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凄腕の毒使い、五歳児を拾う【短編】  作者: キタノユ


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第3話 自称、弟子

 藍鬼が救った子ども――少年は、せいと名乗った。

 年齢は不明だが、発育状態から察するに、就学前の五つか六つといったところだ。


 身寄りを亡くし天涯孤独となった幼な子を森で飼うわけにもいかず、藍鬼は青を、凪之国の都へ連れて帰った。


 ツテを頼って孤児院へ預け入れ、身分証の手配も、時期が来れば学校に通えるよう根回しもした。

 これで、藍鬼の役目は終わったはずだった。


 ところが。


「師匠!」

 弾む息と共に、青が茅屋ぼうおくの引き戸を勢いよく開け放った。

 土埃が舞う入り口の向こう、逆光の中に小さな影が満面の笑顔で立っている。


「戸は静かに開けろ。誰が師匠だ」

 藍鬼は薬研やげんく手を止めず、淡々と注意した。

 これで何度目か。


「だって僕、ししょーの弟子になったんだもん」

 悪びれもせず、青は当然のように板の間へ上がり込んでくる。


「勝手なことを言うな。俺は弟子はとらない」

「じゃあ、僕が勝手に弟子になる!」

「屁理屈を言うな」


 藍鬼は薬研の縁を指で叩き、顔を上げた。

 仮面の奥から、冷ややかな視線を送る。


「帰れ」

「やだ」

「送ってやるから帰れ」

「やだ!」


 青は頬を膨らませ、地蔵のように座り込んだ。

 力ずくでつまみ出すことは容易いが、それをすれば次は駄々をこねて泣き喚くだろう。

 毒針一突きで倒す訳にもいかない分、妖獣より厄介だ。


「……はぁ」

 仮面の下から、藍鬼は重い吐息を落とす。

 無視を決め込み、作業に戻ることにした。


「お薬作ってたの? 僕、お手伝いするね!」


 藍鬼の背中越しに、青が手元を覗きこむ。

 床には大判の半紙が拡げられ、大小の擂粉木すりこぎ、薬研、箱からあふれる乾燥した薬草、怪しげな色の液体で満たされた瓶などが所狭ところせましと並んでいる。


「……邪魔はするなよ」

 藍鬼が短く告げると、青の顔がぱあっと輝いた。

 追い返す理由を考えるのも、説得するのも面倒になっただけだ。

 どうせすぐに飽きて音を上げるだろう。


 だが、藍鬼の予想は裏切られた。

 自称・弟子は「邪魔をするな」という言いつけを守り、黙々と雑用に勤しんだ。


 藍鬼が薬草をすり潰している間、飛び散った草や木の実のカスを、小さなほうきでサッと掃き清める。

 使い終わった乳鉢が出れば、すぐに裏の小川へ走って洗い、布で拭いて戻す。

 中途半端に余った材料を、種類ごとに分けて箱へ収める。


 特筆すべきは、集中力だ。

 青は藍鬼の作業工程を、穴が空くほど見つめている。

 次に何を使うか、何が不要になるか。

 じっと観察し、先回りして動こうとする。


 思いのほか、使える。

 藍鬼は手元の薬研に視線を落としたまま、内心で片眉を上げた。


「お前、学校はいつからだ」

 青の働きによって、想定よりも早く調合作業が終わった。

 片付いた板の間で、藍鬼は湯を沸かしながら問うた。


「卯月からなら、もうすぐだろうに」

「うん。でもまた来る。来てもいいでしょ?」


 青は藍鬼と向き合う位置にちょこんと座り、背を正して真っ直ぐに仮面を見上げてくる。

 学校が始まれば忙しくなって来なくなるだろう――そんな藍鬼の思惑を先回りしてきた。


 藍鬼は沸いた湯を茶碗に注ぎ、青の前に置いた。

 子どもが好む菓子など、この小屋には置いていない。


「……熱いぞ」

「いただきまーす!」


 湯呑みの中に夢中になって息を吹きかける青を眺めながら、都のどこに行けば菓子が買えるだろうか、などと考える。


「いやいや……待て……」

 黒い仮面の下から、本日何度目かわからない、しかし幾分か軽い溜め息が漏れた。

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