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魔女達は嗤う  作者: mo56
第2話 駅にて
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「見えてきた。・・・どうやら北区の連中もう始めてるらしいな。・・・ゲートぐらい綺麗に開けろよ。」


 ウロバエの搭乗席から、とっくに割れて無くなった搭乗席前部の窓枠から、バルドゥルが数十m先に破壊された駅のゲートを見ながら憎らしく吐き捨てた。

 トラックでゲートに突っ込んだのだろう。

 その証拠に破壊されたゲートの横に、運転席が滅茶苦茶になったトラックが停止している。

 輸送車両を奪取できれば、トラックなどもういらないのだろうが、しかし、これはいくら何でももったいないと感じる。

 そして、そのトラックの横に見張り役なのだろう、自動小銃を携えた男が立っている。

 彼はウロバエを見て取ると、慌てて近くにあったトラックの残骸を遮蔽にとり、銃口をこちらに向けてきた。

 それを見て、脚部に掴まっていたエーリヒが、慌てて梯子から飛び降りて、自動小銃を小脇に挟みながら、銃を向ける男に走りよった。

 バルドゥルは一旦ウロバエを停止させ、エーリヒと男のやりとりを見守った。

 そして、しばらくするとエーリヒが、こちらに向けて機体から降りるようにと手で指示を出した。

 それに従って、バルドゥルとクリストフは搭乗席から降りると、アムブを残して、ゲートへ走りよった。


 「そうか・・南区は全滅か、参っちまったな・・。」

 「だが、数が減ったからって引き下がるわけにもいかないだろ。」

 「それもそうなんだが・・・。」


 銃を携えた男は既にこちらに対しての警戒を解いて、銃を腰にぶら下げて、エーリヒと暗い顔で話している。

 バルドゥルとクリストフの二人が近づくと、男は沈んだ顔で二人の方を向いた。


 「聞いたぜ。天使を2機やったんだって?俺はジェノだ。」


 ジェノと名乗った男は沈んだ顔ながらも、できる限り明るく取り繕って二人に握手を求めてきた。

 エーリヒが彼に言ったのだろう。

 作業機で天使の扱う軍用機を撃墜するとは大した奴らだと、彼は二人を褒めた。

 だが、実際のところ確かに撃墜はしたが、あれは相打ちにも近い撃墜であったのだが、褒められるには悪い気はしない。


 そして、握手を交わしながら、このジェノと言う男が暗い顔をするのも無理はないとバルドゥルは思った。

 本来なら、ここに南区と東区の兵力が合流していた筈だが、天使の襲撃によって、半数以下に減ってしまった。

 作業機の寄せ集めとはいえ、貴重な戦力である機体は東区のウロバエしか合流できなかったわけだし、北区の機体は確かエーリヒの話では2機徴収できたと言っていたが、ここまできて機体の陰も音も確認できないようでは、どうやら北区も機体を潰してしまったらしい。

 それを確認するかのように、エーリヒが辺りを見ましながら彼に聞いた。

 わかりきったような事を聞くとは中々無礼な奴だ。


 「北区の機体はどうしたんだ?」

 「あぁ、ここにくるまでに警備部との戦闘で駄目になっちまった。」

 「となると・・・東区の一機だけか。」

 「2機のうち片方は俺が乗ってたんだが、アムブと一緒にパー・・・。もう片方は心中しちまったぜ。」


 そう言ってジェノはわざとらしく肩をすくめる。瞳に涙をうっすらと浮かべているのが、暗い場所ながらもよくわかった。

 

 「他の連中はどうした?」

 「あぁ、俺は見張りでここにいるが、他の連中は車両の確保と、施設内の天使共の掃討だ。・・・さっき一機天使の機体がホームの方へ入っちまったのは焦ったが、クレーメンス達が片づけたよ。」

 「私達はどうすればいい?」

 「まだ上の方に天使共が残っているはずだ。リーダー達もいるから手伝ってくれよ。」


 涙を少し浮かべながらもジェノは平静を装って、3人に告げた。

 きっとアムブと仲が良かったのだろうと、バルドゥルは彼に同情した。

 自分の相方はあの通りだが、他のアムブってのは大体愛想が良くて、可愛げがあるものだ。

 自分も相方を亡くすときはせいぜい涙を流せるように、仲良くしといた方がいいかもしれないと思った。



 「話長いですねぇ・・・。」

 「仕方ないわ、重要なことだもの。」

 「そうですけどぉ・・。ところでエッバって元気だと思います?」

 「あの皮肉屋?よしてよ。考えたくない・・・。」


 ウロバエ内にて、ダニエラはナンシーの話題に嫌気がさしていた。

 自分はそんな人間関係というよりアムブ関係といった方が正しいのか、そういう類にはできる限り関わりたくない。

 エッバの話題なら尚更だ。

 彼女は昔からダニエラが臆病なことを嘲るのが好きで、今ここにはいないのがとても有り難い。



 「ウロバエは施設内に入れられそうにないな。」

 「施設周辺の機体はなんとか掃討したからな。内部に固定砲台でもあるなら別だが・・。」

 「せいぜい銃座が2・3個ってとこだろ。」


 3人はジェノから遠ざかって、ウロバエに戻りながら、どう動いたものかと話し合った。

 狭い駅内にウロバエのようなデカブツを進入させても、弾避けにもならないことは、先ほどの戦闘で実証済みだ。

 ナンシーの液体装甲は長時間の運用に向いておらず、常時発砲を加えられ被弾する可能性がある施設内でそれは使えそうになかった。


 「結局最後は歩兵の仕事だな。エーリヒ、お前の銃貸せよ。」

 「なんでですか?」

 「お前はゲートで待ってろ。俺とバルドゥルで内部の支援に行く。」

 

 戦闘の経験が3人の中でもっとも浅いエーリヒが、共に内部の支援に回っても、さほど大した働きはできないだろうとクリストフは見越していた。

 エーリヒは何か言おうとしたが、彼の唇が動く前にクリストフが遮った。


 「いいか?お前は数少ないリーダーだ。例え仲間がいなくなってもお前はリーダーなんだよ。・・・俺らは使い捨てが効くが、お前の様な奴は中々いないんだ。」

 「そうそう・・・。それに北区のリーダーって聞いたところクレーメンスって話じゃねぇか。まぁ・・なんというか、あいつがリーダーだとなんか嫌なんだよ。」


 クリストフとバルドゥルに凄まれると、エーリヒは何も言えなくなり、仕方なくそれに従うことしかできなかった。

 そして、ウロバエのすぐ近くまで行くと、バルドゥルが思い出したかのように、クリストフに話しかけた。


 「俺の銃は?」

 「お前はそこら辺に落ちてる物を拾え。」

 「軍曹。それはないだろ。」

 「なぁに・・・中に入れば腐るほど落ちてるさ。」


 そう最後に言ったクリストフの顔はひどく冷めていた。

 内部はきっと凄惨を極める様子であると、彼は既に推測していた。

 そしてそれは、間違いではなく、数分後に二人の前に飛び込んでくる光景の予言といえた。



 その頃、駅のホールを北区の一団が占拠することに成功した。

 だが、さきほどのホームでの戦闘と打って変わってこちらも大量の被害を被った。

 ホームの際は十人で行動し、ホールを占拠する際には当初のうちからそこの攻撃に当たっていた仲間も加えて、30人になったが、機銃陣地が改札口近くに設置されており、その破壊及び占拠に12名戦死した。

 残りは18人だが、6人ほど負傷し、実際のところ戦闘を継続できるのは12人と全体の半数を切った。


 「指令所を押さえるにはちょっと数が足りないわね。」

 「言われなくてもそんなことはわかってる。」


 冷静に拳銃から立体映像を現し、エッバは死傷した連中を眺めながら呟き、それを鬱陶しそうにクレーメンスが遮る。


 「だが・・・早く方を付けないと・・・諸君!このまま指令所を占拠するぞ!」


 クレーメンスは高々と銃を掲げ、生き残りを鼓舞する。

 生き残った仲間達は大分疲労していたが、それでも体に鞭打って動かねば、事態が悪化することは重々承知しており、できる限りの声を喉からひねり出し、クレーメンスに追従した。


 「暑苦しい奴らねぇ・・・。」


 そうエッバは心底嫌そうに呟いて、クレーメンスの首に体をしならせて巻き付き、先ほど彼に話しかけていたあの若い仲間の死骸を淋しい目で見つめるのだった。


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