14話・いっぱい魔物を倒したのでいっぱい魔物を食べる
俺はどこか勘違いしていたようだ。
いずれ強くなればいい、いつか強くなるだろう。
世界最強と言いながらも、そんな風に思っていたのだ。
<食い意地>のスキルを持った時、食べれば強くなると分かっていながら、スキルを使って強くなるのに、ほんのわずかだが抵抗があった。
<調理>スキルで似非ラーメンを作るようなものだと思っていた。
だが、いつか、では駄目なのだ。
今この瞬間、少なくとも成長可能な限りを尽くした強さが無ければ、自分の弱さを目の当たりにしたとき、辛くなる。
アイリスに負けて、雑魚と言われるモンスターに跳ね飛ばされて、その度に仲間に迷惑をかけて、俺は悔しかったのだ。
要は、もう弱い自分に我慢が出来なくなったのだ。
だから、置手紙をして深夜天空龍の山に来たのだ。
辺りは真っ暗だ。俺は街を出る前に売ってもらった光る魔術石を中空に浮かべた。
深夜だったので店主も迷惑そうだったが、迷惑料込みで1ゴールドは払うと、にこやかに送り出してくれた。
これで俺の範囲5メートルほどの視界は確保できる。それと同時に、この光は誘蛾灯のようにモンスターを集めてくれるだろう。
天空龍の山に着くと、昼間と同じようにイエローオークが五体待ち構えていた。
リポップ早すぎるだろう、と思いつつも、好都合な展開に唇をなめる。
マジックポ―ションを飲み、回復した魔力を全開で内功に回す。
<内功Lv8>では受け入れられないほどの頸力が全身の経脈に回り、まるで最初に丸薬を飲んだ時の様な神経へ訴えるような痛みが襲ってくる。
「だけど――」
この状態を維持し、イエローオークの一体に突進する。
ただの突進ではない。その勢いのまま全力の力で踏み込み、腹部にひじ打ちを叩きこむ。
オークの体がくの字になるが、一撃必殺できたとは思っていない。
落ちてきた頭に、硬功夫で固めた握りこぶしの鉄槌を落とす。
頭が砕ける手ごたえを感じ、次の標的を見定める。
残り四体のうち、三体が丸太の棒を振り上げて俺に向かってきていた。
軽身功を使って、その三体を素通りし、残った一体にやはりひじ打ちからの鉄槌。
そしてドロップした肉を拾いながら、そのまま山の奥へ逃げる。
軽身功を使った逃走に追いつける足は無いようで、やがて三体のイエローオークは見えなくなる。
限界まで力を引き出しても、イエローオークの三連撃×3とまともにやりあう力はまだない。
俺はドロップした二つの肉塊に<神の舌>と<調理>を駆使して生のまま食えるように加工し、そのまま喰らった。
<体力・魔力・筋力・耐久力・素早さ>UP! スキル<神の舌><調理>UP!
一息つく間もなく、興奮した馬の様な、荒い息遣いが聞こえてくる。
筋肉の塊のような体に、馬の頭をつけたモンスター、<ワンダリングメズ―Lv75>に見つかったようだ。
両手で片刃のハルバートを持って、こちらに狙いを定めていた。
昼間も遭遇したモンスターだが、動きは鈍重で、ハルバートは岩を切り裂くほど鋭いが、ウィローはそれを軽々と避けていた。
それと同じことをするつもりはない。
ワンダリングメズーがハルバートを振りかぶりながら突進してくるのに合わせて、こちらも軽身功で懐に潜りこむ。
この間合いでは、振りかぶったハルバートは無力だ。穂先を使った石突に移行される前に、降魔四十八神掌・南天で内部に頸力を打ち込む。
ひじ打ちではワンダリングメズーの防御力を上回れないと判断して技を使ったが、正解だった。
筋肉の塊のような装甲に対して、内側からの攻撃には弱かったようだ。
ワンダリングメズーが黒い粒子になって消えていく。この山に来て初めて、一撃必殺ができた。
あとに残ったのは馬肉で、やはりスキルを駆使してそのまま食べる。
筋肉の塊なだけあって、筋力系のステータスが伸びた。
次は――とあたりを見渡す前に、ひときわ大きな神経痛がやって来る。
無茶な内功の使い方に、心臓が悲鳴を上げるように脈打っている。
思わず膝を付きそうになるが、歯をくいしばって耐えた。
<ディアン・ケヒトの加護>を使って痛みを和らげるべきかとも考えたが、自分を追い込まなければ、内功の強さは得られない。
そのまま全身の経脈に頸力を回し続ける。内功が足りなければ、マジックポーションを飲んで魔力を変換して幾らでも頸力に変えることができる。
<イエローオークLv70><ワンダリングメズ―Lv75>
他にも<火吹きトカゲLv65><人食い虎Lv80><フライ・アリゲーターLv75>
モンスターはいくらでも出てきた。昼間見て、挙動は把握しているものばかりだ。
すべて倒しては逃げ、そして食べ、また戦っては食べた。
それを繰り返して、洞窟にたどり着いた。
<神の舌>はいつの間にかベルゼバブの言っていた<魂食い>にまで成長していた。
調理ボーナスは無いようだが、<調理>スキル自体はLv11まで上がっていた。
最後の方は調理した魔物を食べても、ステータスは上がらなくなっていたから、一層ではここらへんが限界なのだろう。
山を下りる前、ウィローはこの洞窟の前で言った。
「ここが二層への転移魔術石が置いてある場所だが、日も暮れたし今日はここで引き返そう」
つまり、ここが一層のゴールなのだ。
ウィローたちは既に三層まで攻略しているのだから、この二層への転移魔術石はマーキング済みだろう。
だから、入る意味のない洞窟だったのだろうが、今の俺にとってはそうではない。
一層を攻略したという成果を、自分に与えたかった。
自信は強さにつながる。達成感は強さを飛躍させる。
登りかけた日が見えた。もう時間は少ない。
俺は洞窟へと足を踏み入れた。