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魔女達は嗤う  作者: mo56
4話 トンネルにて
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46  トンネルにて


 暗闇の中で、静寂をぶち壊すような喧しいウロバエの動作音を耳にしつつ、バルドゥルは静かに深呼吸をした。眼前には機体のメーターの針が、ぼんやりとした内部点灯に照らされて一定のバランスを保って左右しているのが、なんとか確認できる。

 今、彼はたった一人で搭乗席の椅子に腰をかけていた。

 何かと五月蝿いエーリヒも、愛すべき相方であるナンシーの姿も無い。

 あるのはメーターの光だけであり、時折、強く光る急造で取り付けたレーダーの発光点が目を刺激する。調整が上手くいかなかったため、このレーダーの発光する電力だけでも相当な負担が機体に掛かってしまう。

 これを取り付けた整備班連中を怒鳴りつけてやりたいが、一応操縦者がウロバエ側面に搭載された機関砲の発射装置を搭乗席に回してくれた事を鑑みると、さほど怒るわけにもいかない。

 だが、そう改造してくれぐらいなら、自動装填の機能も追加して欲しかった。

 相変わらず、機関砲の装填方法は手動であり、出撃する前に、自身で幾らか弾倉に砲弾を装填したが、撃ちきってしまった時の不安感が頭をよぎる。

 「不安そうだな」

 不意に足元のスピーカーから、機体の足元付近で自動小銃を携えた小太りの男『ブッチャー』が、こちらに通信を飛ばしてきた。

 彼が足元からウロバエの搭乗席を眺めているのを、機体下部に搭載された作業用のライトが照らしている。

 彼は所謂いわゆる随伴歩兵ずいはんほへいというものだが、一人だけではその様をあまり成さない。

 「当たり前だ。こんな暗い場所に投げ出されちまって、どこに敵が潜んでるかもわからねぇのに、随伴歩兵一人だけとは泣けるぜ」

 「いないより、マシだろ?」

 「んな訳あるか、ウロチョロして踏み潰しちまいそうだ」

 「俺は蟻じゃねぇぞ」

 「今は似たようなもんだ」

 そんな会話をしつつ、バルドゥルは何故この様な事になったか、数時間前の記憶を思い出していた。





 「…お前が魔女の一人か?」

 そう氷のように冷たい声で、一人の男が前に小太りのバルドゥルを直立不動の姿勢を取らせつつ、聞いてきた。

 男は指揮官用の少々広いテントの中で、簡易的な長机に肘をついて、指先を合わせてその隙間から彼を見上げている。

 男は中背中肉で、顔には幾つかの傷があるが、最近出来た傷では無く、それは相当昔の古傷であることがわかる。

それと、指揮階級と思わしき階級章を幾らか付けた軍服を着込んでいた。

 だが、企業に対する反乱勢力に明確な階級は存在しない為、多方この男が以前に軍隊にて、その様な階級に属しており、反乱勢力においてもその地位をそのまま移したのであろうことが伺える。

 「はい。バルドゥル伍長であります」

 そう男に聞かれるバルドゥルは、普段被っているニット帽をズボンの横で丸め、軍隊時代に染み付いた姿勢を維持しつつ、男の問いに答えた。

 「まさか、まだ残っていたとはな。アムブは健在かね?」

 「はい。動作好調であります」

 「そうか…報告書を見る限り、大戦時の時見たく暴れたそうだな…」

 男はバルドゥルを見透かすかのように、鋭い目つきではあったが、その声にはどことなく脅える色があった。

 「君の所属する部隊には、魔女が何人ほどいる?」

 「それは古参のことでありますか?」

 「そうだ。古参以外の連中など頼りにならん」

 「…5人であります」

 そう答えたバルドゥルの前にある長机には、数枚の資料が置かれており、流し目にそれを見ると、どうやらバルドゥル自身の戦歴や情報が書き込まれた物であるらしい。

 だが、そんな物に彼のことはさほど細かくは書き込まれていない。

 大戦時の混乱模様では、たった一人の兵士の生年月日すら、正確であるか怪しい。

 このテントには、車両が無事とは言える形ではないものの、なんとか数十分前に進攻目標である首都の地下へと繋がる大型トンネルの数km離れた位置に設営された、反乱勢力のさほど大規模でもない前哨基地にたどり着いてから、すぐに呼び出された。

 バルドゥルの機体であるウロバエの整備すらまだ済んでおらず、勿論、クリストフの機体も同様である。

 「5人か…少し足りないな。伍長 君は部隊の指揮経験はあるかね?」

 「ありません。少佐殿」

 聞いてくる男に、バルドゥルは男が身につけている階級章の地位を付け足して言った。

 実際のところ、この男が反乱勢力のなかで、正式な少佐階級であるかは不明だが、上官と思える人物に対応する場合、語尾に階級を言わないと、この手の人物は不機嫌になることをバルドゥルはよく知っていた。

 追い出された身であるなら尚更だ。

 過去の栄光を引き出されることは、大体誰でも嬉しいことだからだ。

 「そうか…では、誰か小隊長に適任と思える人物はいるかね?」

 男は少佐と呼ばれて、顔に笑みを浮かべた。

 その様子を見るに、バルドゥルはこの男が少佐階級ではないと推察した。

多方、戦闘のどさくさに紛れて、少佐階級の軍服を盗ってきたのであろう。

少佐相当の上官らしい落ち着きというものが、この男には欠如している。

しかし、その様な上官席に座るにはそれなりの技能がいる。

多分、この男は軍に所属していて、士官的技能もそれなりにはあるが、少尉程にはなれなかった准尉か何かが正体だろう。

「4人のうち、階級が最も高いクリストフ軍曹が適任かと小官は判断します」

そんな推測を頭に浮かべつつ、バルドゥルは男の問いにしっかりと答えた。

「わかった…では機体を3機回そう。各地から集結した兵士達の機体が、作業用か民間用の機体ばかりと聞いて、上層部は困惑している。配備への不手際を謝罪する事を兼ねて戦闘用を回す。地上戦に特化した機体だ。大事に扱え」

 「失礼ですが、少佐殿。三機でありますか?我々は5人であります」

 「仕方ないだろう。大半は先行した部隊に持って行かれてしまったのだ。よく話し合った上で機体を選ぶことだな」

 少佐と思わしき准尉は、そうバルドゥルに告げると席を立った。

 「それでは整備を済ませ、3時間後に出撃だ。進行目標は地下通路最深部の企業傘下にある採掘施設だ」

 「少佐殿。機体のみでの作戦行動は無理であります。歩兵の随伴はどうなるのでありますか?」

 「貴官の実力ならば、その程度の障壁、関係ないと私は判断するがね…」

 少佐と思わしき准尉は、そうバルドゥルに告げると、そそくさとテントを後にしてしまった。残されたバルドゥルはなんとも悔しそうな顔をした。

 幾ら、戦闘用とはいえ随伴歩兵の無い機体運用など、鉄屑を転がしていることとさほど変わらない。自由に空を飛べる天使共の機体ならば、また話は別だが、地上戦用ということは、今までどおりの運用と何ら変わらないだろう。


 そして、准尉が言った通り、この前哨基地へ乗り付けた車両の傍に、例の機体が並べられ、整備班の整備を受けていた。

 無骨に角ばった体格をした機体で、確か『ジェバ』と言う名称だったと記憶している。

 大戦後期に生産され、強固な陣地の制圧をする為に幾らか使用された機体だ。

 鈍重ではあるが、その分、火力が高いのが取り柄の機体であったはずだが、今バルドゥルの目の前で整備されているジェバの武装は、貧相な貫通弾仕様の自動小銃一丁のみであった。肩部に2連のミサイルランチャーが搭載されているようだが、肝心のミサイルは不足しているようで、装填されていないらしい。

 多方、戦闘の混乱で、ジェバが本来得意とする重砲などの高火力である装備が回ってこなかったのだろう。しかし、それでもジェバ持ち前の重装甲は、装甲自体無いに等しい作業用を扱う自分らにとっては有難いものと言えた。


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