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1本の缶コーヒー  作者: 暦海


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1本の缶コーヒー

『――いやぁ、実は昨日まで4連勤だったんだよ。もうヘトヘトで』

『うっそ、きっつ! 学生なのに、バイトと両立なんてマジ尊敬!』

『ほんときついよね。あたしも、この前3連勤でさ。もう勘弁って感じ』



 そんな暗鬱な思考の最中、ふとそんな会話を思い起こす。つい先日、大学構内で交わされていた男女生徒達の会話を。……へぇ、大変なんだね、4連勤とか3連勤って。それに、学業とバイトを両立してたら尊敬ものなんだ。だったら、4連勤どころかほぼ毎日両立してる学生の僕にはひれ伏してもらえるのかな? ……なんて、分かってる。彼らは何も悪くない。ただの僻みだってことくらい、分かってる。


 ともあれ、そんな自己嫌悪を携え入ったのは小さな公園。寮に戻る前に、缶コーヒーを買ってここのベンチでひと休みするのが習慣となっていて。1日の中で、僕の唯一の憩いの時間だ。そういうわけで、公園内部の自動販売機へと足を進め――



「…………ん?」



 その最中さなか、いったん通り過ぎようとしたベンチに視線を移す。確かに、誰もいない。ベンチにも、見渡す限り園内の何処にも。だけど……そのベンチの隅には、まだ手のつけられていないであろう1本の缶コーヒーが置かれていて。



 しばし、立ち止まり見つめる。それは、奇しくも僕がいつも飲んでいるコーヒーと同じもので。誰かが、ついうっかり忘れて――本来なら、そう考えたと思う。だけど、今回に至ってはそうは思えなくて。と言うのも、その缶コーヒーが――



【――いつも配達お疲れさま。ささやかだけど、良かったら飲んでゆっくり休んでね】



 そう、少し崩した可愛い文字で書かれたメモ用紙の隅に置かれていたから。……いや、もちろん僕宛てとは限らない。確かに、この区域は僕の担当だけど、当然のこと新聞社は他にもたくさんある。したがって、他の社にもこの時間のこの区域を担当している方々もきっとたくさんいるわけで。

 それに、そもそも新聞とも限らない。配達と書いてあるだけなのだし、他の――例えば、牛乳屋さんに対してのものかもしれない。あと、仮に――本当に仮に、僕に対してだとしても……うん、ちょっと怖いしね。


 そういうわけで、いつも通りいつもの自販機で缶コーヒーを購入。うん、やっぱり自分で買ったコーヒーは美味しいね。 





「…………はぁ、辞めたい」



 それから、翌朝のこと。

 今日も今日とて雪の降る空の下を、ゆっくりと自転車を押しつつ歩いて行く。……はぁ、やっと終わった。他の季節もだけど、冬のこの時間は特にきつい。


 ともあれ、心身共に疲労を携えいつもの通り公園へと入る。そして、ベンチへと到着し……あっ、今日もあった。昨日のがそのまま……ではなさそう。昨日と位置が違うし、少し触れてみると暖かいし。ともあれ、今日もやはり自分で――


 ――だけど、足はピタリと止まる。と、言うのも――


【〇〇新聞の配達、お疲れさま。良かったら、これを飲んでゆっくり休んでね】


 そう、昨日と同じ可愛い文字で綴られたほぼ同じ文章が目に入ったから。違うとすれば、そこに僕の配達している新聞の名前が追加されていることくらいで。……うん、どうやら僕宛てで間違いなさそうで……うん、やっぱりちょっと怖い。


 とは言え……さて、どうしよう。怖い、とは言ったものの、別に害をなされたわけじゃない。どころか、労をねぎらってくれてるわけで。流石に、これに毒が、なんてことはないだろうし……それに――



「…………うん、あったかい」






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― 新着の感想 ―
どっちなんでしょう! ドキドキとソワソワの同居ですっ
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