宿借りしモノ(VS 船蛸 その2)
蛸だって逃げ出したい様ですが!?
複数の『船蛸』の脚が狂った様にウネリ捲りながらも狙い済ましたかの様に
船底に次々と叩きつけられて来た。狙ってない様でちゃんと狙いつつ。
キィーロが竜気を纏わせた剣で迫ってくる脚を振り払いつつ
近づこうとするが、空いてる脚でそれをさせじと振り回すので
迂闊には踏み込めない。やはり剣ではその滑った蛸の身体を
切り裂くのには向いていないのだ。
オマケにしっかりとこの蛸は「魔力操作」を使ってるので弾力性も高い。
ミィナ達の振るう棘付き棍棒も明らかにゾンビィな連中相手よりも
効果が薄れてしまっているのが手に取る様に分かる。
(くっ。お互いに「魔力操作」で自らを強化しあってるとは言え底力が違い過ぎるっ!!)
自然な状態で巨大化しているという事はそれだけ余裕があるという事に
他ならないんじゃよな。『船』を貝代わりにしなければならない程の強敵が
海の中には居るであろうという事実を差っ引いたとしたとしても。
(単体としてのヒト相手ならあ奴はまず負ける事はないんじゃろうがこちらは集団。)
「ズバン!」鞭の様に叩きつけらる蛸足から逃れつつ攻略方法を模索する。
(元が蛸なだけにその性質や弱点は替えられん。だからこそ向こうも必死なんじゃろうが。)
遠慮なしの脚の叩き付けはまだまだ続く。幸い明かりを持っているヒューイは
警戒されているのか直接的な被害は無い様じゃが狭い空間で逃げ回るのに必死なのは
照らされる明かりの輪の動き様で私らには丸分かりじゃ。
「ギャルオゥ!!」ボフン!!ミラも安定しない立ち位置のせいか船内に突入した頃位まで
火力を落として火炎玉ブレスを放ったが、振るわれた蛸脚であっけなくブレスを四散されてしまう。
一応は効いているのか蛸が焼ける匂いがするが、当たった個所を見てギョッとしたのは
恐らく私だけではあるまい。それは『自己再生』。
見よ。火炎玉ブレスが当たった個所の傷がみるみる内に治っていくではないか。
(そーいや『蛸』って自傷以外の傷を治せる能力をデフォルトで持ってるんじゃったよな。)
短期間でボスが回復するカラクリの一旦にはこういう能力もあったりするからんじゃろうなぁ。
しかもこの『蛸』の場合は真のラスボスが滅さない限りは何度でも復活するというオマケ付き。
ある意味共生関係にある彼らではあるが、真のラスボスが滅びの道を選択した以上は未来は見えている。
それでも『船蛸』は己の巣であり『貝』であるこの『船』からは離れられないのじゃ。
それが単に『習性』だからではなく『縛り』という名の『契約』である以上は
『船蛸』は新たな『船』が見つかるまでは『ボスからは逃げられない』のじゃな。
(地味にいい仕事をしているではないか。『縛り』というものは。)
私は『召喚獣』という『縛り』で持ってミィナ達の側に居続ける事が出来る。
・・・例えその役目を終えたとしても今度は『巫女』がその代わりとなりえるのだから。
『職』というのはそれ程までに強力な『スキル』であると云えよう。
だからこそ浜辺という大地に縛り付けられた船という名の貝の中で『船蛸』はあがき続ける。
ラスボスさえ『先に諦めて』くれればボスである『船蛸』はここから逃げられるが
逆はそうはいかない。真のラスボスは『蛸』が『何度死のうが構わない』のだから。
「ドタン!バタン!!」何度となく繰り返して来たであろうその攻撃の実態は唯一つ。
それは『船蛸』の地団駄に過ぎないって事じゃな。あるのは空虚な威勢だけ。
私らは時間の許す限りはそんな奴を『素材』とすべく奮闘するのみ。
「ズバッ!!」キィーロが伸び切って隙をみせた蛸脚を剣で一本切り落とした。
流石に攻撃後までは「魔力操作」が追い付いてなかったらしい。まぁ巨体だしの。
ピクピクとまだ動くそれを足蹴にして隅に蹴り飛ばしキィーロが蛸を睨みつけている。
1本半端に斬り落とされた位じゃ痛くも痒くもないんじゃろうけど。
「ギャルオオゥ!!」あ。ちょっと頭にカチンと来ていたらしいミラの火力の上がった
火炎玉ブレスが「ボフウウン!!」と斬れ口に直撃した。
あれはリーナの指示かの?流石に傷口から直ぐに再生はしないじゃろうが的確じゃの。
と感心してたら『船蛸』の漏斗の先がこちらに向いた所じゃった。
『ボスから逃げられない』理由が適応されるのは何も攻略側だけとは限らないって訳ですね。『船蛸』にしてみれば気に入ったガレオン船タイプの『貝』に匹敵する『船』を手に入れるのは至難の業でしょうし。次回も戦闘シーンです。




