146:鳩の目は誤魔化せない
本日二話目となります。
ご注意ください。
「とまあ、俺が把握している限りだと、こんな所だな」
『風鳩の魔術師』ドバート様による、上空から覗いた範囲で分かる、領都内の現状についての話が終わった。
そして、ドバート様の話を聞いた結果として……。
「街中に平民の死体が放置されているって頭おかしいんじゃないですか?」
「貴族学校に女子供を集めて人質にしているとは……。常軌を逸しているとしか言えませんね」
「侯爵側の騎士が商店や診療所を襲っているなんてどうかしているわ~」
とりあえずワタシ、グレイシア様、ユフィール様の女性三人は揃って白い目を領都及び侯爵に向けざるを得なかった。
いやうん、本当に酷い話ばかりだった。
領都内の空気が悪いのは現状を考えたら当然かつ仕方がない事であるけれど、その程度では済まないほどに酷い状況で、モラルの類は存在しないと言っても過言ではないようだった。
「船については大型船が一隻だけで、他はすべて小型船……。父が上手くやってくれている事を願うしかありませんね」
「だな。ただ、一隻しかないなら、逃げられる心配は薄そうじゃね?」
「そうだな。最悪、私が追いつきさえすれば、沈めるも港に戻すも容易だろう」
ただ、ヘルムス様たちにとっては予想済みだったのか、あるいはだからこそ侯爵を逃がしてはならぬと冷静になっているのか。
落ち着いた様子で、どう詰めていくのかを話している。
例えば、ヘルムス様とジャン様ならば海側からどう攻めるかを話しているし。
『土壁の魔術師』様と『鉄弓の魔術師』様なら城壁をどう突破するか。
ドバート様と枷を填められた状態だけど実は居た『石抱きの魔術師』様は何処を改めて探るか。
『剛拳の魔術師』様と『渦潮の魔術師』様なら兵士や騎士たちにどう対処するか、と言った具合だ。
「ん? おー……あー……宮廷魔術師長。それと他の奴らも聞いてくれ」
「ふむ。動きがあったのかな? ドバート君」
「ええ、ありました」
どうやら侯爵側に動きがあったらしく、それを察知したドバート様が声を上げ、ワタシを含めた全員がドバード様へと視線を向ける。
「一つ目。城壁の上に騎士たちが何かを設置し始めた。見た限りだと……身長2メートルの人間が両腕を真横に広げたぐらいの大きさと厚みだな。布が掛けられていて中身は分からない」
「私たちへの脅しに磔にされた人間でも掲げるつもりか?」
「いや、たぶんだけど生き物じゃねえな。運び方がそんな感じだ」
「ふむ。レリックを出してきたかな?」
「かもしれません」
ドバート様の報告を聞いて、ワタシは陣地の外に待機させている闇人間と視覚を繋ぎ、強化。自分でも城壁の上を確認してみる。
なるほど、確かにドバート様が報告したような何かが、城壁の上に設置されている。
とは言え、距離が距離なので、ワタシに分かるのはそこまでだが。
とりあえず、掛けられている布を払ったら、大砲のような何かが出て来てワタシたちがまとめて薙ぎ払われる。なんて事態にはならなさそうだ。
「二つ目。侯爵の屋敷から馬車が出て来て、東門……つまり俺たちの方に向かってきている。んで、それに合わせるように兵士や騎士、ついでに武器を持たされただけの平民も各門に集められてる」
「私たちは現在、領都を攻略するために陣地を形成している状態。それが完成する前に一戦交えようと言う腹積もりですか」
「まあ、アジトを襲うために兵士が集まっていると気づいたら、襲われる前にこっちから襲おうってのは犯罪組織もやる手だからな。そこ自体は分からなくはない」
「そうですね。ですが、武器を持たせただけの平民を使うと言う一点で以って、正気でないのは明確でございますが」
どうやら相手はやる気満々であるらしい。
まあ、相手がその気なら、こちらも然るべき措置を取るだけである。
ワタシがそうであるように、ヘルムス様たちもやる気満々だ。
ただ、いざ本当に始まったとしたら……ワタシは暗黒支配を連打して、片っ端から気絶させていけばいいのだろうか?
闇払いの魔道具は持っていても一部の騎士くらいだろうし、これでだいたいの戦力は潰せると思うのだけれど。
『わたしのぐんぜい』は……相手のレリックが明らかになるまでは控えておくか。
余力は出来るだけ持っておきたい。
ちなみに、相手がレリックを持ち出してこない限り、ワタシたち宮廷魔術師を抜きにしても侯爵たちに勝ち目はない。
陣地と言うのは守る側にとって有利に築かれている物だし、攻めるよりも迎撃する方が色んな面で有利だし、陣地背後の魔境から出てくる魔物たちから見て襲いやすいのは陣地の外に居る人間の方なので。
なので、それぞれの担当陣地にワタシたちが急いで戻るような事はない。
「三つ目。イストフィフス侯爵の甥、トレイタル・イストフィフスも出てきた。ただ、どうしてか東門に来た馬車から見つからない位置で、騎士たちを集めて何かを話しているな」
「「「……?」」」
ドバート様の言葉にワタシたちは揃って首を傾げる。
トレイタル・イストフィフスが出陣してくるのは良いとしても、他の侯爵側の手勢から身を隠して集まる理由が分からなかったからだ。
だから、その辺の事情を知ってそうな『石抱きの魔術師』様に視線を向けるのだけど……。
「いや俺も分からん。そもそもクソ親父はトレイタルの奴を次期侯爵、自分の跡を継ぐ者として溺愛しているからな。レリックを与えはしても、何があるか分からない戦場には出さねえ筈だ」
「ふむ。サキ君が何かしたかな? オルッカ君によれば、今の彼女は第二属性『未明』を得ているらしいから、その分だけ精神誘導能力にも磨きがかかっている事だろう」
「んー……あー……その可能性は否定しません。まあ、とりあえず、捕らえる好機ではあるかと」
『石抱きの魔術師』様の言葉に、ヘルムス様たちがどうやってトレイタルを捕えるかを話し合い始める。
折角出て来てくれるのだから、と言う事らしい。
「おいおい。こっちにバレてると思ってないのか? アイツらは」
そうして話し合っている間に侯爵側は更なる動きを見せたらしく、ドバート様が呆れた様子で声を上げる。
「何があったのかね?」
「アイツら、使者の旗を掲げてます。どうやらこっちと話し合いたいようです」
「それはそれは……また面倒で、碌でもない手を打って来たものだ」
「宮廷魔術師長。まさかとは思いますが受けるんで? 正直なところ、俺としては半ばくらいまで来たところで、『鉄弓』辺りに撃ってもらいたいんですが……」
「吾輩たちには立場と言うものがある。状況と性格から考えてほぼ確実に降伏を装って近づき、レリックによる奇襲で吾輩たちを一網打尽にする腹積もりなのだろうが、それでも相手が話をする気ならば話はしなければいけない」
「それはまあ、そうなんですが……」
秩序の側、正義の側であるが故のジレンマと言う奴なのだろう。
宮廷魔術師長様もドバート様も苦々しい表情をしている。
だが実際、罠だと分かっていても、受け入れるしか無いのだろう。
そうでなければ、王城側の正当性など、様々な疑われるべきでないものが疑われ、侵されるべきでない事柄が侵される事になってしまうかもしれないのだから。
ちなみに、降伏勧告……ワタシたちが何故やって来て、侯爵がどのような罪を犯したのかを告げ、諦めるように促すのは明日の朝にする予定だったらしい。
そして、こちらから攻めるのは明日の昼からだったとか。
「宮廷魔術師の皆様方に報告させていただきます! イストフィフス侯爵の義弟、ライアー・イストフィフスが、侯爵の名代として皆様方に面会を求めています」
「分かった。では、吾輩たちが相手をしよう。そうだな……。ミーメ君、ヘルムス君の二人が同行してくれ。他の者は戦闘準備を。ヘルムス君の陣地で何かあった際にはロロシカ君が向かうように」
「了解です」
「分かりました」
「かしこまりました」
そうこうしている内に、領都から出発してきた馬車は近くまでやって来て、畑の真ん中で留まっている状態になったらしい。
なので、ワタシとヘルムス様は宮廷魔術師長様の後に続く形で会合の場所へと向かう。
何かあった時には、ワタシが二人を全力で逃がした後に、叩きのめすことになると思うが……。
相手のレリック……トリニティアイが全力で作り上げた魔道具がどれほどの物なのか分からないので、ワタシが全力を出す必要がある可能性がある事は覚えておくべきだろう。
ロロシカ=『渦潮の魔術師』
04/05誤字訂正




