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トリニティアイ -転生平民魔術師の王城勤務-  作者: 栗木下
3:第二属性の魔術師たち

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68:境界線上の拠点

再開してまいります。

「快適ですね。ミーメ嬢」

「そうですね。だいぶ整備されたと思います」

「兵の方々の頑張りでございますね」

 数日後。

 ヘルムス様、ワタシ、グレイシア様の三人はグロリベス森林を訪れていた。

 移動は以前にも使った、ヘルムス様の水船に乗り込み、ワタシの闇人間で運んでもらう。と言う方法だ。


 ただ、その道のりは前回よりもだいぶスムーズなものになっている。

 森の中に出来ている道が獣道ではなく、人が何度も往来し踏み分けた道になっているからだ。

 どうしてそんな物が森の中にと思うかもしれないが、その理由も単純……。


「さて、見えてきましたね」

「アレがそうでございますか」

「少し前に見た時よりも更に立派になっていますね」

 グロリベス森林の浅層と深層。

 その境界の一つを跨ぐように、王国が拠点を築いている真っ最中だからである。


「昨日の襲撃もとんでも無かったな。まさか、土の壁が一発で粉砕されるとは」

「ああ。もう少し頑丈に作らないと駄目そうだ」

「頼むぜ。冗談抜きに命綱なんだ」

 王国の拠点は、左右で繋がっている先の空間が異なっている巨木を囲むように建造されている。

 今現在は土属性の魔術師が作った簡易的な土の壁を押し固めて作られた建物のようだが、最終的には土だけでなく石と木材も利用した、しっかりとした砦を森から敵視されない程度の規模で作るつもりであるらしい。

 現在、拠点内に居る人間は兵士、騎士、魔術師合わせて二十数名ほどで、雑談もしているが、周囲の警戒と業務も怠っていない。

 動きの慣れ具合からしても、手慣れた人員のようだ。


「宮廷魔術師の皆様方ですね。お役目、ご苦労様でございます」

「ありがとう。そちらこそお疲れ様だ。私たちが持ってきた物資は何処へ置いておけば?」

「アチラに物資の集積所がございますので、まずはそちらへお願いいたします」

 そんな拠点に近づいていくと、責任者らしい騎士の人が出て来て、ワタシたちに挨拶をしてくれる。

 で、折角だからと王城側から頼まれ、ヘルムス様の水船に載せていた物資……石に木材、食料、薬と言った、この場で必要な物を所定の位置へと置いていく。


「ありがとうございます。これで本拠点の整備もますます進む事でしょう」

「それは良かった。貴方たちの働きぶりには陛下も期待なさっている。自分たちの安全……と言っても聞いてもらえないかもしれないが、貴方たちがもたらしてくれる情報は、王都にとって非常に重要なものだ。その事をくれぐれも忘れないように」

「ハッ! 了解であります!」

 なお、こういう時の挨拶役はワタシたち三人の中ではヘルムス様がやるのがいつもの事である。

 ワタシとグレイシア様よりも顔が知られているし、手慣れているからだ。

 ワタシとしても、慣れない事をしなくて済むので、願ったり叶ったりと言う奴である。


 ちなみに、この拠点に詰めている人たちに陛下も期待していると言うのは本当の話だ。

 グロリベス森林は王都の真横にあると言っても過言ではない、不穏な噂が多少はあれど、制御された魔境だと今までは認識されていた。

 だが、ワタシがもたらした情報によって、深層部分の存在が明らかになり、その場所は全くの未開拓と言っても良い状況である上に、多種多様で上質かつ凶暴な魔物が生息している事も判明。

 そんな場所の調査と、可能ならば開拓の礎にもなる予定の場所がこの拠点なので、陛下が期待されるのも当然の事なのだ。


「それでは中に入っても?」

「勿論でございます。どうぞ中へ」

 まあ、そうは言っても、現状では……。

 深層は拠点から見える範囲の探索しか出来ていない。

 安全確保も不完全で、日に一度は魔物が近づいて襲い掛かってくる。

 ニワシガラスたちとの交渉は、ようやく互いに個体認識が出来るようになってきた。

 程度の物で、中々進んでいないようだけれども。


 ま、地道に頑張ってもらうしかないだろう。

 こういう地道に進めるしかない事柄については、トリニティアイだって地道に進めるしかないのだから。


「こちら、会議室となっております。どうぞ、ご自由にお使いくださいませ」

「ありがとうございます」

「ご苦労様でございます」

「ありがとう」

 さて、ワタシたちは拠点内に用意された簡易の会議室で一度腰を下ろす。

 深層に入る前の最終確認だ。


「では確認です。ワタシはお茶会の手土産を探します。目標が居る場所は把握していますが、深層は物の位置が変わる事もよくある事ですので、少し時間がかかるかもしれません。帰り道が把握できるように進みますが、ワタシから離れないように注意してください」

「分かっています。ミーメ嬢」

「了解でございます。ミーメ様」

 まず、ワタシから離れないように注意する事。

 グロリベス森林の浅層と深層の境界事情、最低でも王都数個分と言う深層の広さ、これらを併せて考えると、逸れてしまった場合に合流するのは、何かしらの対策が無いと厳しいものがあるからだ。


「また、どのような脅威が待ち受けているのかも分かりませんので、警戒は決して緩めないようにお願いします。ワタシでも詳細がよく分からない魔物も時々居ますし、不穏な気配が漂う場所もありますので」

「許可がない限りはミーメ嬢より前に出ない。これくらい極端な考えでも良いですか?」

「それくらいで良いと思います」

 次に警戒を緩めない事。

 大概の魔物は把握しているとワタシは自負しているが、そんなワタシが見た事がない魔物が居ても何もおかしくないのがこの土地である。

 ドラゴンだって住めてしまう森なので、まったくもって油断ならないのだ。


「そして、ワタシの目的以外……つまり、そこへ向かう道中の魔物については、基本的にはヘルムス様とグレイシア様にお任せいたします。これはヘルムス様は魔術の研鑽。グレイシア様は属性に関する相談の為の情報集めですね」

「はい。よろしくお願いします。ミーメ嬢」

「頑張らせていただきます」

 最後に目標確認。

 ワタシは特定の物の回収だが、ヘルムス様とグレイシア様は戦闘が目的と言っても過言ではない。

 王城の中、王都の中と違って、思いっきり魔術を放っても問題になりづらい場所なので、無理をしない程度に頑張って欲しい所である。


「では、休憩の後に出発を……ん?」

「入ってください」

 と、ここでコンコンと会議室の扉をノックする音が。

 ヘルムス様が許可を出すと、兵士の方が申し訳なさそうに入って来る。

 どうかしたのだろうか?


「すみません。宮廷魔術師『凍えの魔女』様でしょうか?」

「はいそうですが。どうかされましたか?」

 どうやら目的はグレイシア様らしい。

 ワタシとヘルムス様の視線がグレイシア様に移る。


「実は食料保管用の冷蔵庫、冷凍庫の魔道具の調子が若干悪いとの報告が上がっておりまして。名高き『凍えの魔女』様に見ていただけないかと思いまして……。その、不躾な願いなのは分かっておりますが。どうか、どうかお願いします」

「「「……」」」

 兵士の言葉にワタシたちは互いに見合わせて……。


「申し訳ありません、ミーメ様。先に頼まれた魔道具の様子を見に行こうと思います」

「分かりました。長引くようなら連絡をください。対応を考えますので」

「ありがとうございます」

 グレイシア様を送り出した。

 まあ、陛下も期待されている拠点で魔道具の調子が悪い。

 それも冷蔵庫と冷凍庫と言う、食料の保存に関わる重要な魔道具の調子が悪いと言うのなら、直せる人間が直しておく方が良いだろう。

 これは宮廷魔術師として当然の判断である。


「ではヘルムス様。ワタシたちは深層側の拠点前で待っていましょうか。深層の空気に身を慣らす意味でも」

「そうですね。しばらく待っていて、その間は魔術の話でもしていましょうか」

「それは良い考えですね」

 そんなわけで、ワタシとヘルムス様は深層へと移動。

 拠点の外でそれぞれが自分の魔術で作ったクッションに腰掛けながら、話をする事にした。

01/07誤字訂正

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― 新着の感想 ―
隊長ー、冷蔵庫が調子悪いっす! それは困った……あ、専門家キター!
遅まきながら再開ありがとうございますー。 森林拠点、ひいては将来の開拓村。重要性は高いけど、だからこそ第二属性に到達していない並の人材達で運営できるようにしなきゃなのでハードルが高い。 ミーメさん…
話題が出て来たので蘊蓄を~(単純に語りたい) 「ご苦労様です」と「お疲れ様です」の使い分けは1980年代以降の主に民間で配慮され始めたもので、そもそも起源を辿るとこれらは『労い』『労り』の言葉であり『…
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