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魔女達は嗤う  作者: mo56
第2話 駅にて
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 「ナンシー・・もうやめてよ。その話するの何回目よ。」

 「えぇ~・・嫌いでしたっけぇ、アーダにお手玉された話ぃ・・。」

 「嫌いよ・・思い出しただけで嫌になる。あの筋肉馬鹿・・今度会ったら許さないんだから・・・。」

 「そういうのは本人に言ってくださいよぉ・・・。」

 「言えるわけないじゃない。今度はお手玉どころか、キャッチボールさせられるわ。」


 先程より一層五月蝿くなったウロバエの搭乗席にて、ナンシーとダニエラが過去話に花を咲かせている。

 他に何か話す話題は無いのかと、エーリヒはうんざりしていた。

先程から彼は席付近に居られなくなり、仕方なく少々危ないが、動くウロバエの脚部の一本に備え付けられた梯子に、エーリヒは片腕で掴まりながら、自分の頭上で飛び交う話を鬱陶しそうに聞いていた。

 彼女等のパートナーであるバルドゥルとクリストフ老人は黙り込んで、搭乗席に腰掛けている。

 やはり、クリストフ老人の為に搭乗席のスペースを確保するのはまだわかるが、何故実体のない立体映像のために、自分が梯子に掴まっていなければならないのかと思った。


 月光に照らされながら、ウロバエの巨体はゆっくりと駅へ向かっていた。

 もう駅では、先に到着した区の連中が動いているかもしれない。

 北区がどうなっているのかはわからないが、先ほど南区が全滅したので、駅にて合流できる機体は3機となる。

 だが、それはあくまで希望的観測であり、北区の連中が無事に駅まで辿りつけたかどうかはわからない。

 先程から無線を拾おうとしているのだが、どうも北区と思わしき通信は拾えない。

 

 「おい、エーリヒ!北区の連中はどんな連中なんだ?」

 「なんだって?!聞こえない!エンジン音がうるさすぎる。」

 「畜生。・・・・おら、これなら聞こえるだろ。・・北区の連中はどういう奴らなんだよ。」

 「あぁ・・・まぁそうだな、私と比べれば反企業活動に身を置いた時間が長い連中だよ。天使とも何度か渡り合ってきたはずだから、そう簡単に全滅はしていないとは思うが・・・。」


 わざわざエンジン音を小さくするために、ウロバエの歩行速度を大分緩めて、エーリヒにバルドゥルが問いかけると、彼はそう答えた。

 そして、北区には大戦経験者も何人か混ざっているらしい。



 その頃、月明かりが雲に隠されたとき、駅のホームにて、線路内に一機のアンゲロイが突っ立っている。

 だが、先ほどクリストフが対峙した時より、そのアンゲロイの動きは鈍重で、必死にホーム内に潜む連中を見つけようと、頭部に搭載されたカメラを忙しなく動かしている。


 「どこだっ!どこにいる?!」


 パイロットはそう喚き立てながら、カメラで周囲を見回すが、暗闇に潜む敵の姿は見えない。

 数時間前に駅に反乱分子が集結したとの報せを受け、現場に急行し、ホーム内に侵入したとの警備部の報告を受け、ここにやってきたのだが、敵の姿が確認できない。

 ホーム内の照明は既に全て反乱分子共に破壊されていたため、ホーム内は暗闇であるし、サーモグラフィーを使用し暗闇に潜む連中を見つけようとしたが、事前にそれを警戒されているらしく、ホーム内で赤外線を扱うことができなくなっていた。


 「落ち着いてエトムント・・すぐ近くに・・。」

 「そんなことわかってる!だから慌ててるんだろうがっ!」


 パイロットの傍らにて彼を落ち着かせようとするアムブの健闘も虚しく、彼は半ば恐慌状態に陥っていた。

 滅茶苦茶に周囲に向けて腕部に搭載された機関銃を発砲したが、何かに被弾した音すら立てない。

 普段なら連中はアンゲロイの巨躯を見ただけで、逃げていくはずなのだが、今夜の連中はひと味もふた味も違うようだった。


 「喰らえっ!」


 そんなパイロットの耳に、周辺マイクから怒号を発する者の声が入った。

 素早く機体をその方向へ反転させようとしたが、慌てていたせいもあり、狭いホーム内の柱に機体が衝突し、一時的に身動きが取れなくなった。

 そして、その瞬間にメインカメラから強い閃光が放たれ、パイロットの目を眩ませる。

 既に完全な恐慌状態になったパイロットは辺りに発砲を加えるが、その際にも次々に強い閃光がモニターから放たれた。

 いや、閃光だけではない。

 閃光と共に強い熱がコクピット内に伝わった。

 そして、その熱は徐々に耐え切れないほどの熱となって、パイロットを襲い始めた。

 パイロットは悲鳴を上げて周囲に銃弾をばら撒き始め、アムブはそれに対して、成す術無くただ嗚咽を漏らした。


 ふと、カメラから閃光が止み、パイロットの視界が急に良くなった。

 既に熱の感覚は感じなくなっていて、連中の攻撃が止んだのかと一瞬思ったが、どうやら肌の神経が既にやられてしまっているとは本人自身気づいていなかった。

 だが、その事に気付く前にパイロットはモニターの前に映る敵に目がいった。

 薄汚れたオリーブ色をしたロングコートを身にまとい、ボサボサの黒髪を振り乱し、目は肉食獣の如くこちらを睨んでいる。

手には反乱分子共が好んで用いる火炎瓶が握られている。

 そして、火炎瓶を握った男が、パイロットに向かって、何か口を動かして言った。

 しかし、パイロットには男が何を言ったか理解する前に、男がこちらに向けて瓶を投げつけると、先程よりまた一段と強い閃光がコクピット内で放たれ、彼の意識はそのまま暗転し、もう目覚めることはなかった。



 「北区に・・大戦の頃の知り合いとかいたっけな・・。」

 

 ふとウロバエの操縦桿を握りながら、バルドゥルが呟いた。

 その彼の呟きに対して、クリストフが頭を掻きながら答える。


 「前線部隊の生き残りが何人か混じってたろ・・・あぁと・・誰だっけな?」

 「俺もよく覚えてないんだ、軍曹。・・・・ナンシーぃ?お前覚えてるか?」

 「えぇとですねぇ・・。あー・・・クレーメンスさんじゃぁないですかね?」

 「あぁ擲弾兵の・・・いや爆弾オタクって言ったほうが良かったか?」


 揺れる機体の上で、バルドゥルは少し昔の事をぼんやりと思い出していた。

 対アムブ戦において、機体に寄生したアムブを相手にする歩兵というのは大戦中期頃から存在する。

 現に機体などが無い場合は歩兵で相手するしかないし、死語とも言える昔の言葉を使って対戦車兵と言えばいいのか、生身で装甲の厚い化物を相手にする連中だ。

 何かバズーカだのなんだの少し距離をおいて扱える代物が、魔女と呼ばれた臨時編成部隊にあればよかったのだが、そんな贅沢な代物は無く。

 機体などが撃墜されてもなお、戦場に赴かなければならなかった連中は、もっぱら火炎瓶などの簡易兵器を大量に制作し、それで立ち向かうしかなかった。

 その分野においてクレーメンスは秀でていた。

 簡易的な兵器を最大限に利用する術を心得ていて、とっくに自身の機体は撃墜されていたが、同じような連中を率いて大戦を駆け抜けた戦友である。


 「確かにアイツなら、機体相手にするのに向いてるわな。」

 「テロリストに爆弾は付き物だよな。」


 クリストフとバルドゥルは乾いた笑いを顔に浮かべた。



 「中身を確認するのは後だ。上の連中を片付けに行くぞ。」


 純白の機体から噴き出す黒煙に少し呆気にとられている仲間を窘め、クレーメンスは懐からやや大きい作りの拳銃を取り出し、仲間を先導する。

 10人ほどがこのアンゲロイを仕留めるのに駆り出されたのだが、ホームに機体を誘い込み、天使の機動性を削ぐ作戦によって、被害はごく僅かで済んだ。

 この様な見え見えの罠に嵌るとは、天使の技量も大したないと彼は思った。


 

「さっき何を言ったんですか?」


 そう彼らがホームを去り、仲間たちと駅の上層へ続く階段を駆け上がっていると、横から一人の若い仲間が話しかけてきた。


 「何が?」

 「なんか敵機の前で喋ってたじゃないですか。音がすごくてよく聞こえなかったんですけど・・・。」

 「あぁ・・別に対した事じゃないよ。」

 「『俺の前では耐熱装甲も紙切れ同然!』よ。」


 そうクレーメンスが若い仲間の質問を誤魔化そうとすると、彼が片手に握っている拳銃から立体映像が現れた。

 わざとクレーメンスの低い声を真似して、愉快そうに言ってのけた。


 「エッバ!やめろって!」

 「この人、痛々しい事平気で言うから嫌いよ。」


 それに対して彼は渋い顔をするが、エッバと呼ばれた長い茶髪を後ろで束ねたアムブは、どこ吹く風と全く気にすることなく続ける。


 「皆に配ってた瓶作ってた時もね・・」

 「頼む!それは言うな!それだけはっ・・・。」


 そう必死そうな顔になる北区のリーダーであるクレーメンスを見る若い仲間は、思わず必死な彼に吹き出しそうになったが、流石にリーダーの事を笑うのは不味いと、笑いをこらえるのに必死になっていた。


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