78:ミーメの杖
「よく来たな。ミーメの嬢ちゃん。ヘルムスの坊主」
「今日はお世話になります。トギー様」
「付き添いで来ました」
お茶会から数日。
ノスタ関係の状況が動かない中、ワタシは王城内の魔道具工房を訪れていた。
待っていたのは王城に入った頃にワタシの魔道具職人としての腕を見てくれたトギー様。
ワタシの後ろには見学する気であるらしいヘルムス様と、今日使う素材を持った闇人間が付いてきている。
なお、グレイシア様が不在なのは、少し前のグロリベス森林や先日のお茶会でワタシの話を聞いて、思いついた魔道具を制作する事に専念するためである。
きっと、工房の何処か……ワタシが使う物とは違う個室で作業している事だろう。
「あー、それで急な話になるんだが。悪い。ミーメの嬢ちゃんの作業を見たいって奴がかなりの数居るんだが……どうする? 嫌なら追っ払うが」
「魔術によって作業道具を作る技術の見学ですか? それなら別に構いませんよ。見せて減るようなものでもありませんし」
「助かる。足りない素材や工具があったら言ってくれ。かき集めて来る」
「ありがとうございます。でもそれは大丈夫なので、見学者が近づきすぎないように整理して貰える方が助かります」
「分かった。やっておこう」
さて、今日の工房の扉は開かれていて、そこからこちらを覗いてくる人の数は多い。
ワタシが以前使った魔術によって出来た工具の現物を見てみたいそうだ。
まあ、魔術工具そのものは見られて構わないし、第三属性周りの話題を出さないようにだけ注意すればいいだろう。
と言うか、その手の制限がかかる事で何とも言えない表情をしているのはヘルムス様の方である。
きっと雑談の体で色々と話したかったのだろう。
「それでミーメ嬢。今日は何を作るのですか?」
「作ると言うよりは、改良または改造ですね。弄るのは……この杖です」
ワタシは背負っている杖を机の上に置く。
そして、闇人間が持っていた箱を床に置き、その中からワタシの魔力が芯まで浸透したドラゴンの肋骨を取り出す。
「杖……。そう言えばミーメ嬢の杖はご自分で作られた物でしたか」
「その通りです。ワタシの杖はグロリベス森林で狩った魔物の骨から作った物です」
杖と言うのは魔術の行使を補助するための道具の総称である。
杖と言う名称から、ワタシやヘルムス様たちが持つ杖と同じ形を思い浮かべがちな物だが、実際には魔術の行使の補助さえ出来ればいいので、形も機能も千差万別な物である。
なので、形状だけ見ても、ワタシの使う大きな杖から、グレイシア様の使う指揮棒のような短い杖もあるし、市場には指輪やネックレスの形をした杖も存在する。
なおこれは余談となるが。
杖は厳密に言えば魔道具ではない。
魔術の行使を補助するための道具であって、魔術を込めた道具ではないからである。
ただ、世の中には杖っぽい外見をして、魔力を込めるだけで攻撃魔術が使える、杖型魔道具なんて物もあるので、杖もまた魔道具の一種として見られがちだったりもするのだが。
「どうしてご自分で? ミーメ嬢なら金銭面はどうとでもなったと思うのですが」
「金銭面はどうにかなっても、職人との伝手がありませんでした。それに、ワタシが求める機能は一般的な杖とは大きく異なりますので、それならまあ、自分で作った方が早くて、魔力の親和性も良いかな、と」
「なるほど。具体的には?」
杖の機能についても様々だ。
市販されているものだと、杖を通して行使した魔術の威力、精度または指向性、速度を高めるものが多いだろうか。
他にも、射程、数、範囲などなど、様々な部分に対して補助を掛ける事が出来る。
ではワタシの場合はと言うと……。
「基本的には”維持”ですね。ワタシの使った魔術は、杖を握っている状態なら、後は魔力の供給さえ絶やさずにいれば、杖が勝手に維持をしてくれます」
「そうなのですね。言われてみれば、ミーメ嬢の魔術に威力や出の速さは必要ありませんか」
「そう言う事ですね。それらは杖無しでも十分にあります。なので、こう言う杖になったわけです」
『ひとのまのもの』や『いのれるならいのれ』を使用する時に、他の魔術を使いやすくするための機能を盛り込んでいる。
具体的には、今述べた魔術の維持。それに詠唱途中の魔術の中途保存。要するに外部記憶装置のような振る舞いを出来るようにしている。
こういう事が出来るのは、杖の中に『人間』属性で脳に似た構造を作っているからなのだけど……まあ、この辺は黙っておいていいか。
「さて、準備も出来たようですし、作業をしましょうか。ヘルムス様、離れておいてください」
「分かりました」
とまあ、そんな話をしている間に闇人間たちが準備をしてくれたので作業開始である。
「展開」
と言っても、実のところ、そこまで難しい作業はしない。
杖を縦に真っ二つにして、杖の中身の一部を掘削して取り除く。
そうしたらドラゴンの骨を闇魔術で溶かして圧縮してまとめた物を、掘削した部分へ挿入。
挿入したら圧縮ドラゴン骨の表面を闇魔術で溶かして、周りの素材と一体化。
最後に真っ二つにした杖を元通りにくっつければ、形については完成。
「調整を開始します」
続けて機能の付与を始める。
まずは髪の毛のように細くした闇を杖の中に進入させていき、魔力の通り道を作っていく。
この際ついでに、魔力の通り道の掃除なども済ませておく。
そして、先述したように『人間』属性から脳の構造についての情報を引き出し、記憶装置としての働きを出来るように模倣。
この作業、実を言えば『闇』と『人間』の属性だけでなく、『万能鍵』と『魔力』の属性も活用しているし、八顕現についても付与、変形、操作だけでなく、生成、還元なども利用しているのだが……。
うん、ヘルムス様たちは熱心に見ていて、興奮した様子だが、そこまで気づいた様子は見られないな。
気づいていないのなら解説も無しです。
頑張って気づいてください。
まあ、ヘルムス様については気づいていても、この場では話せないだけかもだが。
「これで完成ですね」
とりあえず作業完了。
これでワタシの杖はまた杖として使えるようになった。
「お疲れ様です。あっという間でしたね」
「もう何度もやった作業ですから。これくらいは簡単です」
さて、性能について、ちょっと確認。
魔力を少しだけ流してみる。
うん、前よりも自然に魔力が流れるようになった気はするし、魔術の維持もしやすくなっているとは思う。
ほんの少しだが。
……。
まあ、こればかりは仕方がない。
ワタシの杖作りは所詮、素人が自分で試行錯誤して辿り着いたそれであって、本職ではないし、きちんと学んだわけでもないのだから。
「簡単ねぇ……。俺たちの目から見て、かなりの技術が使われているように思えるんだが……。まあ、ミーメの嬢ちゃんがそう言う事を言うのはいつもの事か」
トギー様が何か言っているが、魔術の出力と繊細さと属性、それに素材の質の高さのおかげでワタシの杖は高い性能になっているのであって、普通の素材を使ったら普通の物か、普通よりちょっと下くらいの物しか出来ない。
なので、それは流石に買いかぶりと言う物である。
仮に本職の杖職人が、ワタシが使った物と同じ素材を使って、誰か一人の為に杖を作ったのなら、その杖の性能は作られた誰かにとっては唯一無二の杖になるはずで、ワタシが同じように作った物よりもはるかに良くなるはずだ。
「さて、杖の性能確認も兼ねて、他にも色々と作っておきましょうか」
「ミーメ嬢。手伝う事はありますか?」
「では、何を作ったかの記録などをお願いします」
「分かりました」
さて、杖についてはこれくらいにしておくとして、他にも作るべき物はあるので、一つずつ作っていこう。




