54:王都の小悪党共 ※
今回は第三者視点となります。ご注意ください。
騎士と魔術師のお披露目会の翌日。
王都内に存在するとある貴族の屋敷には、数人の男性が集まっていた。
「ヤーラカス子爵家の倅がやらかしてくれたわ……!」
「何故……。何故、待ての一つも出来ない。特別試合の最中であれば、例え間違いがあったとしても、後で多少の注意を受ける程度で済んだと言うものを……!」
「陛下の御前を穢して済むはずが無かろう。そんな事は平民であっても分かる事だぞ」
「自殺を望むのなら我らを巻き込まないでくれ。ああ、流石に今回ばかりはヤーラカス子爵が哀れでならん」
「もはや誰の目にも明らかなほどに呆然としていたからな……」
彼らはソシルコットの生家であるヤーラカス子爵家と関係があった貴族の一部。
王都の中で文官、侍従、騎士として本人または家族が活動する貴族であり、爵位としては男爵あるいは子爵に属する者たちである。
「ヤーラカス子爵家についてはもはや仕方がない。問題は我らが今後どうするかだ」
「我々とヤーラカス子爵家の間に付き合いがあった事は隠せん。故に一切の証拠が無いのは逆におかしいとして、問題がない範囲の証拠を握らせてやるのが正解だろう」
「同意しよう。都合の悪い情報は消し、都合の良い情報は渡す。これでやり過ごせると信じるしかない」
「ヤーラカスの倅が喋らない事など期待出来んしな」
「喋らないのは無理だろう。事件の内容が内容だ。今頃は尋問から拷問に変わっていたとしても不思議ではない」
それと同時に、自らの職務を果たす裏で、横領、窃盗、暴行、贈収賄、密輸、恐喝、密売、脱税と言った犯罪を自身または部下に命じて行い、私腹を肥やしている者たちでもあった。
彼らは恐れていた。
自分たちの行いが明るみに晒され、今の生活を続けられなくなることを。
自分たちの地位を危うくする者が出て来て、今の生活が壊される事を。
自分たちの理解が及ばない何かが現れて、今の生活が変わってしまう事を。
「『闇軍の魔女』め……平民の分際で我らを煩わせるとは……!」
故に、彼らにとって『闇軍の魔女』……ミーメは絶対に存在を許せない相手だった。
なんとしてでも排除しなければならない相手だった。
だからこそ、ソシルコットに特殊な魔法薬を渡し、特別試合の最中に殺害する事を企てたのだった。
「ヤーラカスの倅の一撃は武に詳しくない我でも凄まじい一撃だった。アレが通らなかったとなれば、武力での排除は無理だろう」
「不意打ちの類も駄目だろう。アレがやったのもそうだったのだからな」
「数頼みも期待は出来んな。第二属性持ちと言うのは、どいつもコイツも常識外れだし、何より『闇軍の魔女』なのだ。数を持っていないとは思えん」
「では毒殺か? いや、トレガレーの三男が近くに居る以上、それはあまりにも厳しいか。なんなら、あの男のせいで、適当な男を宛がい惑わせる事も難しいし、罪を背負わせる事も難しいか」
「クソッ! あの女は人のフリをしたドラゴンか何かか!?」
そして、それは上手く行かなかった。
単純にミーメが強過ぎたがために。
「皆様。ノスタ様が到着されました」
と、ここで執事の言葉と共に一人の男性……ノスタが室内に入って来る。
紅色の両目を持った男は、室内に居る貴族たちの前で堂々と礼をした後に顔を上げる。
「魔道具職人ノスタ・ルージア。お呼び出しを受けたので参りました。如何されましたか?」
「読め。貴様の作った薬を飲んだヤーラカスの倅がとんでもない事をしてくれた」
「拝見させていただきます」
ノスタは渡された資料を読み……。
「……」
最初に手を目の部分に当てて天を仰ぎ。
続けて眉間とこめかみに手を当ててコリをほぐし。
最後に溜息を吐く。
「あー、釈明をさせていただいても?」
「不要だ。流石にこれがノスタ殿の魔法薬が原因とは我らも思っていない。単純に我らが渡す相手を間違えたのだ」
「だが、話を知った以上、身辺には気を付けて欲しい。此処でノスタ殿が捕まるような事になれば、我らの身も危うい可能性があるのでな」
「これは我らの誠意でもあるのだ。今後も良く付き合いたいのだよ。貴殿の作る魔法薬と魔道具は市販品のそれよりもよく効き、重宝しているのでな」
「かしこまりました。拙者も周囲に気を付けるとしましょう」
貴族たちの言葉にノスタは礼を言う。
そうして頭を下げつつも思考をする。
(失敗したな。あの魔法薬には筋力倍化の魔術だけでなく、戦闘意欲を掻き立てるために、服用者には過去に抱いた殺意を思い出させる魔術も含ませていたのだが……。まさか、そのせいで試合開始の合図すらも待てなくなるとは。もう少し想起させる衝動の量を考えるべきであったか。いや、今回の件が例外だっただけか?)
次はどのようにするべきであるかを。
「それで、皆様は何を悩んでいるので? 助言をいただいた借りを返すためにも、拙者が聞いてよい物であれば、是非聞かせて欲しいのですが」
「ふむ、そうだな。折角だしノスタ殿にも知恵を出してもらおう」
貴族たちはノスタに『闇軍の魔女』ミーメの話をする。
なんとしてでも始末したい事も、その実力の一端も、婚約者がヘルムスである事も。
そうして話を聞いたノスタは結論を出す。
「なるほど。新たな宮廷魔術師、『闇軍の魔女』ミーメの排除ですか。力押しで敵わず、搦め手も周囲が止めるとなれば……。まずはその周囲を除く事から始めるべきと拙者なら考えます」
まずはヘルムスを狙うべきだろう、と。
「トレガレーの三男を殺せと言うのか!?」
「馬鹿な事を言うな! 公爵家と直接事を構えたら、我らなどひとたまりもないぞ!?」
ノスタの言葉に貴族たちは当然のように反対した。
此処に居るのは男爵家か子爵家の者ばかりで、おまけに王城に勤める代わりに領地と言えるものを持たない法衣貴族。
公爵家と事を構える事など出来るはずもないからである。
「いえいえ、流石に殺せなんて言いませんよ。必要なのは『闇軍の魔女』と『船の魔術師』の仲を引き裂く事。婚約を破談にする方法など、皆様ならよくご存じでしょう?」
だが、ノスタは貴族たちの反対を抑え込むように微笑み……思い出させる。
どうすれば婚約を破棄させる事が出来るのかを。
「今回は女性の方を傷つける事は出来ないでしょう。ですが、男の方に瑕疵があって婚約が破棄される事などよくある事。そうですね……運命の相手を見つけた。などと言うのは如何でしょうか?」
「「「……」」」
「聞くところによれば。『船の魔術師』に恋焦がれる女性と言うのは多いのでしょう? いただいた資料を読む限りでは、特別試合でも『船の魔術師』に対する恋慕を叫び、『闇軍の魔女』に殺意を向けていた女魔術師が居たとか。きっと探れば、まだまだ居る事でしょうねぇ」
「「「……」」」
「そして『闇軍の魔女』はまだ子供で、貴族の道理など理解しているはずもない。恐らくは顔か地位に惹かれただけの事。自分だけが特別に愛されているのだと思っているに違いありません。そんな中で『船の魔術師』が真に慕うのは自分では無いとなれば……さてどうなるでしょうね?」
「「「……」」」
「拙者たちが直接動く必要はありません。拙者たちは少しだけ道具と機会を用意すればいい。そうですね。乙女の純粋な愛を後押しする。これだけで良いのです。色々と問題は起きるかもしれませんが、それは拙者たちの与り知らぬ事。気にする必要などありません」
「「「……」」」
貴族たちは黙ってノスタの言葉を聞き、それが実現可能であるか否かを考える。
彼らの中にある情報と常識に基づいて、現実のものになり得るかを計算する。
「ノスタ殿。その、乙女の純粋な愛を後押しする。とやらをするために必要な道具などはあるのかね?」
「ございます。色恋沙汰に関わる事は商売上、よくある事ですので。ただ、少しばかり、援助をいただきたいとは思いますが」
「そうかそうか。では、必要な援助とやらを後で申し出ると良い」
「遠慮はいらんぞ。我々は何も悪い事などしていないのだから」
「ああそうだ。我々は少し、乙女の願いを叶える手助けをしてやるだけだとも」
「ははは。まるで童話の親切な魔術師のようだが、これも悪くはない」
そして結論は出された。
全ての貴族が醜悪な笑みを浮かべる中で。
「では、拙者は早速準備に移らせていただきましょう。失礼」
「良いだろう。こっちも追って、必要な情報をそちらへ送ろう」
それに背を向けてノスタは部屋を退出する。
誰にも見えない位置で、左目の色を紅から紫に変えて、瞳孔を円から揺れ動く時計の針に変えて。
王都に住む全ての貴族への殺意を滾らせながら。
12/22誤字訂正




