88:震えるほどに凍えて、足掻くほどに燃える ※
引き続き第三者視点となります。
ご注意ください。
「「「ーーーーー!」」」
「アレは俺っちたちが対処する! お前らは……頑張れ!!」
「『闇軍の魔女』様の魔術を上手く活用してくださいませ」
「りょ、了解です!」
ジャンとグレイシアが目撃したキマイラは王城の倉庫に現れているものよりも一回り小さいもので、頭は狼、山羊、蛇の三つ。
だが、脚は十を超え、腕や翼のような物が見え、まるで子供が粘土で適当に作ったかのような、あるいは悪夢の中に現れる怪物のような姿をしていた。
そして、体の半分ほどが瓦礫ではなく肉体を取り戻しており、人間を明らかに狙っていた。
キマイラが魔術を使える状態かは分からない。
だが、その巨体だけでも脅威である事は確かで、ただ暴れるだけでも戦列が壊滅的な被害を受ける事は確実だった。
故にジャンとグレイシアは、アレは自分たちが対処するべき魔物である。そう判断して、行動を開始。
周囲に居る他の魔物はグレイシアの魔術で転ばせて一時的に無力化しつつ、ジャンの魔術を浴びせる事で気を引き、誘導。
二人は戦列から離れ、既に他の人間が居ない街中を、キマイラの気を引きながら駆け続ける事となった。
「アレだな。アレに似た奴が宮廷魔術師長たちが相手をさせられている大物なんだろう。もう何発も『フレイムランス』を撃ち込んだが、まるで効いている気がしない。そりゃあ、宮廷魔術師長たちもそっちに専念するしかないよなぁ!」
「全面的に同感でございます。わたくしの『不安』を利用して、相手の急所に魔術を撃ち込んでいるはずなのですが、効いている気がしません」
「「「ーーーーー!」」」
ただ、幸いにしてキマイラの足は遅かった。
あまりにも多い足がお互いの動きを邪魔している上に、瓦礫で体が重かったからだ。
だから、ジャンとグレイシアには、逃げながらも考える余裕があった。
「で、グレイシア嬢はアレを何だと思う? 俺っちはノスタの魔道具同士が混ざり合ったものだと思っているんだが」
「わたくしもそうだとは思っていますが……。偶然では無く故意だと思います」
「根拠は?」
「「「ーーーーー!」」」
キマイラが飛びかかってくる。
それをジャンは身体能力を火のように燃え上がらせることで強化すると言うイメージで身体強化魔術を行い、身体能力を上げる事で回避。
グレイシアも自身の足裏に氷を生じさせ、スケートのように素早く滑る事で避ける。
「ノスタの最終目的は不明でございます。ですが、現時点の王都の状況から考えて、ノスタが王都の壊滅を目指している事だけは確実です。しかし、それを目指すのなら、わたくしたち宮廷魔術師に対処する方法は考えていないとおかしいでしょう」
「それがアレだと?」
「少なくとも、特別製と呼んでいい個体の一つだと思います。現にわたくしとジャン様の魔術では倒し切れていません」
「なるほど。確かにそうだ」
「「「ーーーーー!」」」
他の魔物たちも襲い掛かって来る。
だが、これらについてはキマイラほど強くはなく、ジャンとグレイシアが牽制として放つ魔術でも十分に足止めが出来るし、ミーメのヨモツシコメが時折現れては狩ってくれている。
「グレイシア嬢。俺っちに一つ試してみたい魔術がある。時間を稼いでもらえるか? 出来れば、あの可燃物が無さそうな辺りでだ」
「了解でございます。わたくしも一つ試したい魔術がございますので、それで足止めをしてみましょう。問題は詠唱をしている間の身の守りですが……」
「ふんぬ!」
「「「ーーーーー!?」」」
キマイラは再びジャンたちに飛びかかろうとした。
が、その前にジャンたちより二回りほど年上の男性が通りの影から現れると、魔術によって強化された拳でキマイラの狼の頭をぶん殴り、吹き飛ばす。
「はははははっ! デカブツが来おったか! 状況はよう分からんが、数秒は止めてやる!」
「『剛拳の魔術師』……まあ、助かったな」
「そうでございますね。では、急ぎましょう」
「「「ーーーーーー!」」」
「わっ、ちょっ、急いでくれぇ! こやつ感触がおかしい! 効いている気がせん!」
現れたのは宮廷魔術師の一人、『肉体』と『拳』の属性を持つ『剛拳の魔術師』。
キマイラは突然攻撃された恨みからか、ジャンとグレイシアの事など忘れたかのように『剛拳の魔術師』を追い回し、『剛拳の魔術師』はそれを回避あるいは攻撃に拳を当てる事で防ぐ。
ただ、その慌てようから長くは耐えられないとジャンもグレイシアも判断して、直ぐに詠唱を始める。
「ではわたくしから。冷気よ。凍えるほどに冷えよ、震えるほどに冷えよ、不安を覚えるほどに冷えよ。目の前が霞むほどに。気が遠くなるほどに。不安になればなるほど、安心から遠のけ。『イーリィズグレイシア』」
グレイシアは杖を構え、詠唱し、魔術を発動する。
生じた冷気は直ぐにキマイラにまで届き、それを見た『剛拳の魔術師』は直ぐにその場から安全圏にまで退き、そのまま次なる獲物を探し求めるように何処かへと去っていく。
だからキマイラは『剛拳の魔術師』を追うのを諦めて、ジャンとグレイシアの方へと向き直り、そこで自分の身に届いた冷気を感じて……身を震わせてしまう。
「「「?」」」
キマイラは些細な違和感を覚えつつも前に進もうとする。
だが、その動きは今まで以上に鈍かった。
寒いからだ。
そう、寒い。
寒かった。
だからキマイラは、本能に従って、体を温めるべく体を震わせて……。
「「「!?」」」
一気に体の芯まで凍り付く。
それはキマイラにとって理解できない現象だった。
だからこそキマイラは恐怖し、不安を覚え、寒さと恐れから身が勝手に震え、更に凍り付いていく。
そして、その凍っていくと言う事実が更なる冷えを招いていく。
「残念ですが、そう簡単には動く事は出来ません。これはそう言う魔術ですので」
『イーリィズグレイシア』。
それは『氷』と『不安』の二属性を組み合わせた魔術であり、指定範囲内で動くもの、震えるもの、不安を覚えたものほど大量の熱を奪われていく効果を持つ。
つまり、領域内の生物を急速凍結する魔術だった。
「ジャン様!」
とは言え、キマイラは肉の部分はあれど、その大半は瓦礫で出来ていて、凍るだけでは致命傷には程遠く、ただ動けなくなるだけだった。
「おう! 我が槍に宿れ。火よ。喰らう火よ。薪を喰らいて燃え盛れ、血を啜りて燃え盛れ、全てを喰らって灰を生み続けよ! 我が槍が燃え尽きるまで!! 『パーガトリージャベリン』!!」
「「「ーーーーー!?」」」
だから、そこへジャンの放つ、炎を纏った投げ槍が突き刺さった。
槍はキマイラの胴体に突き刺さり埋まると、そこから全身へと燃え広がっていく。
その勢いは『イーリィズグレイシア』で凍結するよりも早く熱せられ、キマイラの体を壊していく。
「「「ーーーーー!?」」」
「悪いがその炎、消せると思うなよ。なにせ、俺っちも手を焼いている炎なんでな」
だが、『イーリィズグレイシア』で凍結していた体が解凍されたことで、キマイラは自由を取り戻し、地面を転がることで、自らの炎を消そうとした。
しかし、既に炎はキマイラの全身に回っている上に、もみ消されるよりも早く燃え広がって、燃やし続ける。
「ミーメ様の黒炎を基に考案された魔術でございますか?」
「ああそうだ。あの検討会で知ってから、一応は研究と練習をしていたんでな。調整は難しいが、何とかものにはなった」
「「「ーーーーー!?」」」
そしてそこで奇妙な事になった。
『パーガトリージャベリン』が放たれても『イーリィズグレイシア』は維持されていたからだろう。
キマイラの身体は『イーリィズグレイシア』で凍り付いて動きが止まり、動きが止まれば『パーガトリージャベリン』の火で焼かれて解凍される。
そこで解凍されたキマイラの身体は火から逃れようと動き、火をもみ消そうとして、再び『イーリィズグレイシア』で凍り付く。
それはまるで砂漠の昼と夜を繰り返すかのようだった。
そうして何度も何度も凍結と解凍を繰り返し。
キマイラの身体は肉で出来た部分も瓦礫で出来た部分も急速に劣化し、砕け散っていく。
キマイラの体を保っていたノスタの魔道具も劣化に巻き込まれて、込められた魔術も、魔力も、道具そのものも失われていく。
巨体の奥底に隠されて、厳重に守られていた、それが失われる。
結果。
「「「ーーーーー……」」」
キマイラの身体は崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
「ああなるほど。考えてみれば当然か。アレは結局、ノスタの魔道具によって生み出された魔物だもんな」
「つまり、ノスタの魔道具が失われれば、それで命運が尽きるのでございますね」
キマイラが動かなくなったのを見て、ジャンとグレイシアは少し息を吐く。
そして二人ともに周囲を見渡してから……。
「さて、落ち着きたい気分だが、まずは安全圏まで退かないとな」
「そうでございますね」
「「「ーーーーー!」」」
自分たちに襲い掛かって来る魔物たちを退けた。
なお二人とも、この後は安全圏まで一度戻って、呼吸を整える模様。
『イーリィズグレイシア』も『パーガトリージャベリン』も使い慣れていない魔術なので、体力も魔力も消耗が大きいのです。
01/27誤字訂正
01/28誤字訂正




