111:呪いへの対処方法
「どうでしょうか? ミーメ嬢」
「一先ずは大丈夫だと思います」
情報共有を済ませてから数日。
ヘルムス様たちは闇と光以外の属性で呪いに対処する方法の雛形を生み出すことに成功。
王族の居住区画にあった花瓶。それに掛けられた呪いを解除した。
そして今現在、ワタシが掛けた呪いモドキ……頭の上から小さな闇人間が現れて踊ると言う魔術を解除できるようになっていた。
しかも、ヘルムス様ならば清められた流水で洗い流す。ジャン様なら焼き清める。グレイシア様ならば凍らせて活動を止めると言う、第二属性は補助的に用いるだけで、メインは第一属性とした、理論を理解できれば魔術師団に所属する第一属性しか持たない魔術師でも劣化再現が可能な形での開発である。
この開発スピードの早さについては、流石は宮廷魔術師としか言いようがない。
これがワタシだと……うん、一般的な闇属性魔術師がよく分からないので、ちょっと真似出来なさそうだ。
「ほっ」
「これで安心でございます」
「いやぁ、良かったぜ」
ただ、当のヘルムス様たちはワタシからの大丈夫だと言う言葉に安堵していた。
此処が魔術の不思議なところと言うか、厄介なところと言うか。
ワタシが持つような『呪いは本来なら闇の専売特許じゃないよな』ぐらいの認識ならば、ちょっと出力が落ちる程度で済む。
しかし、『呪いの解除は光と闇以外に出来るはずがない。絶対に無理!』と言うような強い認識があると、仮に理屈の上では納得できても、魔術が上手く行かない事もあるのだとか。
ただ、更に不思議な事と言うか、人間らしいと言うべきか。
こういう時に権威ある人間の言葉や、先達の上手く行っている姿を見ると、上手く行くようになることがあるし、精度が上がる事もあるようだ。
まあ、結局のところ、魔術とは自分が上手く行くと思っている……つまりは自信がある事が第一なのだろう。
「ただ、本音を言えば、ヘルムス様たちにも自分で自分に呪いが掛かっていないのかを感知する魔術は開発したかったですね」
「申し訳ありません。ミーメ嬢。流石にそちらは情報不足で、まだまだ時間がかかりそうです」
「分かっています。でもあると何かと便利なので、常駐防御に組み込むことも含めてオススメします」
「なるほど」
なお、今回ヘルムス様たちが生み出せたのは、あくまでも目に見えて発症した呪いに対処する方法であり、効果がまだ表れていない呪いを感知する方法は無い。
個人的な意見として、呪いで最も恐ろしいのは、気が付いたらかかっていて、準備完了になっている点なので、そこを感知できる自己感知は対呪いにおいて重要なのだが、流石に時間が足りなかった。
だがこれは仕方がない事だろう。
自己感知……もっと正しく言えば、自己モニターをするためには、自分の正しい情報が必須なのだから。
ワタシはこれをDNAなどの前世知識と『闇』『人間』属性の組み合わせによって簡単に終えてしまっているが、そうではないヘルムス様たちが苦戦するのは、むしろ当然の事だろう。
「まあ、今日の所はワタシが何とかします。餅は餅屋と言う奴ですね」
「モチ?」
「コホン。専門分野は専門家に任せろ。と言う話です」
ワタシの言葉にヘルムス様が首を傾げる。
そう言えば、餅は一般的ではなかったか。米は見かけるのだけど。
なお、ヘルムス様たちが出来るのは、現状ではあくまでも自己解除までであり、他人にかかった呪いについては、現状はワタシたち同士で上手くやれるかを試し合っている段階である。
他人が呪いにかかっているかの判別になるとなおの事。
まあ、この辺に関しては、正に餅屋……専門家に任せるべき話だろう。
ワタシたちは宮廷魔術師であり、魔術の専門家ではあるけれど、魔術の中の一分野である呪いの専門家ではないので。
「なんにせよです。これでディム様から頼まれた事を果たせると思います」
さて、どうして此処まで呪いの対処を学ぶ事に時間を掛けたのか。
その理由は単純で、ディム様から頼まれた呪われた品を教会へ届ける件。
アレをするに当たって、最低限程度には呪いに対処できた方がいいと言うアドバイスが、あの日の後にディム様からあったためである。
なんでも呪い払いを専門としている教会には、王都全体……どころか、王国全体から呪われた品が運ばれてくるそうで、内部の見学までしてきて、詳しい話を聞くのであれば、最低限の対処能力ぐらいは持っておいた方が良いらしい。
で、ワタシに付いて行きたいとヘルムス様とグレイシア様は考え、二人がやるなら仕事で役立つから俺もと言う事でジャン様も参加したのが、今回の経緯だった。
「そうですね」
「同意でございます」
「だなっ」
「「「あっ……」」」
「やっぱり自己感知は必須ですね。ワタシの魔術に気づけないのは属性都合上、仕方が無いとは思いますが」
それはそれとして。
ヘルムス様たちによって一度解除された呪いモドキだが、ワタシはそれを継続して撒いていた。
イメージとしては人間にだけ感染して生えるキノコに近いそれは、ヘルムス様たちに感知される事なく構築が進み、頭の上で小さな闇人間が踊ると言う魔術として結実。効果を無事に発揮している。
もしもこれで生み出される闇人間が害ある何かだったら、それこそ単純に普段使っている身長2メートルの闇人間だったら、それだけでも危険な物だった。
その事実をヘルムス様たちにはしっかりと認識してもらい、対処できるようになってほしい。
ワタシの呪いモドキは四属性混合なので256倍速で成立し、効果も無害な物なので3分ほどで発動するが、普通の呪いは準備に短くとも何日もかけるもの。
なので、自己モニターさえ出来れば、定期的な検査で呪いが準備されている間に感知、対処する事が出来るはずである。
「とりあえず第二属性による人間特効を含んだ隠蔽は無しにしますので、教会に向かう馬車の中で練習しましょうか」
「そうですね。そうしましょうか」
「同感でございます」
「うーん、マジで何時掛けられたのか分からねぇ……」
まあ、とりあえずは『闇』を主体に、ちょっと気づきづらいくらいにした呪いモドキで練習を頑張ってもらうとしよう。
後、ヘルムス様はどうしてかとても楽しそうにしているが、此処は真剣に考えたり、悩んだりしているグレイシア様とジャン様の方が反応としては正しいと思う。
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午後。
ワタシたちは荷物を持ち、馬車に乗って、王都に幾つかあるトリニア教の教会の一つへとやって来ていた。
トリニア教・グロリアブレイド王国方面・王都支部……のさらに支部となる教会。
『聖アンザンシ教会』と言うそうで、呪い払いなど、呪いに対処する事を専門とした教会であり、末端ではあるけれど、他の末端よりも強い力を持っている教会だそうだ。
馬車の窓から見ても造形美については知識がないので分からない。
ただ、呪いを封じ込めるためなのか、周囲の建物に比べて、光属性が全体的に濃いように思える建物だった。
「ミーメ嬢。お手を」
「はい」
教会の前……ではなく、裏口に近い所に着いたところで馬車は止まる。
そして、まずはヘルムス様が降り、続けてヘルムス様にエスコートされてワタシが降りる。
それからジャン様、グレイシア様と続き、最後に王族の居住区画で発見された自然に呪われてしまった三つの品が収まった鞄を持つ闇人間が降りて来て、鞄をジャン様に渡して消える。
「宮廷魔術師の皆様ですね」
出迎えは直ぐに来た。
教会の裏口が開けられて、その向こうから修道女の格好をした女性が現れる。
その瞳は紫色……精神属性。
ただ、瞳よりも目を引いたのは、顔の左側に大きく残る火傷の痕であり、少しぎこちなさがある左手の動き。
そして、ワタシよりも明らかに整った所作だった。
「本日は御足労いただきありがとうございます。皆様を案内させていただきます、トリニア教修道女。サキ・イストフィフスと申します」
しかし、そんな彼女よりも更に気になったのは……。
「ええ、よろしくお願いします」
「お、おお。よろしくな」
正に作り物と言った笑顔を浮かべるヘルムス様と何処か戸惑った様子を見せるジャン様の姿だった。




