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トリニティアイ -転生平民魔術師の王城勤務-  作者: 栗木下
3:第二属性の魔術師たち

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86:ヨモツシコメ

「コイツはヤベェな」

 眼前に広がる光景に思わずと言った様子でジャン様が呟いていた。

 だが実際、ジャン様の呟き通りにヤバい状況ではある。

 どれぐらいの速さでノスタの魔道具が起動する指示が王都中に行き渡ったのかは分からないが、まだ状況が変化し始めてから30分も経っていないはず。

 にも関わらず、王城の正門上に居るワタシたちの視界に入る範囲だけでも、瓦礫で出来た魔物が数体居て、騎士たちと戦闘を繰り広げていた。

 そして、王都の外れの方……どちらかと言えば治安が良くない方では、火事が起きているのか、黒煙のような物が上がり始めている。


「まるでスタンピードでございますね」

 グレイシア様の言葉にジャン様とヘルムス様が頷いている。

 ワタシはスタンピードの現物に遭遇したことが無いので分からないが、三人の反応からして、今の状況と現物にはそこまで差が無いのだろう。

 つまり、早急に的確な対処をしなければ、王都全体……ひいては王国全体が拙いことになると言う事だ。


「悪い。俺っちはとっとと行くわ。王城近くでこれなら、平民街の方は本当にヤバそうだ」

「ジャン様。わたくしも同行させていただきます」

「分かった。ただ、向こうに着いたら、基本的には別れて行動だ。この状況だと、とにかく相手の数を減らさないとヤバい」

「了解でございます」

 ジャン様とグレイシア様が王城の門から飛び降りて、王城の外へと出て行く。

 高さ数メートルはあるはずなのだが、ジャン様は身体強化の魔術で、グレイシア様も氷の魔術で坂道と凍った道を短時間だけ生み出す事で、衝撃なく飛び降りて、勢いそのままに平民街の方へと向かっていった。


「ではミーメ嬢。私たちも……」

「いえ、少し待ってください」

 そして、ヘルムス様もそれに続こうとするが……ワタシはそれを止めて少し考える。

 今この場で一番必要なのは何か。その何かはどうすれば得られるのかを。

 数秒だけ考えて……。

 ヘルムス様もそれを待ってくれて……。

 一先ずの結論は出た。


「ヘルムス様。ヘルムス様の水の船で、王都の大半が視界に入るくらいにまで浮かび上がる事は可能ですか?」

「王城の一番高い塔までは試したことがありますが……いえ、やって見せましょう」

「分かりました。では一緒に上へと移動しましょう。まずはそこからです」

「なるほど。分かりました。水よ。水よ。浩々と湧き出して、小さき船の形を為せ。我らを乗せて運ぶ船となれ。『アクアボート』!」

 ワタシの指示に従ってヘルムス様が水の船を空中に出す。

 大きさはワタシとヘルムス様、二人が乗るのに十分な程度で、小さい分だけ小回りや速さには優れているのだろう。

 ワタシたちを乗せた船は直ぐに浮かび上がって、王城の尖塔よりも高い位置にまで浮かび上がっていく。


「……」

 はっきり言えば怖い。

 高さで言えば50メートルちょっとぐらいだろうか。

 だが、今世でこれほどに高い場所に来た覚えは無いし、風は強くて寒いし、足元の物はとにかく小さい。

 一応、落ちた時の備えは思いついているが……怖いものは怖い。

 どうやら、ワタシは高所が比較的苦手だったらしい。


「ミーメ嬢。どうですか?」

「少し待ってください」

 が、恐くともやるべき事はやらなければならない。

 ワタシは人間属性の応用で以って視力を強化して、王都の状況を改めて確認する。


 現状は……全体的には拮抗していると言えるだろう。

 ノスタの魔道具によって生み出された、瓦礫で体が出来ている魔物たちは確かに強力だ。

 邪魔な建物を粉砕し、人間を追い回し、立ち塞がる柵や盾を腕の一振りで破壊し、家畜の肉を貪っている姿が見えた。

 その数は少なくとも数百。建物の中や陰に居る者も含めれば千は確実に超えるだろう。


「恐ろしいですね。魔術は力であるとは、昔にワタシが言った覚えがありますが……。たった一人でこれほどの惨状を生み出すとは」

「そうですね。本当に恐ろしい事です。この光景を見たら、教える魔術の内容に制限を設けた過去の王や大臣、教師の判断に否は言えないでしょう。この力は得る者を選ばないと危険すぎる」

 いったい何時からノスタが準備を進めていたのかは分からない。

 だが、その魔物の数は、そのままノスタが抱いている何か……執着や執念の強さを表していた。

 それほどの情念を煮え滾らせ続けているなど、正気でない事は明らかだった。


 ただ、ノスタの魔物が強力と言っても、再現元となる魔物の強さにもよるのだろう。

 騎士と兵士合わせて数人で囲んで動きを止め、騎士と魔術師の魔術を用いた攻撃を撃ち込まれる事によって、一匹一匹、地道に狩っているのが現状だ。

 故に、今は拮抗している。


「「「ーーーーー!」」」

 そして場所によっては押し返してもいる。


 恐らくは『鉄弓』と言う方の魔術だろう。

 王城の尖塔から時々何かが飛んでは、その先に居た魔物を地面に縫い留めて、動けなくしている。


 また、赤くなるほどに熱せられたガラスで魔物の四肢と頭を覆う事で動きを止めている男性の姿や、指を差し向けるだけで魔物が押し潰されたかのように動きを止める事になっている男性の姿も見える。

 たぶん、前者が『硝子』で、後者が『石抱き』なのだろう。


 他にも、周りよりも魔術師の数が多いのか、あるいは指揮官が上手いのかは分からないが、効率的に魔物を狩ったり、人々が集まっている建物を上手く守れている集団もあるようだ。

 騎士も、兵士も、魔術師も、そして狩人や民間の魔術師たちも、全員が協力して抗っているようだった。


「ミーメ嬢。私はこのままスラム街の上空に移動し、この位置から魔術で火事を止めていきます。建物に多少の被害は出るでしょうが、火事を放置する事は出来ませんので」

「分かりました」

 騒ぎが特に多いのは、やはり平民街。それもスラム街と呼ばれるような治安の悪い方だ。

 単純に戦力が足りていない。

 そして魔物の数も多い。

 当然だ。兵士たちの数が足りずに目が行き届かないからスラム街になってしまうのだし、そう言う所にはノスタの魔道具をくすねて自分の物にしてしまった人間も多いのだから。

 おまけに、火事も起きていて、そちらに対処するための人員が必要になってしまっているから、魔物の対処に集中できていない。


 うん、『風鳩の魔術師』様の言う通り、ワタシたちはやはり平民街……それも外れの方に向かうべきだ。

 だが、ワタシたち二人がただ向かったところで、そこまで対処する速さが増すわけじゃない。

 もっと単純に、魔物に対抗できる人間の数を増やさなければいけない。


「ヘルムス様。出来るだけ地上に近づかないようにお願いします」

「それはどういう……。なるほど、分かりました。火事は上からでも消せるので、安心してください」

 やるべき事は分かった。

 魔力量にそこまで余裕があるわけでもない。

 なのでワタシは常駐の防御魔術は最低限にして、隠蔽の魔術は解除。

 普段は隠している第三の目を露わにする。

 が、この姿をヘルムス様以外の誰かに見られる心配はしなくていいだろう。

 今この状況で、空に浮かんでいる小さな船に乗っている人間の胸元を気にしていられる人間などそう居るものじゃない。


「では始めます。『闇軍の魔女』ミーメの名において命じる。闇よ、魔よ、畏れよ、我が下へと集え」

 片手で杖を持ち、もう片方の手を開き、周囲の環境から還元で魔力をかき集める。

 当然の事だが、普段よりもはるかに恐怖の感情が濃く、重い。

 だから急がないといけないと思い焦るも、構築を間違えるわけにはいかないと冷静になって、詠唱を進める。


「来たれ来たれ我が(しもべ)。骨は人、肉は闇、血は魔で、纏うは鍵。飾るは影、秘匿、恐怖、黒、侵食、死者、夢に遮光」

 ワタシの詠唱が進むのに合わせて、王都の各地にワタシの魔力が植物の根のように広がっていき、広がった先で魔術の詠唱通りに人の形が為されていく。


「持つ武威は兵士、騎士、良き隣人にして守護者。影より助け、万能の鍵を以って扉を開き、己が身を挺してでも人を守れ、魔を駆逐せよ」

 そうして現れたのは、最低限の防具を身に着け、両手に一本ずつ鎌にも斧にも見える武器を持った闇人間たち。


「汝が使命を果たせ! 『わたしのぐんぜい(ヨモツシコメ)』!」

 ただし、その数は合計1000体であり、最初から王都中に散開した状態で現れた。

 そう、今回使うのは『ひとのまのもの(ジャガーノート)』に似た、けれど多くの面において異なる魔術。

 『ひとのまのもの(ジャガーノート)』が一体の強固に構築された闇人間を生み出す魔術であったのに対して、今回の『わたしのぐんぜい(ヨモツシコメ)』は一体一体はそこら辺の騎士と同じ程度の実力しか持たない。

 だが、とにかく数が多く……そして、減らない。


 ヨモツシコメたちは直ぐに動き出す。

 近くに居たノスタの魔物に背後から襲い掛かって武器を振り降ろし、その体を粉砕する。

 兵士にトドメを刺そうとした魔物の攻撃に割り込んで耐えると、そのまま相手の体にしがみついて動きを止める。

 倒壊した建物の下から人々を救助し、安全圏まで駆け抜けて運ぶ。

 その場が片付いたなら、建物をすり抜けて、最短距離で次の場へと駆けていく。

 そして、魔物にその体を貫かれ、首をもがれ、噛み砕かれようが、驚いた味方の剣や魔術を浴びせられようが……数が減り次第、近くで復活して、己に課せられた使命を果たすべく次の行動を始める。


「これはまた、凄まじい魔術ですね。ミーメ嬢」

「ワタシのとっておきです。個の能力は普段の闇人間より一回り以上劣りますが、今この状況なら最適です」

「そうですね。これは私も頑張らねば」

 その性質上、ワタシに出来るのはオンオフだけで、細かい制御は効かなければ、情報収集も出来ないけれど、今この状況なら、それも問題は無い。

 ワタシの安全もヘルムス様が保証してくれているので、遠慮なく暴れ……いや、守って欲しい。


「それとミーメ嬢。この魔術については何処まで伝えても?」

「……。幾らでも復活するので、囮や盾として使って問題ないとだけお願いします」

「分かりました」

 と、ここでヘルムス様が『風鳩の魔術師』によって付けられた風のハトの頭を小突き、小声で喋り始める。

 これで王都中にヨモツシコメがどういう存在なのかは伝わるそうだ。

 うん、ワタシが解除しなければ無限復活するとは言え、敵と間違われて攻撃されるのは勿体ないので、これは素直に助かる。


「ジャン様とグレイシア様は大丈夫でしょうか」

「あの二人なら大丈夫でしょう。特にジャンは、ミーメ嬢程ではありませんが、相応に修羅場もくぐっていますので」

「だといいのですが……」

 さてこうなれば、ワタシは状況が変わるまで、魔術の維持をし続けているだけになる。

 だからワタシはジャン様とグレイシア様の心配をしつつ……。

 けれど別の事を考える事にした。

 ノスタが何処に居るのか、ノスタの第二属性は何なのか、ノスタの魔術は正確にはどんな働きをしているのかを。

 この事態の根本的解決を図るには、結局のところ、それを明らかにしなければいけないのだから。

わたしのぐんぜい(ヨモツシコメ)

質より数の四属性八顕現魔術の闇人間。

なお、千名の不死の騎士が、事前命令に従ってオートで動き回る上に、射程は王都の端から端まで届くぐらいには広い。

と言う情報を正しく理解すると、質より数ってなんですかと言いたくなるぐらいには理不尽。


でも、ドラゴンみたいな強すぎる個相手には確かに通用しないので、数を優先した魔術なのは事実である。

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― 新着の感想 ―
命名後に「闇軍」と言う字名が正しくなってしまった件。 まぁ複数の闇人形作った(これだと小“隊"であって軍ではない)時点で「第三属性で本気出せばこの数倍・数十倍は出せそう」って予想立てたんだろうけど。 …
>ヨモツシコメ 千体とはまさに「闇軍」ですね。
『わたしのぐんぜい』1「葡萄見つけた(もぐもぐ)」 『わたしのぐんぜい』2「こっちに筍があった(もぐもぐ)」 『わたしのぐんぜい』3~1000「「(わらわらわら)」」
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