12話・天空龍の山スタート時のステータスとレベル表記について
翌日、全員深酒したにもかかわらず、二日酔いの者はいなかった。
締めにトレドの街の拠点となるリヴィングストン家の別荘――とんでもない豪邸で、一人一部屋使って余りある広さだった――の調理場にて、キャベツに似た毒消しの効果を持つ野菜を炒めて乗せたラーメンを皆に振る舞った甲斐があったというものだ。
飲んだのは初めてだったが、酒の締めにラーメンと言うのは、なるほど素晴らしいものだと思った。
「で、だ。今から天空龍の山に向かうわけだが、いくつかその前に言っておくことがある」
ウィローが咳払いをしてダンジョンの説明を始めた。
天空龍の山は全部で五層からなり、各層の間には特殊な転移の魔術石が設置されており、それを起動させて上層へ登るとの事。
また、その特殊な転移の魔術石は一度起動したことのあるものならば、一方通行ながら、普通の転移の魔術石でもそこに行くだけならば可能だという。
例えば、二層まで攻略し、三層の入り口の魔術石を起動させたものは、一度街に戻ったとしても、改めて一層から攻略する必要なく、手持ちの転移の魔術石で三層入り口まで飛ぶことができる。ただし、その層を繋ぐ魔術石は普通の転移には使用できないため、それを使って街に戻ることは出来ない。あくまで受信専用なのである。
また、脅威度85の名に恥じず、道中出てくるモンスターは他のダンジョンの最奥で待っているような凶悪なものばかり。
上に行けば行くほどその凶悪さは増していく。
ウィローとセレナは三層まで攻略済みだそうだが、俺たちに合わせて今回は一層から順番に攻略していくという事。
「正直、一層すら見てるだけでレベルが上がるくらいだと思う」
ウィローは真面目な顔で言った。
そう言えば、この世界にはRPGなんかでお決まりのレベルと言う概念があるのだろうか?
敵のアイコンの横にはレベルが表示されるが、自分のステータスにはレベルが表記されていない。以前見たウィローのステータスはアルファベットだけとの事だったから、レベル表記が無くてもおかしくない話ではあるが。
その事をウィローに尋ねると、
「レベルってのは比喩なんだが……スキルレベルの話じゃないんだよな? と言うか、お前魔物のレベル、つまり脅威度の指数が数字で見えてるのか? ……分からんが、ベルゼバブが何か仕込んでるんじゃないのかな」
「その可能性が高いけど……脅威度とイコールではないと思う。脅威度4のアビィより、レベル30の魔物の方がずっと弱かった」
そう言えば、アビィが敵として出てきたときも、レベル表記は無かったような気がする。
緊張していたため、わざわざ確認する心境ではなかったので、もしかしたら見落としかもしれないが。
「にゃあ、試しにアビィのステータスを見てほしいにゃあ」
そう言って、右手を動かして、一枚の紙を中空に浮かび上がらせ、俺に渡してくる。
「ヤスタカ以外は見ちゃ駄目にゃあ」
名前:アビィ 種族:ワ―キャット 所持金:0G 0S 60C 場所:トレドの街
装備:ワンピース(白) 所持品:ポーション×3 マジックポーション×1
ステータス 体力:C(50) 魔力:F(25) 筋力:C(52) 耐久力:E(33) 素早さ:B(61)
スキル <風刃魔法LV1><人間擬態><共有配分:ヤスタカ>
俺がステータスの値とスキルをざっと見終わると、その紙はさらさらと消えていった。
<共有配分:ヤスタカ>って……どんなスキルなんだよ。詳細を確認する前に消えてしまったので、内容を知ることができない。
ともかく、やはりレベル表記がない。味方になったからか――それとも、お互いベルゼバブに造られた存在であるという事が関係している?
「ま、考えたって仕方ねえ。この世界にゃお前の言う強さの指数、個人に付帯されるレベルってものは無い。でも、お前が敵を見て、脅威度を測ることができるんなら、それはアドバンテージなんじゃないか?」
ウィローが纏めるようなことを言った。確かに些細なことかもしれない。
俺も気にしないことにした。
ちなみに俺の現在のステータスはと言うと、
名前:ヤスタカ 種族:エルフ 所持金:1G 50S 60C 場所:トレドの街
装備:万能包丁 布の服 所持品:ポーション×5 マジックポーション×10 調味料セット×2
ステータス 体力:F(22) 魔力:C(54) 筋力:G(16) 耐久力:G(17) 素早さ:E(37)
スキル <神の舌LV3><内功Lv8><パイロン式武術Lv3><マーシャルアーツLV1><調理Lv5>
<ディアン・ケヒトの加護Lv4><バッカスの種>
こんな感じだ。<バッカスの種>のおかげでステータスが少し上がった程度。装備の類は内功が乗らないのでどうにも新しく入手しづらい。
昨日のアイリスほどの内功の使い手ならば畜頸――内功の氣を物に込める力も扱えるのだろうが、今の俺では功夫が足りていない。
万能包丁は戦闘用ではなく、モンスターの調理に使うために持ってきたのだ。調味料セットは、塩や胡椒や添えるための薬草野菜までもを、一まとめに魔術石にストレージしたものを指している。
一度ストレージの魔法を使い、魔術石として発生させた石からなら、魔法使用者でなくとも自由に出し入れできるようになるため、本当に使い勝手のいい魔法である。
ともかく、天空龍の山を、このステータスから始める。
終わる時にどうなっているかはわからないが、少なくともその前にあのアイリスと言う女に一泡吹かせるほど強くなるのが当面の目標だ。
「今日は一層の様子見だ。基本的に俺とセレナが魔物の相手をするから、二人は専守防衛で頼む」
セレナも同意するように首を縦にゆっくり動かした。
「でも、行けそうだと思ったら攻撃に参加するぞ」
守ってばかりでは強くなれない。そう思って俺は言った。
「まあ、山の魔物を見て、いけそうならな」
どこか含みのあるような口調で、ウィローは言った。




