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トリニティアイ -転生平民魔術師の王城勤務-  作者: 栗木下
2:宮廷魔術師『闇軍の魔女』

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36:ミーメの属性

「ミーメ君。君の属性について、正式名称、どのような解釈をしているのか、どのように使っているのかを、君が話してもいいと思える範囲で構わないから吾輩たちに教えてもらえないだろうか」

「それは構いません。宮廷魔術師になった以上、それは必要な事だと思いますので」

「助かる。そうそう、もしかしたら説明の途中で吾輩たちが質問をする事もあるかもしれないが、答えたくない質問については『答えられない』で返してもらって構わない。それは宮廷魔術師長として、先に宣言しておこう」

「ありがとうございます」

 此処からはワタシの魔術の属性について開示する時間になる。

 さて、何処から何処まで話した物だろうか……。

 幸いにして、宮廷魔術師長様の保証付きで、話したくない部分については話さなくていいと言って貰えているが……。


「では順番に進めていきます」

 うん、とりあえず第零属性『魔力』については一切語らない方向で進めよう。

 アレは目にも出ないし。


「ワタシの第一属性は『闇』です。解釈としては……光無き場所、光無くとも在れるもの、光射さぬ場所、覆い隠すもの、休む場所、潜む場所、引きずり込むもの、飲み込むもの、蠢くもの、恐ろしきもの、様々ですね。ああ、ワタシとしては遺憾に思うところですが、災いを招くもの、悪しきもの、呪いや病気、壊すもの、と言った印象も『闇』には含まれるのは認識しています」

「ふむふむ」

 ワタシは左手の指先に『闇』だけで作った球体を生成し、浮かべる。

 その表面は蠢き、揺らぎ、何処か曖昧としたものである。


「主な使い方としては……やはり『影』を利用している事が多いですね」

 揺らいでいた闇が固まり、はっきりとした球体の輪郭を得る。


「ミーメ嬢が『影』を利用するのは利便性の問題ですか?」

「その通りです、ヘルムス様。影は何処にでもありますし、頭の中で形も動きも思い浮かべやすく、普通の『闇』が苦手とする物理的干渉もしやすくなりますから」

 ヘルムス様の質問に答えつつ、ワタシは影の球体をゆっくりと周回運動させる。

 ちなみに、『影』から更に転じて身代わりにするとか、影が傷ついていないから本体も傷ついていないと言うダメージの無効化とか、そう言う魔術も出来るのだが……まあ、今は話さなくていいだろう。


「ミーメ様としては呪いや病気は『闇』の分野ではない。と言う認識なのですね。意外でございます」

「そこについてはワタシの方でも少し調べまして。ただ、長くなるので、詳しくはまた別の機会でお願いします。グレイシア様」

「かしこまりました」

 グレイシア様の質問に関する話については……前世知識と今世の調査、その両方からの結論があるのだが、本当に長くなる話だし、検証も含めて大掛かりな話になると思うので、今この場ではしない。

 きっとその内に話す機会自体はあるだろう。

 ワタシが王城へ招かれた理由の一つに、呪いなどへの対処もあるわけだし。


「他によく使う『闇』の解釈としては、『隠蔽』、『休息』、『侵食』。この辺りは便利なのでよく使っています」

 『隠蔽』は面倒事を避けるために。

 『休息』は効率よく回復をするために。

 『侵食』は……正直、よく使い過ぎていて、もはや具体的な用途が思いつかないくらいだ。『闇』そのものに近いので、使わない方が面倒とも言う。


 さて、第一属性はこれくらいでいいか。


「では続いて第二属性について。正式名称は『人間』です。解釈ですが……これはワタシたち自身。と言うのがまず先にあって、そこから人間には何が出来るのか、人間とはどんなものなのか、人間の職務には何があるか……そもそも人間とは何か、と言うのを考える必要があるわけですが……」

「何処か哲学的だねぇ」

「そうですね。『泥水は水なのか土なのか、何処から泥なのか、何処までが泥水なのか』ではないですが、ワタシ自身、定め切れていない気はします」

 続けて第二属性『人間』について。


「ただ、使い方については分かり易いです。生成した闇に特定の形を取らせる際に使う型。これが一番よく使っている使い方です」

 ワタシの手の上で周回運動をしていた闇が小人の姿を取って、宙を駆け始める。


「俺っちの『槍』やヘルムスの『船』と同じような使い方か。まあ、特定の生物や物の名前を持つ属性なら、普通の使い方だな」

「そうですね。ただこう言うのは、単純な使い方が結局一番強くなって、安定もしますから」

「分かる」

「同感です」

 ジャン様とヘルムス様がワタシの言葉に頷く。

 それに対して他の三人が何の反応も返さないのは、三人の第二属性がそういう物ではないからだろう。


「変わった使い方としては……『闇』属性が主無き闇を掌握できるように、『人間』属性を持つワタシは、人間そのものあるいは人間が作った物についてよく知っている。故に、それらに対して強烈な特効作用を持たせる事が出来る。と言うのがありますが……」

「おや? 話してよいのですか? ミーメ嬢」

「別に構いません。出来るだけで、碌に使ったことがありませんし」

 特効効果については誰も驚かなかった。

 たぶんだが、みんな同じような事をやっているか、過去に同じような事をした人が居るのだろう。

 まあ、これについては対象を絞る事によって、その対象への効力を上げる。と言う話だし、宮廷魔術師なら知っている人が居るのは当然か。


「ミーメちゃんに質問よ~。『人間』属性での生成は出来るのかしら~?」

 と、ここでユフィール様の質問が来る。


「……。ユフィール様が想像している事と一致しているかは分かりませんが、『水』属性が水を生成するかのような、生きている人間を作る事は出来ません。ワタシでは魔力量が絶対的に足りませんから。精々が髪の毛や脂を少量生み出す程度ですね」

「そうなの~。となると~失った内臓を作るみたいなことも出来なさそうね~……」

「そう言う事は出来ませんね。ただ、『闇』の曖昧化などを組み合わせる事で、千切れた腕を繋げるくらいの事は出来ますが」

「あらそうなの~。それなら十分凄いし~もしかしたらお願いする事もあるかもしれないわ~」

 ユフィール様は医療分野の責任者と言うだけあって、ワタシの『人間』属性を医療に使う事を考えていたらしい。

 ただ残念ながら、無くなったパーツそのものを作るのはワタシでは魔力不足だ。

 傷口を曖昧にした上で、傷を負っていない状態の情報を載せる、と言う手法で以って治療の真似事は出来るけど。

 数年前にグロリベス森林の深層で他の狩人の腕が斬り飛ばされる状況に遭遇し、それを治す時にやった事はあるので、これは本当に出来る。


「その時はよろしくお願いします。救命作業なら、ワタシとしても願ったり叶ったりと言う話なので」

「ふふふ~そうね~よろしくね~」

 とりあえず怪我人の治療ならワタシに断る理由は無いので、ユフィール様には頭を下げておく。


「さて次は第三属性ですが……」

「うん、改めて言うけれど。この先は誰も記録に残さないように。これは宮廷魔術師長としての命令だ」

「ありがとうございます。宮廷魔術師長様」

 宮廷魔術師長様の言葉と共に、これまで書記を務めてくれていたグレイシア様がペンを置き、両手も机の上に置く。

 他の人たちも同様だ。


「では始めます。ワタシの第三属性は正式名称を『万能鍵』と言います」

 ワタシの左手の上で周回運動をしていた闇小人が動きを止め、鍵の形をとる。


「『万能鍵』……申し訳ない。吾輩は寡聞にして存じないのだが、どのような属性なのだろうか? 普通の鍵とは何が違うのだろうか?」

「そうですね……」

 さて、どう説明したものだろうか。

 正直なところ、この『万能鍵』と言う属性の説明は難しい。

 ワタシに前世知識があるからこその属性であるため、この世界に無い概念は省くとして……。


「普通の鍵と錠の関係は一対一です。一つの錠に合うのは、その錠に合わせて作られた鍵のみ。つまりは合鍵しか填まりません。これは良いですか?」

「問題ない」

「対して『万能鍵』と言うのは、これだけで複数の異なる形の錠を開けられる。と言う概念。転じて、どんな扉でも封印でも、何ならワタシの行く手を阻む障害であっても、開けてしまえる。排除できてしまう。そのような概念になります」

「「「!?」」」

 ワタシの言葉にヘルムス様以外の面々が驚いたような表情を浮かべている。

 うん、そう言う表情になるのも当然だろう。

 あまりにも何でもありと言うか、ズルのような概念なのだから。


「ああなるほど。希少素材倉庫の扉を開けたのは……」

 なお、ヘルムス様は納得と関心が混ざった表情を浮かべている。


「ではその、ミーメ君がその気になってしまえば王城の宝物庫の扉であっても……」

「開けられます」

「稀代の名工さんが作り上げた、対応する鍵がない複雑な錠前であっても~?」

「簡単に開くと思います」

「封印の魔術で封じられていても駄目でございますか?」

「問題なく解除できると思います」

「錆とかで扉が動かなくなっていても問題なし?」

「たぶん行けますね」

「なるほど。流石は第三属性。規格外と言う他ありませんね」

「そうですね。閉じるのは別に錠が必要ですが、開ける事に限っては反則と言ってもいいと思います」

 ついでに言えば、『闇』と『人間』との相性も極めて良いのが『万能鍵』なのだ。

 なにせ、錠前の中と言うのは基本的に闇で満たされていて、錠前を作るのは人間なのだから。

 相手が人が作った錠である限りは、仮に相手が第三属性持ちであったとしても、たぶん、ワタシには開けられる。

 それも正規ルートだと誤認させた上で。


「なるほど……」

 宮廷魔術師長が少し疲れた顔をしつつも呟き、それからワタシの方へと顔を向ける。


「ミーメ君。宮廷魔術師長として、念のために尋ねておこう。君は第三属性に至る方法について何か話せる事はあるかね?」

 尋ねられたのは、宮廷魔術師長と言う地位にあるならば、尋ねて当然の内容だった。

 だからこそワタシはこう返す他ない。


「そちらについては何もありません。仮にあったとしても話せません。しかし、伝えるべき事はあります」

「それは?」

「第三属性の取り扱いには細心の注意が必要である、と言う話です」

 教えられるのは危険性だけである、と。

さらっと言っていますが。

本作の世界では魔術による物質の恒久的生成が可能になっています。

また、物理法則に魔術、属性、魔力が干渉している場合も多くあります。

なので、我々の知る物理法則が通用しない場合がある事もあります。


これはミーメが前世知識を前面に押し出して何かを作ろうとしない理由の一つでもあります。


12/04誤字訂正

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― 新着の感想 ―
登場人物たちへの紹介・解説という形を取っての自然な流れで設定開示回、アレコレお出ししつつも伏せるものは伏せておけるの便利。 手の上で周回運動する闇の球体→小人→鍵、当人たちにとってはデモンストレーシ…
閉ざされた心の扉とかも開けられますか?
内蔵を作るのは魔力が足りないからだから、儀式魔法を出来るようになれば他の人から魔力を供給してもらうことで出来そうだなあ。 知らない言語を覚えてからだから先は長そうだけと。
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