79:身代わり人形
「それでミーメ嬢。何を作るのですか?」
「人形型の魔道具ですね。込める魔術次第で、用途は変わります」
ワタシはそう言うと改良した杖を右手に持ち、闇人間を何体も出す。
そして、出された闇人間たちは一斉に行動を開始。
予め準備しておいた藁を適当な長さで切り揃えると、紐を使って藁を人形の形に整えていく。
で、最後に胴体部分へ、ドラゴンの肋骨を入れていた箱に未だ入っていた物……ドラゴンの魔力を大量に含んだ真っ黒な液体を入れる。
勿論、液体のままではなく、ガラスのビンに移してだが。
「ミーメ嬢。今更ですが、この液体は?」
と、そんな作業を闇人間たちだけでやっているから、ワタシが暇だと判断したらしいヘルムス様が話しかけてくる。
まあ、記録には必要な事だろうし、答えておこう。
「ワタシは置き換え液と呼んでいます。魔法薬の一種ですね」
以前何処かで言った気もするが、魔法薬とは魔道具の一種であり、魔術を込めた水薬の事となる。
昔からあって、身近なものだから、別の名前で呼ばれる事になっているらしい。
「主な効果としては漬けた魔物素材から魔力を抜いて、代わりにワタシの魔力を染み込ませるようになっています。そうする事で、その後の加工などをしやすくするわけです」
「なるほど。そのような物が……」
「おいおい、ヘルムスの坊主。ここでその言葉は、流石に不勉強だぞ。素材の魔力の保有量だけが目当ての時には、この手の魔法薬での下処理はよくある事だ」
「そうですよね。ちなみにワタシのこれは防腐や、置き換え液に移った魔力の属性抜きなどをしているわけですが……。トギー様、王城には似たような物はありますか? ワタシの方はこれの作り方を出しますので」
「あるぞ。折角だ。組成や効能を書いた表を持って来てやる」
「……」
「ではヘルムス様。勉強しましょうか。魔道具の技術の必要性は分かっていますよね?」
「はい」
と言うわけで、下処理用の置き換え液に関する突発的な勉強会が発生。
ワタシはトギー様が持って来てくれた表を読み込んでいく。
うん、基本となる液体の部分だけ見ても、とても単純な煮沸した水から作る物もあれば、酒を使った物、液体状の何かを使う物、酸やアルカリを使う物など、色々とある。
そこからどのような魔術を付与する事によって、どのような置き換え液が作れるのか、置き換えが完了した素材にどのような変化が生じるのか、置き換え完了後の液体をどうするのかまで書かれている。
うんうん、こう言うのを見ていると、やはりワタシの魔道具技術は独学で、属性数による出力向上と前世知識の利用で何とかしているだけであり、技術や試行については市井の職人レベルでしかないのがよく分かる。
ワタシがまるで知らなかった情報がたくさん含まれていて、実に楽しい。
「ほー、なるほどな。闇属性の侵食や引き寄せ、破壊などを利用しているのか。その上で、外からの干渉に対しては可能な限り抑えて、ゆっくりと確実に入れ替えるわけか……。コイツは良いな。作れる奴は限られそうだが、この発想があるだけでも、こっちとしては助かる」
「なるほど。厄介な魔力を有する魔物の素材や、大量の魔力を有する素材を大量の魔力を蓄えられる素材に変えるための工程ですか。魔術で行わないのは、魔法薬なら勝手に反応が進み、維持する必要が無いから。合理的ですね」
「この置き換え液があれば……。いや、こっちの方が……」
工房の中には闇人間が作業する音と、ワタシたちの呟きだけが聞こえる。
なお、ワタシがトギー様に出した資料については、八顕現の情報を抜いて書いたものである。
なので、詳細まで見るとちょっと怪しいのだが……。
コンセプトなどはしっかりと書かれてあるので、許して欲しい。
「と、出来たみたいですね」
と、ここで闇人間が準備完了を教えてくれた。
机の上には人型の袋に入れられて、細身の人形のようになった藁人形が並んでいる。
頭頂部から一部の藁が髪の毛のように出ていて、その藁が細い紐で縛られているのも指示通り。
これで後は目的とする魔術を付与するだけとなる。
うん、ワタシが指示した通りの出来だ。
これほどに細かい作業を大した負荷もなく出来たのを考えると、杖の性能向上もしっかりと機能しているようだ。
「では、魔術を込めていきます。ヘルムス様」
「分かりました。記録しておきます」
今回作る人形は二種類。
なので、幾つもある人形を二つの集団に分ける。
「まずは呪い払いです。と言っても、効果を正確に述べるのなら、軽微の呪いを身代わりとして引き寄せ、内側に封じる。となりますが」
「ふむふむ。使用に当たっての注意事項などは?」
「人形の頭部から出ている藁が黒く染まっていたら、もう効果は無い証拠なので、塩水へ十分に漬けた後、燃やしてください。それで引き寄せた呪いごと灰になります」
「なるほど」
で、まとめて魔術を付与。
内容としては、『闇』から呪い、引力、破壊と言った要素を、『人間』から呪い視点では人間だと誤認させる効果を、『万能鍵』から頭部の細い紐を切った時に効果を発動するようにトリガーを設定、そして『魔力』によって全体を底上げするように。と言った具合だ。
なお、最後に魔術を維持するための魔力は、人形の中に仕込んだ置き換え液から持ち出すようにする事で、維持できる時間を伸ばせるようにしておく。
これでお手軽呪い除け人形の完成である。
まあ、ワタシの呪いに関する知識は素人ではないけれど、アンカーズ子爵家のような専門家ほどでは無いと思うので、今回のこれは一時しのぎの品になってしまうだろうけど。
うん、時間を見て、アンカーズ子爵家の資料も見せてもらわないと。
「次に身代わりですね。こちらは魔力を登録する事で、人形の魔力が切れるまで……十分ほどか、人形が壊れるまでですが、人形が傷を引き受けてくれます」
「それは素晴らしい魔術ですね」
「起動に一手間かかるので、改良案などが欲しい所ではありますけどね」
続けて、もう一つの人形集団にも魔術を付与。
お披露目会でソシルコットを気絶させる時に、殺さないようにするために使った身代わりの魔術を込める。
これで、起動中は少なくとも一回くらいは、どんなに危険な攻撃を受けても大丈夫な身代わりの魔道具の完成である。
「改良案ですか」
「はい。単純に燃費が悪いと言うのもありますし、今は紐を切る時に魔力を込めつつ切らないと起動せず、起動させた後も人形と体を触れさせておくなど、色々と問題があります。特に起動条件はもう少し何とかならないかと思っているのですが……」
「まあ難しいだろうな。誰の身代わりをするのか、身代わりになる相手の状況をどう把握するのか。この辺りは手抜きも出来ねえ。確認の頻度も下げられねぇ。俺も直ぐには思いつかねえ」
「やはりそうですか」
まあ、改良案はそんな直ぐには出て来ないか。
ワタシもさんざん悩んで行き着いたのが、今の身代わり人形の起動条件なわけだし。
「とにかくこれで完成ですね」
「お疲れ様です。ミーメ嬢」
「お疲れさん。ミーメの嬢ちゃん」
それはそれとして、最後に闇人間が効果見極め用の目印を人形の表面に描いて、魔道具作りは完了。
後は机の上に並んだ人形型魔道具をどうするかだが……。
「ヘルムス様。この魔道具はどうしますか?」
「呪い除けの人形についてはディム殿に任せてしまいましょう。身代わりの人形は……さてどうしましょうか? 一先ずは宮廷魔術師の誰かに見せて、効果の保証をしてもらうべきだとは思いますが……。こちらで探しておきましょう」
「お願いします」
まあ、ヘルムス様に任せてしまうとしよう。
今回のこれは杖の改良の副産物を利用しただけであるし。
そうして、今日の魔道具作りは完了した。
01/18誤字訂正




