ホシの視点で見てみよう 1
※本編とは別視点です。
「拓也もポッチー食べる?」
左右二列ずつに分かれた座席の間に、すっと棒タイプのチョコプレッツェルの箱が伸ばされる。
「あ、うん。ありがとう」
僕はそのから一本だけ摘み取り、礼を言った。
「遠慮しないでもっと取ってもいいよ~」
「あまり食べ過ぎると酔っちゃいそうだから」
「あ、そっか。じゃあコレあげる」
再度伸ばされた手から渡されたのは小包装の飴玉だった。
僕は再び礼を言うと、袋から取り出し口の中でコロコロと転がした。
「しおりにも書いてあったけどやっぱり移動時間長いね、お尻が痛くなっちゃう」
彼女はもぞもぞと体を動かし、体の位置を直している。
その動きでスカートがよじれて白い太股が少しだけ露わになったため、僕は思わず目を逸らした。
「ほら彩香、はしたないよ」
「え? あはは、ごめんごめん」
隣に座る彩香の親友、早希がスカートの裾を引っ張り正していく。
「拓也くんには刺激が強かったかもねぇ」
「へ? あ? な、なんの事?」
くすくすと笑いを零す早希。
僕がばっちり見てしまった所を目撃されて、それをからかわれたみたいだ。
「へー? ふーん? そうなんだー? 拓也もえっちだねぇ」
「あんまりからかってやるなよ。拓也は生真面目なんだから」
そう横からかばったのは僕の親友、裕太。生真面目ってどういう事だよ。僕はいたって常識人なだけなのに。
「いいじゃない、そういう所が拓也くんの可愛い所なんだから。ね? 彩香」
「うんうん、ほんと私の拓也は可愛い!」
「可愛いって……あんまり男にとって褒め言葉じゃないからね?」
でも私の、か。そう言われるのは僕も悪い気はしない。彩香は僕の幼馴染で彼女だし、そう言ってくれるのは素直に嬉しい。
でも僕が彩香の事を僕の、って言うのはまだちょっと恥ずかしい。いつか言えるかな?
僕たちは今、校外学習の目的地へと向かうバスの中だ。
事前の座席を決める時に運よく僕たち4人のグループで横並びの座席になる事が出来た。
僕と彩香・早希と裕太はそれぞれ恋人同士でお互い幼馴染でもあり、気の置けない仲。
さすがに男女で座席を隣にする事は出来ないため、こうして真ん中の通路を介してやり取りしている。
行きは僕たちが通路側、帰りはそれぞれ窓側に交代する予定にしている。
「これから山を越えていくみたいだな。ほら、緑が多くなってきた」
雄太が窓の外を指差し、僕に見るよう促す。
確かに外は田園を超え、徐々に峠に入っていく所だ。
向こうの座席でも彩香と早希が寄り添うように窓の外を眺めている。
「この辺は高速道路が無いみたいだしだね。もうしばらくはバスの中かぁ」
山道だと揺れるだろうなぁ。念のために酔い止め飲んでおこうかな。
ごそごそと手荷物を漁り、ペットボトルのお茶と酔い止めを取り出して喉に流し込んだ。
「水の方が良かったんじゃないか? 言えば俺のを分けたのに」
「うん、でも予防に飲んだだけだから大丈夫。気を使ってくれてありがとう」
僕は子どもの頃から乗り物酔いしやすい体質で、こうした長距離移動の時はお母さんが必ず酔い止めを用意してくれている。
裕太も何度か僕が酔って嘔吐する場面に直撃してるから心配なんだろう。
僕もさすがに皆での楽しい小旅行でゲーゲーはしたくないもんね。
バスはどんどん山の中に入っていく。
一応国道だからスマホの回線が途切れたりしないみたいで、裕太は風景に飽きたのか何かゲームを立ち上げてプレイ中。
向こうの二人は女同士のトークに花を咲かせているみたいだ。
僕は手持ちぶさたになってしまってるけど、裕太のようにこの揺れるバスの中でスマホの画面なんてみてたら危ないしなぁ。かと言って女の子二人の話しに加わるのも微妙だし、どうしよう。
周りを見渡してみると、あちこちから談笑が聞こえる。
そんな音に混じってズーズーといびきが響いている。
二つほど前の席でちょっとデ……太目な田丸くんが座席からだらりと手と頭をはみ出しながら完全に寝入っていた。
うーん、僕も寝てしまおうかな。
そういえば昨日は遅くまでLUIN、スマホのコミュニケーションソフトで彩香とやり取りしてたから睡眠時間が足りてなかった。二人してテンション上がってたからなぁ。
ふっと目を瞑り、少しだけバスの揺れに身を任せると意識が薄くなっていった。
やっぱり寝不足だったかなぁ……彩香は眠くないのかな……。
「――たくや、拓也」
肩を揺らされ、意識が戻る。
あれ、もう目的地に着いたのかな? そんなに寝ちゃったかな。
「ん~~もう着いたの?」
寝ぼけ眼にそう返して目を開けると、何やらバスの中が騒然としていた。
外を見ると、まだ山道の途中だというのにバスは完全に停止していた。
「いや、何かあったらしい。今バスの運転手が確認している」
裕太に促されてバスの前方を覗き見ると、道路に通行止めの看板が置かれていて、その前で交通誘導員と運転手とガイドさんが何か会話しているのが見えた。
「こんな所で通行止め?」
「どうなんだろ。でも普通なら事前にそういう情報あるものじゃないか?」
「そうだよね、じゃあ事故でもあったのかな?」
この山道は他の地方へと繋がる連絡通路のため、片側一車線の道路になっている。つまり道幅自体はそれほど広いわけじゃない。そこをふさぐような事故でも起きたんだろうか。
「あ、拓也起きた? 何があったんだろうね?」
「寝てた僕にはさっぱりだよ」
「あはは、そだよね。気持ちよさそうに寝息立ててたし」
「ははは……彩香は眠くないの?」
「私? 私はおしゃべりしてると眠気飛んじゃう方だから」
そうだった。彩香のおしゃべり好きは今に始まった事じゃなかった。
「拓也くんは昨日遅くまで彩香に付き合ってたって聞いたよ、それじゃ眠くても仕方ないよね」
そう、からからと笑いながらフォローしてくれる早希。
「なんかそれ、私が悪いみたいな~?」
「いや、そんな事ないよ。僕も楽しかったから」
「はいはい、ごちそうさま。あ、戻ってきたみたい」
その言葉にバスの前方を見てみる。
運転手とガイドさんがバスに帰ってきて、引率の先生と何か会話後にガイドさんがマイクを取った。
『皆さんには大変ご迷惑をお掛けしております。当バスはこの峠を越え目的地へと向かう予定でしたが、この先のトンネルにて天井の崩落の恐れがあるとの事で、別の迂回路を通る事となりました。お時間にして30分程になりますが、目的地への到着が遅れる事になります。申し訳ございません』
そんなアナウンスに再びバスの中が騒然とした。
みんな数年前のトンネル事故を思い出したのかも知れない。
もしそんな事故に巻き込まれたら……。
想像だけで身震いがした。
通行止めになっていた地点は丁度チェーン着脱所付近だったため、そこでUターンしてバスは再び走り出した。
2キロ程戻った所に分岐があり、そこから迂回していった。
先ほどまでの道路に比べると若干狭く、道も粗いようだけど通行には問題ないようだった。
後で調べたらどうやら旧道だったらしい。
「ふー、着いたねぇ」
「一時はどうなるかと思ったけど何も無かったね」
僕たちはバスから降りて、今日見学予定の施設へ向かう。
「帰りもあの道通るのかなぁ? お尻痛くなりそう」
彩香がお尻を押さえながらそんな話しを振ってくる。
思わずそのお尻を見ちゃったけど、僕はすぐ目を逸らして誤魔化すように声を出した。
「あ、う、うん。でもほら、あれだよ。点検が終わって大丈夫なら通らなくで済むんじゃないかなっ!」
「そうだねー」
「拓也く~ん? 顔、赤いよ?」
なんで早希は僕のそういう所見てるのかなっ!
「早希……。だからあんまりからかうなって。いこうぜ」
裕太が早希の手を引っ張って、引き離してくれた。早紀に気付かれないように僕にアイコンタクトを送りながら。
「あ、待ってよ~。ほら拓也もいこっ?」
彩香が僕に手を差し伸べる。
僕はその手を取り、一緒に歩きだした。




