143:この世界だからこその快進撃
「それでは出発する!」
王城の人間であるヘルムス様、ワタシ、騎士と魔術師、合わせて二十二名。
トレガレー公爵配下の騎士、魔術師、兵士はこの場だけで百名。
合計百二十二名で、ワタシたちはメクセル村からイストフィフス侯爵領へと侵入した。
作戦通りなら、イストフィフス侯爵領の周囲にある他の領地からも、同じように王城側の人間と周辺領地の人間が侵入している事だろう。
さて、侯爵領内の最寄りの村への道は確認済みなので、ワタシの闇人間を先頭と最後尾の両方に置き、魔境の中の獣道を押し広げながら進む。
で、魔物に襲われる事もなく進むこと半日。
ワタシたちは最寄りの村に到着して……。
「お、お前たちはなんだぁ!?」
「此処の村長はどっちだ?」
「黒です。この辺りを管理する子爵に賄賂を渡し、前村長を冤罪で処刑。地位を奪ったようです」
「なるほど。では処分だ」
「なっ!? ギャアアッ!?」
そこの村長である男爵を捕え、処刑し、適当な人物を臨時村長に任命すると、街道を通って直ぐに次の村へと向かい始める。
そして、次の村でも同様にオルッカ様提供のリスト……積極的に侯爵に味方したか否かや、味方するに当たって犯罪行為を働いたかどうかを記したものに従って上層部を処分すると、また次の村へと向かう。
そうやって、侯爵領の村を落としていく。
「サクサクですね」
「そうなるように準備しましたので」
このやり方は村より規模が大きく、人が多い街が相手であってもさほど変わらない。
ワタシかヘルムス様が魔術で門や城壁を破壊し、真っ当な騎士や魔術師は制圧するに留め、街の中に侵入したら侯爵側の人間だけを、その罪状と処分を一方的に告げた上で手分けして始末。
その後の話については今回の件が一通り終わってから改めて通告すると言う話だけ残して、先へと進む。
「「「『グレーディング』からの『アースウォール』!」」」
「柱を建てろぉ! 天幕を張れぇ!」
「手早く飯を食って寝るぞ。明日も早いからな!」
やがて日が暮れ始めれば、その時居た場所を土属性の魔術などで素早く整地し、陣地を構築して休み、日の出と共に再び進軍する。
目指すはイストフィフス侯爵領の領都。
ただ一カ所である。
「それにしてもこの作戦、いったい誰が?」
「騎士団の参謀の方ですね。侯爵領のきな臭さを知っていたので、以前から研究されていたそうです」
「なるほど」
さて、この快進撃は、前世知識にある軍関係のそれとは似ても似つかぬものである。
少なくともワタシの知識の範囲内にはまるで無いような挙動だ。
なので、本当に上手く行くのかと、ワタシとしては当初は不安に思っていたわけだが……今日一日やってみてから冷静に考えてみれば、この世界でなら成立するのだと、納得させられるものだった。
なにせこの世界には魔術、魔物、魔境があるのだから。
魔術がある以上、戦力になるのは魔術が使える人間だけである。
魔物が居る以上、侯爵は自分に迎合しない人間でも魔術を使えるのなら、残すしかなかった。
魔境がある以上、戦力外の人間は簡単には逃げられないし、ワタシたちを追いかける事も出来ない。
そして、当然の話として。
宮廷魔術師であるヘルムス様とワタシに敵うような敵は居らず、王城の騎士と魔術師より質が良い敵もほぼ居らず、数で圧そうにもトレガレー公爵家の方々が居る。
敵味方はオルッカ様によって予め判別されているし、人質の類を取られているから敵対しているだけなら、その問題さえ解決できれば、こちらの戦力になってくれる。
侯爵に人望は無く、民衆に不満は有り、ワタシたちはそれからの解放を謳っていて、実力は王家の旗と侯爵の手の者たちの首と言う形で示されている。
これだけ揃っていれば、サクサク行くのは当然の事だった。
「まあ、私としても、これほど上手く行くのには驚かされましたが」
「あ、ヘルムス様にとっても驚きの成果なんですね」
「それはそうです」
勿論、乱暴な方法ではあるし、問題が多い方法でもある。
その事は決して否定しない。
特に敵味方の判別について、オルッカ様のリストに頼っている比重が大きい事は、後々問題になる可能性も含んでいると思う。
人の内心と言うのは、誰にも推し量れないものなのだから。
「普通の領地で、同じように他の領地から人間の攻撃を受けたのなら、上から下まで一丸になって抵抗すると思いますよ。不意を突けば兵士くらいは魔力無しでも倒せますから」
「それは……そうかもしれませんね」
だがそれでも、イストフィフス侯爵と言う寄生虫を駆除するのであれば、これが適切な手法だった。
そう、そもそもの話として、イストフィフス侯爵とその周囲に居る人間たちは寄生虫なのだ。
寄生虫だから、魔物への対処を自分でする事が出来ない。
寄生虫は宿主を殺してしまえば、自分も死ぬしかない。
そんな生態に、魔境と魔物が沢山あるこの世界の環境が合わされば、彼らは力を持っている風に見せる事は出来ても、多数派には絶対になれない。
だから、真っ当な人あるいは日和見の人がたくさん残っているのは当然の事で、寄生虫を駆除してくれると言うのなら、自分たちが巻き込まれないように立ち回ってやり過ごし、その後次が湧かないように動くと考える人が大半になるのも当然の事だったのだ。
とりあえず、今回の作戦の立案者は色んな意味で上手かったのだろう。とは、内心で思っておく。
「魔物が出た……ぞ?」
「ミーメ嬢」
「闇人間でもう仕留めました。そもそも歩哨として何人か立たせてあります」
「流石です。ミーメ嬢」
むしろ今回の作戦で悩まされるのは魔物の対処の方かもしれない。
実を言えば、今日ここに至るまで、三人ほどの兵士が街道を移動中に隙を突かれ、魔物に殺されている。
街道には小型の魔物除けである腰ほどの高さの土壁があり、これは流石に侯爵領でも備わっていたのだが……侯爵領は侯爵の政策のせいか、その土壁では止まらないような魔物の数が増えているようで、時々ちょっかいを出されるのだ。
今日一日だけでも、十回近くは襲われている。
うん、百人以上の人間が居るのに魔物が襲い掛かって来るのかと思われそうだが、襲い掛かってくるのだ。
それもワタシやヘルムス様、騎士と言った狩るのに時間がかかる相手ではなく、兵士のように不意を突けば一撃で仕留められる相手を積極的に選んできている。
まあ、前世知識によれば、肉食動物が大型の草食動物を狩る際には、基本的に弱っている個体を狙うそうなので、それと似たような話なのだろう。
きっと、これから朝までの間にも、ワタシたちの臭いを嗅ぎつけた魔物たちが何度も襲って来るに違いない。
だったら大きめの街で宿を取ればよかったではないかと思われそうだが……。
「ミーメ嬢。先ほどの街で宿を取るべきだったと思いますか?」
「悩ましいところですね。侯爵にそこまでの忠誠心を抱いている人間がどれだけいるか次第なので、本当に悩ましいところです」
「そうですね。困った事にそこまでの忠誠心を持った人間が一人居るだけでも、ミーメ嬢以外は全滅しかねない。その危険性を考えると……やはり外の方が安全そうですか」
毒の類を盛られる危険性と魔物が襲い掛かってくる危険性では、後者の方が簡単かつ確実に対処出来てしまうのが実情。
魔術を用いれば簡易の陣地構築に一時間かからない事もあって、街の外の方が総合的には安全なのだ。
「それでヘルムス様。あとどれぐらいで目的地に着けると思いますか」
「二日、と言うところでしょうか。私たちだけなら一日とかからないでしょうが、私たちだけが着いても仕方がないので」
「分かりました。では今日はもう寝ておきましょう。明日も早いですし」
「そうですね。そうしましょうか」
こうしてこの日の進軍は終わり……。
二日後の昼。
ワタシたちは小高い丘の上から、イストフィフス侯爵領の領都を見下ろしていた。
本作は戦争ものではないのでね。
この辺はサクサクっと終わらせます。
とりあえず、
魔境と魔物があるせいで、不意打ちとか奇襲とかが著しく難しいし、戦力も限られる。
侯爵と一緒に破滅する事が確定しているので、ワンチャン願って王城に敵対するしかない。と言う事情でもなければ、侯爵に積極的に協力する奴は居ない。
侯爵一派さえ始末すれば、マトモな人の方が多いので、暫くは放置して大丈夫。
この三点さえ分かっていただければ大丈夫です。




