37:第三属性の危険性
「話を聞こう」
「ありがとうございます」
第三属性は非常に危険なものである。
ただこれは、第三属性に選んだ何かが危険と言う話ではない。第一と第二とのシナジーによっては非常に危険と言う話でもない。
もっと単純な話だ。
「宮廷魔術師長様含め、この部屋に居る方々なら把握していると思いますが、魔術と言うものは第一属性と第二属性を混ぜ合わせて構築すると、ただそれだけで威力が大幅に増します」
「そうですね。それは把握しています。なんなら多少なりとも魔術に詳しい者なら知っているでしょう」
「だな。だからこそ俺っちたち宮廷魔術師は特別な地位を与えられているし、魔術師たちは第二属性を得ることを目指す」
「そうでございますね。故にこそ、愚か者が第二属性を得ないように情報の制限もしているのでございますが」
ワタシの言葉にヘルムス様、ジャン様、グレイシア様が順に言葉を返してくれる。
「その威力の増し方が、第三属性を得た魔術師が真面目に構築した魔術では桁違いになります。そうですね……第一属性だけの魔術と比較して、下限でも200倍にはなると思います」
「「「!?」」」
そして、三人の目が大きく見開かれた。
文字通りに桁違いな話に。
「なるほど。確かに細心の注意が必要そうだ。下限で200倍ともなれば上限は……」
「それこそ天井知らずになるでしょうね~。少し間違えたら自分ごと吹っ飛ぶことになりそう~」
さて、属性を混ぜ合わせる事による出力の上昇だが、言葉ではぼかしたものの、ワタシが調べた限りでは割とはっきりとした数字が出ている。
一属性魔術の出力を1とするならば。
二属性魔術の出力は4。
三属性魔術ならば27。
四属性魔術……つまりは第零属性『魔力』から第三属性まできちんと混ぜ込んだのなら……256になる。
つまり、ワタシが使う魔術は魔力量1しか込めていなくても、一般的な魔術師が魔力量を200近く込めて放った殆ど捨て身のような魔術を圧倒できてしまうのである。
だが、それほどにまで出力が高まると、ユフィール様の言う通り、自爆の危険性も出て来るし、理解していなければ暴走する可能性や、意図せぬ効果を発揮してしまう場合だって出て来る。
「ですがなるほど。それほどにまで出力が上がるのなら、ミーメ嬢の魔術の効力の高さにも納得がいきますね。ミーメ嬢が適当に使った魔術であっても、宮廷魔術師の全力に匹敵しかねないわけですか」
「そう言う事ですね」
だから、この点だけはワタシとしても警告しておきたかった。
なにせ……最悪の場合は王都が一瞬にして壊滅するくらいの被害を出す可能性だってあるのだから。
「あー……いやその、待ってくれ。ミーメ嬢を疑うわけじゃないんだが、流石に俺っちの頭じゃ理解が追い付かない。その、具体的な証拠とか、実例をもう少し出してもらっていいか? トリニティアイが真面目に構築した魔術ってのがどんなものになるのかが、想像もできないんだ。だから、本気を出したらどうなるのかを教えてもらいたい」
「そうですね……」
ジャン様の言葉にワタシは少し考える。
「ジャン様のご希望に沿えるかは分かりませんが……。ヘルムス様、グレイシア様。ワタシが先日ドラゴンを狩る時に使った、『ひとのまのもの』は覚えていますか?」
「覚えています。正に圧倒的と言う他ない戦闘力でした。ドラゴン相手に終始圧倒していて、アレを見たならば誰もがミーメ嬢の事をトリニティアイと認めざるをえなかったでしょう」
「覚えております。速さも攻撃の威力も、わたくしの使う魔術とは段違いでございました」
ワタシの言葉にヘルムス様は満足げな顔で、グレイシア様は神妙な顔で返してくれる。
二人の言葉に、ジャン様もドラゴンを圧倒出来る程なのか……と言う顔をしている。
うん、三人には申し訳ないが、言わないといけない事がある。
「確かに『ひとのまのもの』はワタシが真面目に構築した八顕現混合魔術であり、最大級の魔術ではありますが、汎用性を重視した狩猟用魔術であって、威力だけを追求した物ではありません」
「「「!?」」」
「その証拠に、ワタシは『ひとのまのもの』を使いつつ、他の魔術を数個同時に使用できますし、『ひとのまのもの』の維持だけなら丸一日だって可能です」
そう、実を言えば、『ひとのまのもの』は狩猟を目的とした魔術である。
だからこそ、獲物に与える傷は出来るだけ小さくなるように攻撃の範囲は絞っているし、他の魔術を使えるだけの余裕も持たせてある。
様々な状況に対応できるだけの汎用性を持たせたが故に、破壊力は絞られている。
であるのにだ。
ドラゴンを圧倒し、余裕で狩れてしまえるほどの戦闘力があるのである。
「では、維持も考えず。自分への被害も考えず。その分を全て広範囲に破壊をもたらす事だけへと回したのなら?」
「「「……」」」
ワタシの言葉にヘルムス様たちは想像したのだろう。
第三属性持ちが魔術の制御を誤って自爆し、周囲へと被害をもたらす姿を。
その被害が際限なく広がっていき、王都が丸ごと滅びる姿を。
そして、実際に第三属性を持つワタシは、それらの想像が現実のものになり得る事を知っている。
と言うかだ。
グロリベス森林の深層とトリニティアイである開拓王の関係性として疑われているものを考えると、方向性が攻撃であろうが補助であろうが、トリニティアイの本気の魔術は人間社会においては過剰出力以外の何物でもない可能性すらある。
規模がとにかく大きくなってしまいがちなのだ。
「だから、第三属性の取り扱いには細心の注意が必要なんです。将来、ワタシ以外の誰かが第三属性を得た時の警句として」
「なるほど。この点だけは後で出所不明だが確かな情報として、記録に残しておこう。見逃すにはあまりにも危険すぎる可能性だと、吾輩は判断する」
「お願いします」
ワタシの言葉に宮廷魔術師長様が頷いてくれる。
なお、不安を煽らないためにこの場では口にはしなかったが。
ワタシは恐らくトリニティアイとしては最弱の部類に入る。
元平民で魔力量が貴族たちより少ないと言うのもあるが、第三属性に目覚めた状況がドラゴンとの戦闘中で落ち着いて考える暇もなく選ばなければいけなかったからだ。
つまり、ワタシの第三属性『万能鍵』は、取得時点では第一属性『闇』と第二属性『人間』との相性を考えていなかった属性なのだ。
それでもなお、この戦闘能力なのだから、第三属性の扱いには細心の注意が必要になると言うワタシの判断は妥当以外の何物でもない事だろう。
「さて、話はこれくらいで終わりだろうか?」
「ワタシから急いで話したいことはこれくらいですね」
宮廷魔術師長様の言葉にワタシは返事をし、他の人たちも静かに頷く。
「よろしい。では、今日の所はこれで切り上げる事としよう。各自、落ち着いたら退室するように。ユフィ」
「は~い」
そう言って宮廷魔術師長とユフィール様は部屋を後にした。
きっと陛下にだけは話が行くのではないかと思うが……悪い事にはならないと信じよう。
「第三属性は制御を誤ったら酷い事になる、か。ただそれでも俺っちは目指したいな……」
「そうだな。私としても第三属性を目指したいと言う思い自体は変わらない。ただ、研鑽の方向性は一度大きく変える必要がありそうだが」
「お二人が目指す事自体はワタシも否定しません。トリニティアイの実力が圧倒的である以上、二人か三人くらい居た方が、国としては安心できるでしょうから」
ジャン様とヘルムス様は第三属性を得たいらしい。
とは言え、ワタシが第零属性の存在を隠している以上、その道のりは苦難に満ちた物になるだろうが。
「ミーメ様。わたくしの記録に問題がないかの確認をお願いします」
「分かりました」
とりあえずグレイシア様の記録を確認しよう。
ワタシがトリニティアイ……第三属性持ちである事は隠している話なのだし、ちゃんと隠れている事は確認しなければ。
12/04誤字訂正




