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トリニティアイ -転生平民魔術師の王城勤務-  作者: 栗木下
2:宮廷魔術師『闇軍の魔女』

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60/89

60:暗がり裂いて ※

今回はヘルムス視点となっております。ご注意ください。

「それではミーメ嬢。また明日」

「はいヘルムス様。また明日」

 陽がちょうど暮れ切った頃。

 私は家の馬車に乗って、師匠の家を後にした。


「~~~♪」

 そうして馬車が走り出すと同時に思い出すのは、今日一日の事。

 事件が一つ未解決の状態ではあるけれども、おおよその目的は果たす事が出来たし、師匠の楽しい顔や喜ぶ顔も見れた。

 誠に充実した一日だったと言えるだろう。


「ご機嫌でございますな。坊ちゃま」

「当然だろう。婚約者のミーメ嬢と一日一緒に居られて嬉しくない訳がない」

「それはようございました」

 と、ここで馬車の御者を務めてくれている爺が、御者席にある魔道具を使って馬車の中へと声を伝えてくる。

 爺は昔からトレガレー公爵家に仕えてくれている人物だ。

 今している御者の業務以外にも様々な事が出来る、有能な人物でもある。

 礼儀作法も当然修めていて、馬車の中に用事もなく声をかけてくる事など無いし、そもそも爺に任せたい仕事は兄上にとって幾らでもある。

 そんな爺が御者としてやってきた時点で何かがあるとは思っていたが……。


「何があった?」

「取り急ぎ、二つほど報告がございます」

「話せ」

 何かがあったらしい。


「坊ちゃまが追跡を命じられたノスタと言う魔道具売りの人間ですが、途中で全員が撒かれました。何かしらの魔術を用いた物と思われます」

「そうか」

 私は今日、市場で物盗りの事件現場に遭遇した後。影から同行していたトレガレー公爵家の諜報員にノスタと言う名前の店主の後を付け、その住居を特定するように指示していた。

 が、その追跡を店主はどうやってか振り切ったらしい。

 恐らくは肉体属性ではなく別の属性……第二属性を用いた魔術だろう。


「あの店の品は?」

「既に王城の方へと届けたと言う報告は入っております」

「そうか。なら、十分だな。調べる価値のある人間だと判別できたのも大きい」

「ありがとうございます」

 ただ、店の品は回収できている。

 ならば、宮廷魔術師長が魔道具に含まれている魔力の解析を行えば、希少素材倉庫のドラゴン素材の件の犯人と同じ魔力の保有者であるかの判別は可能だろう。

 これ以上詳しく調べるのは、嫌疑が定まってからで良いだろう。


「次の報告ですが、王都内で貴族令嬢に声をかけている不審者がいる件についてです」

「何かあったのか?」

「どうやら声をかけられているのは令嬢だけでなく、未婚の貴族女性、未亡人、婚姻済みの貴族女性など、貴族の女性であれば見境が無かったようです。そして、声掛けの内容と言うのが、どうにも坊ちゃまに関心があるか否かを尋ねるようなものだったとか」

「私に関心だと?」

「ええ、私も今はとにかく坊ちゃまに警戒を促すようにと情報を持たされてやって来ただけなので、そこまで詳しくは存じませんが、どうやら坊ちゃまとミーメ様のご婚約に反対の意思を持っている女性を探しているのではないか。との事でした」

「……。そうして探し出した女性はどうなっている?」

「分かっておりません。ただ、爺の勘では、お二人の仲を裂く事を目的とした何かしらの策が練られているのは確かかと」

「そうか」

 爺の言葉に私は少し考える。

 私と師匠の婚約に反対する人間が居るのは分かる。

 貴族主義者は当然反対するし、私の婚約者の立場を狙っていた御令嬢方が反対するのも理解は出来るからだ。

 しかし、その中でも更に極一部の諦めの悪い連中を唆して、誰かが何かをしようとしている。と言われても、流石に情報が足りなくて、想像できそうになかった。


 ただ、そうして考えていて、どうしてか繋がった思い付きがあった。


「爺。不審者に声をかけられた女性の中にジャーレン・フォン・シフキャートと言う女は居るか? 風属性の女魔術師で、王城の魔術師団に勤めている」

「ございます。何か思いつかれましたか?」

「いや、私としてもただの思い付きでしかなく、どちらかと言えば失礼な発想になるのだが、市場の物盗りの件の犯人がもしやと思ってな。すまない、流石にただの考え過ぎだろう」

 それはジャーレンが物盗りに見せかける形で、店主であるノスタから何かしらの物資が提供された。

 そして、提供された物資を用いて私と師匠を狙っている。

 そんな陰謀……いや、妄想だった。


 自分で考えていても分かる。

 幾ら何でもこれはあり得ない。

 論理が幾つも飛躍してしまっていて、師匠辺りに話したのなら、頭の状態を真剣に疑われる事だろう。


「ははは。坊ちゃま。幾ら何でもそれは無理な繋げ方でしょう」

「私も口にしてからそう思って……」

 その時だった。


「っ!?」

 気を張っていない状態でも分かるほどに、近くで魔力が高まり、全身の毛が逆立つような感覚を私は覚えた。


「坊ちゃま!」

「水よ……」

 爺から警戒の声が飛ぶ。

 私は常駐の防御用魔術を高めつつ、追加の防御を施そうとした。

 感覚からして、この馬車が狙われていることは間違いない。

 だが、高まり方からして準備に時間がかかる魔術であり、追加の防御の展開は十分に間に合う。

 そこまで私は考えて……。


「「!?」」

 その前に視界が白く染まる。

 全身を何かが駆け巡り、それから空気が直接振動しているような轟音を微かに認識し……地面に打ち付けられる。

 視界が戻って来た私の目に映ったのは、黒焦げになった爺と馬の姿であり、バラバラになった公爵家の馬車であり、酷い火傷を負った私の腕だった。


「馬鹿……な……」

 それは二重三重にあり得ない光景だった。

 私の体を痺れさせているのが雷によるものなのは分かる。

 だが、今の天気は雲一つない夜空であり、自然の雷が落ちるような環境ではない。

 となれば魔術による雷と言う事になるが、如何に雷属性と言っても、本物の雷に匹敵するような雷を落とせるのは第二属性持ちが入念な準備を整えてようやく放てるような物。

 今の雷にはそんな入念な準備の時間など無かったはずだった。

 挙句、防御を専門とする第二属性持ちが魔術をかけて強化した公爵家の馬車を一撃で破壊し、相応に鍛えていたはずの爺を余波だけで殺し、私の常駐防御魔術を貫いて重傷を負わせてきた。


「誰が……こんな事を……」

 これほどの魔術を扱える人間は師匠一人だが、師匠でない事は様々な面から明白。

 第二属性持ちとしては過ぎた威力。第三属性持ちとして見るなら弱すぎる威力。そんな雷だったからだ。

 だからこそ分からない。

 そんな半端であれど、人知を超えたような威力の魔術を放ってきたのが誰なのか。


「ああっ、ヘルムス様! なんとお労しい姿ですの!?」

 誰かが近づいてくる足音がした。

 だが、私の護衛や近所の住人ではない事は確実だった。

 足音に迷いがなく、声に喜色が混じっているからだ。

 誰かは分からないが……保護にかこつけて拉致を企てる誰かだと考えるのが妥当か。


「ちょっと退きなさい! 一番に駆け付けたのは私よ!」

「何を言うの、私の方が先だったわ! そもそも誰のおかげで……」

「揉めている場合じゃないわ。ほら急がないと、ヘルムス様が死んでしまうわ。シデンカスの馬鹿女がやり過ぎてしまったから」

「っ!? 本当ね。急いで介抱して差し上げないと」

「あの馬鹿女。命を捨ててでも想いを伝えたかったと言うの? 大概にして欲しいわね」

 おまけに一人ではないらしい。

 声からして最低三人。

 だが、掠れていく視界の中で見た限り、雷属性は居なかった。

 つまり、最低でも四人。今回の件に関わった女が居るようだ。


「水よ……癒しと守りを我が身に……」

「「「!?」」」

 私は最後の力を振り絞って、自分の身を癒しと守りに特化させた水の箱舟の中に収める。

 これで少なくとも死は免れ、時間経過で魔術が解けるまでの安全は確保されるはずだ。

 だが船である以上、移動は出来てしまう。

 だから、何処かへ連れ去られることまでは防げないだろう。


(申し訳ありません。師匠……ミーメ嬢……)


 私の意識は闇に落ちた。

12/30誤字訂正

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― 新着の感想 ―
>気を張っていないにも分かるほどに近くで魔力が高まり → 気を張っていないにも関わらず分かるほどに → 気を張っていないというのに分かるほどに ……みたいな感じで、語句か文字が抜けてそうな気がします…
ヘルムス君が囚われのお姫様ポジションに!
爺(泣)
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