宿借りしモノ(VS 船蛸 その4)
隙を作り出す様です。
現在前衛の位置に居るのはキィーロと・・・ミラだけかの。
中衛にはリーナとアンヌ、後衛にミィナと私といった所じゃな。
(ヒューイは明かり役なのでこの際外してしまって良いかもしれんな。)
私は大船倉の仕切りと下って来た際に使った簡易な階段に置かれた
火の入ったカンテラモドキとそれと同じモノを掴んで飛ぶヒューイを交互に見やる。
あの『船蛸』は光で照らされる事には慣れているのか
はたまた薄暗くなる事を恐れているのか知らんがヒューイやこのカンテラモドキ
に対してはさして気にも止めていない様に見える。
(まぁこれまでも散々挑戦者達と戦って来たんじゃろうし慣れもあるんじゃろがな。)
ヒューイの巻き起こせる風圧程度じゃあの蛸の身を裂く事もまず無理じゃろし
叩き落としていきなし視界不良になった時に何されるか分からなくなるよか
最初から放っておいた方が無難かも知れんしの。
ヒューイを心底怒らせたりすれば「ウィンドカッター」のミニ版位は使いだしそうではあるが
船蛸もそこまで怒らせる様な攻撃を繰り出せる程の余裕もあるまぃ。
(それよか私の今の立ち位置を有効使用せんとあかんようじゃな。)
私を墨の衝撃弾で撃ったのは恐らくは偶然ではない。私を後方まで下がらせる為と
断定する事にする。まぁ『召喚獣』は大概『前衛』じゃろうしな。
(だが逆を言えば私が前に出ようとすると向こうがどう行動するかに興味あるしの。)
と私はあえて『前衛』に出ようと駆け出してみる。
リーナとアンヌの横を駆け抜け『前衛』に戻ろうとすると・・・
アンヌが「待ってソラ!前から蛸脚がっ!!」と注意してくれた。
「ギュルン!」と案の定というか蛸脚の一本が伸びて来て私を叩こうとする。
(掛かった!案の定じゃな。じゃがそれさえ把握してしまえばこっちのモンじゃ!)
私はそれを避けるとまた隙を見たとばかりに頃合いを見計らって
『前衛』に戻ろうとする。「ぎゅるん!」「ぎゅる!」スカスカッ!!
(ふははは。当たらん当たらん!それよかこの行為の真意に気付いて欲しいのじゃ!)
と『船蛸』に気付かれない様にあえて視線すら外しながら蛸脚の間で舞い踊る。
(やはり攻撃直後は『魔力操作』を解く癖がある様じゃな。ならばこそっ!!)
私の今の行動の持つ意味は唯一つ。それは一種の『鼓舞』じゃ。但し今回その対象はというと・・・
「ズバズバッ!!!!」小気味いい感じで複数の蛸脚が船底に転がり落ちていく。
私の前進を阻む為に延ばされていた攻撃をした直後で魔力の余り籠ってない蛸足を
キィーロの竜気の籠った剣が叩き切っていた。
お見事!!『スキル』を使った訳でも無い私の『舞い』はそりゃ正式なモノに比べりゃ
性能とか格段に落ちるであろう事は否めないじゃろう。
(なんせ私はただ単に繰り出されてくる攻撃を避けて回っていただけに過ぎんのじゃからな。)
じゃがまんまとそれに乗ってしまった『船蛸』はその脚の数をあっという間に
減らしていく羽目になった。狙ってた通りじゃな。
多分条件反射的なモンじゃろうが『前衛』を増やさない事に拘り過ぎていた
『船蛸』の油断を誘うにはこれ程有効な手段は無かったじゃろう。
伸び過ぎた攻撃なんてモノ程『側面』からの攻撃に脆いんじゃよな。
だから私という存在に構いすぎていた『船蛸』は付け入る隙をキィーロに与えてしまったのじゃ。
私はソレを意識して『誘導』してやっただけに過ぎん。
さて、これでもまだ私の『前衛』への復帰を邪魔するというのであれば今度は私の尻尾剣を
側面からお見舞いしてやるとしてじゃな。
どうやってさらなる『隙』を作り出せるか考えなくては。
「鼓舞」は何も味方の調子を整えるだけではなく、相手の隙を作り出す作用もあるという事ですね。今回のは単なる避けであって「スキル」ですらありませんが中々有効な戦術の一つではあります。




