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トリニティアイ -転生平民魔術師の王城勤務-  作者: 栗木下
3:第二属性の魔術師たち

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70:『不安』属性

「では先に報告でございます。拠点の魔道具の話ですが、単純に肉の詰め込み過ぎでした」

 移動を開始したワタシたちは森の中を歩きながらグレイシア様の話を聞く。

 なお、先頭を含めて、周囲をワタシの闇人間たちで囲っての移動なので、雑談程度なら問題ない。

 ちなみにヘルムス様の水水夫は移動訓練用の一体を残して、既に解除されている。


「こちらが提示した許容量をはるかに超えて、隙間と言う隙間に詰め込もうとしているような様子でしたので……アレでは不調になって当然でございました。なので、帰りにわたくしたちで幾らかの肉を運んで欲しいとの事です」

「なるほど。では、私の船で運ぶことにしましょうか。こちらの獲物次第ですが、余裕はあるはずです」

「ニワシガラスに内臓を与えていないのですか? そうすれば、この場で消費する肉もあるはずなので、だいぶ量は抑えられると思うのですが」

「ニワシガラスには与えているそうです。ただ、消費する速さよりも、魔物が拠点に襲い掛かって来る頻度の方が多いようですね」

 グレイシア様の話からして、どうやら拠点周りについては、ニワシガラスとの交渉も含めて様々な調整が必要そうだ。

 まあ、グレイシア様が王城に報告するだろうし、調整はその道のプロの方々も関わるだろうから、ワタシの出る幕はないだろう。


「ただそのおかげか、最近は拠点周りでニワシガラス以外の魔物を見かける事は少なくなったそうです」

「なるほど。拠点の周りは人間の縄張りとして認識されつつあるようですね。良い事です」

「そう言えば、私とミーメ嬢が話をしている間も、近づいてくる気配もありませんでしたね」

 ワタシたちが今歩いているのは、既にグロリベス森林の深層である。

 まだ木立の隙間から拠点の姿は見えているが、それももうじき見えなくなるだろう。

 これまでなら、それほどに歩いたのなら、魔物の一匹くらいは寄って来ていたものだが……今日は見ない。

 それだけ拠点の周りは魔物にとって危険な場所だと認識されつつあると言う事なのだろう。

 うん、王城にとっては良い事だろう。


「では続けてわたくしについてですね。わたくしはイーリィ男爵の娘として生を受け、貴族院を卒業。王城に魔道具職人として勤めていました。魔道具職人としての職務は、王城にある冷蔵・冷凍に関する魔道具の製作と整備と改良。わたくしは仕事に励み、気が付けば……第二属性『不安』に目覚めていました。ただ、この第二属性が随分と問題のある属性でして……」

 さて、グレイシア様の話だが……。

 グレイシア様は男爵家の娘だったのか。

 となると、宮廷魔術師になって、子爵相当の地位を手に入れた今は親よりも権力的には強い事になるのか。

 まあ、その辺の話はワタシには与り知らぬところなので流すとして。


「カアッ」

「「!?」」

「ニワシガラスですね。近いようです」

 ニワシガラスの鳴き声が響いた。

 しかも鳴き声は徐々にワタシたちの方に向かってきている。

 なので、鳴き声が聞こえた方を見てみると……。


「グマァ!」

 一頭の王冠のような金色のトサカを持った大型の熊が、ワタシたちの方に駆けてきている。

 えーと、正式名称はクラウンベアだったか。

 目の色は紅色……肉体属性で、アレの不意打ちに対処できるかどうかが、グロリベス森林の深層を安全に探索できるかどうかの境界線になるだろう。


「グレイシア様」

「はい。折角なのでアレ相手にお見せしようと思います」

 どうやらグレイシア様はクラウンベア相手に自分の第二属性『不安』を見せてくれるらしい。

 なので、ワタシは闇人間たちを邪魔にならないと同時に、いざという時は身代わりとして割り込む事が出来る位置に移動。

 ヘルムス様も周囲の警戒の方をメインにし始めてくれる。


「不安に思いて、怖気付け。『クリエイトアンクシャス』」

「!?」

 先手を取ったのはグレイシア様。

 十数メートルと言う距離にまで迫ったクラウンベアに短い杖の先を差し向けると、魔術を発動。

 すると見た目には何も起きなかったが、クラウンベアはその場で急停止し、警戒の姿勢を取り始める。


 恐らくだが……『不安』の生成と付与だろう。

 クラウンベアに不安を植え付けて、このまま飛び込んではいけない、襲ってはいけないと思わせたのだ。

 出力上昇の為に、『氷』からの特化で寒気や嫌な予感も混ぜ合わせてあるかもしれない。


「氷よ。槍となりて。凍てつき。汝が望まぬ場所を穿て。『アイスランス』」

 そうしてクラウンベアが警戒をしている中で、グレイシア様は氷の槍を生み出すと射出。

 放たれた氷の槍はクラウンベアの目に向かって真っすぐに飛んでいく。


「グマァ!」

 それをクラウンベアは肉体属性魔術によって強化した筋力と爪で迎撃しようとするが……。


「無駄です」

「マ!?」

 氷の槍はクラウンベアの爪に当たる直前で急停止するように軌道を曲げ、回転の勢いによって半ばで折れつつ、クラウンベアの右目と鼻先に直撃して叩く。


「グマアアアァァァッ!?」

 クラウンベアは氷の槍の動きを想定出来ていなかったからだろう。

 二足歩行のような状態になりつつ、両手で傷口を抑え、鳴き声を上げて、悶え苦しむ。


「……。氷よ。無数の礫となりて。凍てつき。我が敵を打ち据えろ。『アイスグラベル』」

 対するグレイシア様はその結果に何とも言えない表情を浮かべる。

 が、直ぐにその表情を消して、次の魔術としてイガのような氷の塊を作り上げるとクラウンベアに向かって射出。

 氷の塊は空中で大小無数の氷の礫に変化し、密度に濃淡を持ちつつクラウンベアへと殺到。

 一つ一つの礫は最も大きい物でも指一本分ぐらいであったが、それでも圧倒的な数と十分な速度によってクラウンベアの体に突き刺さり、切り裂き、打ち据えて、全身を赤く染め上げていく。


「グマアァッ……!?」

 そして、どれが致命傷になったのか、単純に血が失われ過ぎただけなのかは分からないものの、クラウンベアは断末魔の声を上げながらその場に倒れ、動かなくなった。


「と。これが戦闘に活用した場合の『不安』属性になります」

「なるほど」

 とりあえず倒されたクラウンベアについては、ワタシの闇人間たちに簡易の解体をさせ、内臓の一部はニワシガラスの餌として外に出しておく。

 で、解体を完了したら、内臓があった部分にグレイシア様の氷を詰め込んだ上で、ヘルムス様の水船に載せて運搬する事になるだろう。

 そんな後処理はさておいて。


「如何でございますか? ミーメ様」

 ワタシはグレイシア様の『不安』属性について述べる。


「グレイシア様の『不安』属性はかなり癖が強いようですね」

 厄介と言う言葉をオブラートに包み込んで。


「その通りでございます。ただ、これでも以前よりはマシにはなりました。以前は意図しない瞬間に魔術が破綻して消え失せる事もあれば、単純な制御も怪しくなることもありましたので」

「そうなのですか? ではどうやって改善を?」

「ミーメ様の八顕現の考え方のおかげですね。アレのおかげで、ただ混ぜ合わせるのではなく、どこに混ぜ合わせるかと言う発想が得られましたので」

「なるほど。お役に立てたようで幸いです」

 ワタシはグレイシア様の言葉に応じつつ考える。

 グレイシア様の『不安』属性も、ワタシの『人間』やヘルムス様の『船』のように幾つもの面を持ち合わせているのは確かだ。

 今のクラウンベアの狩猟を見た限りでは……。


 一つ目は精神面。不安に思う。と言う感情を取り扱う形。

 恐らくだが、これが最もスタンダードな使い方なのではないかと思う。

 単純に相手に不安と言う気持ちを押し付けても良いし、相手が不安に思っている=起きては欲しくない事態を引き起こすと言う使い方もしているのではなかろうか。

 ただ、不安と言う負の感情を取り扱う時点で、一般的には色々と危惧されるだろうし、危惧された通りの使い方も実際に出来てしまう事だろう。


 二つ目は物理面。こちらは不安……と言うよりは、不安定、と称した方が近いのかもしれない。

 たぶんだが、氷の生成、射出の際の軌道、散布時の密度、単純な出力。そう言ったものが良くも悪くも安定しなくなっている。

 その結果として、急な軌道変更だけで氷の槍が折れてしまったり、散らばった氷に大きさや密度の面でランダム性が生じているのだと思う。


 うん。少なくとも、この二つの面は確実にある事だろう。


「ですがミーメ様。わたくしとしては、もっと安定させる方法は無いかと模索しているところなのです」

「そしてそれがワタシへの相談事な訳ですね」

「その通りでございます」

 なるほどこれは確かに相談したくなる話だ。

 属性数が増えた事による出力向上はあるのだろうが、安定性を欠くと言うのは……魔術師としては良くても、魔道具職人としては困ったものになる。

 だって、大概の魔道具にまず求められているのは、使った時に望んだ通りの効果を得られる事なのだから。

 そこへ精神面への作用か、ランダム性を加えてしまう『不安』属性は、当人としては見た目を抜きにしても望まない力に他ならないだろう。


 さて、どう答えたものだろうか。

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― 新着の感想 ―
不安… 解釈次第では「虫の知らせ」とかの危機察知に自分で使えないのかしら…?
>『不安』属性 戦闘中は活用仕方次第だけど、安定性が求められる魔道具作成でもランダム発動してしまうのは困りますなあ。
 今まで希少だったお肉が一杯入る今の状況に王城にいる文官達は何も思うのだろうか?  森の熊さんは宮廷魔術師なら不意打ちでも食らわない限りは問題ないと強さとつまり手に負えないのはこの熊さんのパンチで無傷…
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