よかった。
すっごく短いうえに、悲恋です。ご注意を。
泣いている君に伸ばそうとした手を俺は辛うじて止めた。
「ほかに好きな人ができたの…」
「…そっか」
「ごめんなさい」
小さい声で「ごめんなさい」と何度も言葉を重ねる君を前に、俺はただ「よかった」と思った。君の誕生日が一か月後でよかった。クリスマスに決めなくてよかった。だって、君の指は細いから、きっと君の薬指に合わせた指輪はほかの誰かの指には入らない。
2年も一緒にいたのに。友だちの期間を含めればもっとだ。なのに、まったく気づかずに、俺は未来を見ていたなんて笑ってしまう。泣いている君を抱きしめられない日が来るなんて思わなかった。
謝罪の言葉を繰り返す君の声は耳には入らず、頭の中では君との思い出が走馬灯のように流れた。
告白をしたのは俺からだった。お互いに好きなのはなんとなくわかっていたけれど、友だちの期間が長かったためか、気持ちを伝えるのが恥ずかしかった。共に告白待ちをして、結局、俺が「付き合おうか」と言った。君は笑って、頷いた。
初めてのデートで、君は、いつもは履かないヒールの靴を履いてきた。
初めて君に触れたのは、初デートからしばらくしてからだった。君に触れるのが怖かった。触れたらもう二度と友だちに戻れないと思ったから。
互いに仕事が忙しくて、なかなか会えなくて。だから一緒に住むことにしたんだ。お互いがこれからもずっと一緒にいると信じていた。
どこで君は俺から手を離すことを決めたんだろう。どうして俺はそれに気づかなかったんだろう。
同じ会社の人だろうか、君の新しい好きな人は。俺より身長は高いのだろうか。俺よりその人は優しいのだろうか。
「もう、いいよ」
「…」
「…彼のところに行っていいよ」
「…」
「さよなら」
本当によかった。今言ってくれてよかった。指輪を君のために買う前でよかった。よかったと思うからだろうか。怒る気にもなれないんだ。止める気にもなれないんだ。泣いているのに、君の目がまっすぐで、真剣で、決して揺るがないとわかってしまうから。一緒にいる期間が長くて、どうすることもできないとその目を見てわかってしまったから。だから俺は君の言葉に頷くしかないんだ。無様に泣いて止めることも許されない。だって、そうしたところで君は手を繋ぎ直してはくれないから。
よかったのに、なんで涙が出るんだろうか。よかったのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
未来に君がいなくても、きっと俺は生きていけるよ。未来に俺がいなくても、きっと君が幸せなように。
なんだか、切ない気持ちになりたかったんです、ごめんなさい(笑)
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!!
クリスマス前に切ない話でしかも、前回と同様に「君」「俺」とかしか出てこない手法ですみません。これって「詩」って言った方がいいんですかね?
でも、楽しいんです。すみません。
こんな短い文章を読んでいただき、本当にありがとうございました。




