87:ジャンとグレイシアの戦い ※
今回は第三者視点となります。
ご注意ください。
「『フレイムランス』!」
「ーーーーー!?」
ジャンの放った炎の槍によって、瓦礫で出来た猿型の魔物が貫かれ、焼かれ、絶叫を上げながら動きを止めて、ただの瓦礫に戻っていく。
「『クリティカルアイスシード』!」
「「「ー? ーーーーー!?」」」
グレイシアの放った氷の粒が瓦礫で出来た狼型の魔物たちの体に付くと、直ぐに大きくなってツララのようになる。
そして、周囲の騎士や兵士たちがそのツララを押し込むと、それだけで魔物たちは致命的な何かを貫かれたように絶叫し、動きを止め、瓦礫に戻っていく。
「よしっ! 次行くぞ!」
「了解でございます」
「ありがとうございます! 『焔槍の魔術師』様、『凍えの魔女』様! 後は我々にお任せを!」
ミーメたちと分かれて行動を始めたジャンたちは、平民街目指して王都を駆けていた。
その道中、当然のことながらジャンたちはノスタの魔物に遭遇。対処を迫られる事となった。
だから、ジャンは『火』と『槍』の二属性を組み合わせる事で大火力を得た炎の槍を叩きつける事で、自分たちの進路を塞ぐ魔物を倒す。
グレイシアも『氷』と『不安』の二属性を組み合わせる事で、魔物自身も把握しているとは限らない急所……ノスタの魔道具本体に氷を付着させ、ツララを生やす事で、弱点を示し、自分たちが去った後でも簡単に倒せるようにしていく。
「そろそろ平民街だが……」
「分かれて行動している余裕は無さそうでございますね」
「同感だ」
やがてジャンとグレイシアは平民街に辿り着く。
そこで見えたのは、人々が逃げ惑いつつも、兵士たちに促されて大きめの建物や広場に誘導されていく姿。
そして、そうやって集められた人々を襲おうと駆けて来る、瓦礫で出来た魔物たち。
そんな魔物たちを塞ぎ止めて、侵攻を防ごうとする兵士、騎士、魔術師たち……だけでなく、市井の人間でも狩人や元兵士のように戦える人間は武器を手に取って、戦いの場に臨んでいた。
「貴方方は!?」
「宮廷魔術師の『焔槍の魔術師』と『凍えの魔女』だ!」
はっきり言えばこの場の戦況は良くなかった。
土属性魔術師の作る壁に、手近な家財道具を積み上げて作ったバリケード、身を隠せるほどに大きな盾を並べる事で戦線を作り出し、人々は抗っている。
だが、魔物たちの強烈な一撃を防ぎ切ることは叶わず、少しずつ負傷者が増えつつあったし、傷が無い者も疲労の色が濃くなりつつある。
突発的な状況であったために、戦いの心構えが出来ていなかった人間が多かったのもマイナスに作用している。
おまけに、戦線に貼り付いている魔物たちは、何処かからか駆けつけるように、少しずつ増えている。
このまま状況が推移すれば、遠からず犠牲者が出る事は間違いないだろう。
「今から援護する! 炎よ! 分かれ! 燃え盛り! 無数の投げ槍となりて、輝く火の雨が如く降り注げ! 『ボルカノジャベリンレイン』!!」
だからジャンは躊躇わずに自分の持つ強力な魔術の一つを切る。
ジャンの手元と背後に幾つもの炎の塊が現れて、炎の塊は複数本の投げ槍に変化。そして、手で握っている炎の投げ槍が投じられる動きに合わせて他の槍も飛び……。
「「「ーーーーー!?」」」
新たに戦線へ加わろうとしていた魔物たちへと降り注いで、貫き、内外から焼き尽くしていく。
全てではないが、多くの魔物が手傷を負う。あるいは動かなくなっていく。
「こちらはわたくしが応じます。氷よ、大地を覆え。不均衡に、不均一に、踏み締める誰もが不安を覚えるように。『ディストーテッドアイスフィールド』」
グレイシアもジャンが仕掛けたのとは別の方向から来る魔物たちに向かって魔術を発動する。
ただし、その魔術が効果を発揮したのは魔物たちそのものではなく、魔物たちが踏み締める、あるいは踏み締めようとしていた足場。
舗装された王都の道が氷に覆われていく。
だが、それはただの氷ではなく、傾斜や厚み、溶け具合がランダムに設定された不安定な氷であり、非常に転びやすい氷だった。
「「「ーーーーー!?」」」
そしてグレイシアの狙い通りに。
氷のカーペットに足を踏み入れた魔物たちが次々に転び、積み重なり、滑り、勢いが適度に殺されて、戦列を形成している人々の前に転がり出て、待ち構えていた彼らの攻撃によって次々に叩き潰されていく。
「うおー! 宮廷魔術師様たちに負けるな! 我らも奮起するのだ!!」
「「「おおぉぉっー!!」」」
ジャンとグレイシアの魔術に後押しされるように、騎士の誰かが声を上げて、少しだが持ち直し、押し返す。
魔物たちをどうにかして抑え込むと、集団で武器を振り降ろして、その動きを止めていく。
「……。肉有りの魔物か。そう言う事なんだろうな」
そうして戦いが続く中でジャンは気づく。
自分たちに襲い掛かって来ているノスタの魔道具によって生み出された魔物たちは、形状だけでなく、体の構成素材によっても分けられる事に。
殆どの魔物は体が岩、土、木材と言った物で出来ている。
だが一部の魔物はそこに肉が混じっていて、中には全身殆どが肉で出来ていて、姿の元になっているであろう魔物の姿をほぼ取り戻している魔物の姿もあった。
その肉が、何処かの肉屋や露店の商品を貪り食った結果ならいいが、自分たちに襲い掛かって来る魔物たちの姿とノスタの魔道具の起動前の形が装飾品であったことを合わせて考えれば、何処から得た肉であるかは明らかだった。
「グルアッ!」
「ぐあっ!?」
「イズミ!? 急いで救護班に回せ!」
そんな中で、体の殆どを取り戻した狼型の魔物が突如として火を吐き、騎士の一人が負傷。
騎士は引き摺られるようにして戦線から剥がされる。
また、火を吐いた狼型の魔物は集中攻撃をされて、あっという間に物言わぬ骸に返る。
「魔術!?」
「魔物が魔術を使う事自体はおかしくございません。ですが……」
「ああ。魔道具で生み出されているはずのコイツらが使うとなったら、色々とヤベエぞ」
この状況で貴重な戦力である騎士が一人戦線離脱させられた事実はそれなりに大きい。
だがそれよりも重大な出来事にジャンもグレイシアも反応せずにはいられなかった。
それは、魔道具によって、体の形と本能だけが再現されたと思われていた、この魔物たちが魔術を使ったと言う事実。
しかも使った魔術は火属性の魔術であり、明らかにノスタの魔道具とはかけ離れた効果だった。
「ジャン様。条件はどう見ますか?」
「希望的観測をするなら、体の大半を取り戻した魔物に限定。ってところだろうな。つまり、被害者がこれ以上増えなければ、魔術を使う魔物も増えない。と思う」
「同感でございます」
ジャンは口でそう言いつつも、少し考えてしまった。
ノスタは何故このような魔術を生み出したのだろうかと。
そして直ぐに結論は出た。
ノスタは10年前に滅んだスデニルイン辺境伯領の出身だった。
滅んだ領地の人間なら、復興を望む事も当然の事だろうし、可能ならば死んだ人間の復活くらいはしたいと思ってしまうだろう。
ジャン自身にもそう言った思い自体はあるからだ。
だが、それは上手く行かなかったに違いないと言う結論も直ぐに出た。
上手く行ったのなら、ノスタはこんな事をしていないだろうし、そもそも肉体を再構築しただけで復活できるほど人間とは……否、生物とは単純ではない。
今しているように、本能のままに暴れさせるのが限度だろう。と。
「恐れるな! 魔術を使える魔物はそう多くは……」
そうして二つの結論を出したジャンは、動揺している味方を落ち着かせるように声を張り上げる。
そんなジャンの視界の隅で、運悪く、あるいは狙ったかのように、ほぼ肉体を取り戻した黄色の瞳の熊が雷の塊を投げようとしていた。
ジャンもグレイシアもそれに気づき、急いで対応しようとしたが、既に熊は雷の塊を投げ切っていた。
今このタイミングで魔術による攻撃を受ければ、士気が落ち切って、瓦解しかねない。
二人はそう思いつつも、対処のための動きは間に合わず……。
「……」
「グマァッ!?」
「んなっ!?」
だが雷の塊は、何処かからか現れた全身黒一色のヒトガタによって切り裂かれ、空中で爆散。
人間ではなく魔物たちに被害を出す結果で終わる。
「「「……」」」
そして、その一人のヒトガタの登場に合わせるように、何処からともなく全く同じ姿のヒトガタが何体も現れて、魔物たちに襲い掛かっていく。
シルエットからして彼女たちと呼ぶべきヒトガタたちは直ぐに魔物に囲われ、反撃を受けて消え去ってしまうが、消えても直ぐにまた何処かからか現れて、また魔物に挑みかかる。
その光景にジャンもグレイシアも思わず呆然として……けれど、直ぐに誰の魔術であるのかに気づいて、正気を取り戻す。
加えて、何処からともなく現れた風で出来たハトが、とても大きな人の声を発して告げる。
『この黒いヒトガタは『闇軍の魔女』の魔術である! 味方である! 死なずに戦い続ける兵である! 故に利用せよ! 勝利のために役立てよ!』
「「「ーーーーー!!」」」
これは味方であると。
「いやすっげえな。ミーメ嬢」
「正に『闇軍』でございますね」
ジャンもグレイシアも直ぐに気付いた。
あの黒いヒトガタはミーメが普段使っている闇人間よりも一体一体は弱い、だが代わりに数を増やし、再生成を容易にしたものだろう、と。
同時に、この場には数体のヒトガタしか居ない事と、『風鳩の魔術師』がわざわざ伝令を行った事から、王都全域にヒトガタが散らばって配された事にも気づいた。
「まったくだ。だがそうだな。これなら、俺っちたちがやる事は大きく変わる」
「同意でございます。あの『闇軍』が対処できない、普通の騎士や兵士たちでは厳しい魔物を優先するべきでございます」
ジャンもグレイシアも同じ相手に目を向ける。
そこに居たのは、黄色の瞳を持つ熊……ではなかった。
そのさらに奥から、多頭多足の魔物……キマイラが姿を現していた。




