始めてるの
かも知れない。大騒ぎになる前に友人達と合流しなければ。
「ん。分かった。教えてくれて有難う。」と地面に置いてあったかぼちゃランタンの柄を持って
立ち上がる。この子はこの後どうするんだろ?
「私はもう少しここで月を見ていくのじゃ。一人で帰れるかの?」
大丈夫。そう言ってその子を背に村へと急ぐ。ふと途中で気になって後ろをみた時にみた物は。
―狐の形をした影が月夜に躍り上がると『社』の方へと走り消えていく所だった。-
ソラとしては狐ヒトの姿をとる事で円滑に話を進めたかっただけの様ですが、ルゥ本人にしてみたら多分一生の思い出になった事でしょう。ルゥの性別はあえてぼかした書き方をしてみましたが特に性別は決めていません(ぉ。




