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トリニティアイ -転生平民魔術師の王城勤務-  作者: 栗木下
4:呪いを扱う者

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110/122

110:船と石抱き ※

今回は第三者視点となります。

ご注意ください。

「さて、どうしたものですかね?」

 ミーメたちが呪い返しのその後についてや、呪われた品の経路についての情報共有を済ませた後。

 ヘルムスは自分の部屋に戻ると、ディムから出された課題でもある、光と闇以外の属性で呪いに対処する方法を考えていた。

 机の上には既にいくつかの案が紙に書かれた状態で出されている。

 だが、どれが呪いに対して有効的であるかは、ヘルムスには判断が付かなかった。


コンコンッ


「どうぞ」

 これ以上はミーメに聞いてみなければ分からないだろう。

 そう考えたヘルムスがペンと紙を片付けようとした時だった。

 部屋の扉がノックされて、一人の男が入ってくる。

 それはヘルムスにとって予想外と言ってもいい人物だった。


「よう。調子はどうだ? トレガレーの坊ちゃん」

 現れた男の右目は茶色……土属性で、左目はこげ茶で横長の虹彩を持った、潰れたカエルを思わせるような、何処か人から外れたように見えるもの。

 顔は嫌味たらっしい笑みを浮かべ、声はヘルムスを挑発をするかのような物。

 服装は宮廷魔術師のそれだが、魔道具を幾つも持ち込んでいる気配をさせていた。

 男の名はライオット・フォン・イストフィフス。

 公的な身分を述べるならば、イストフィフス現侯爵の長男であり、宮廷魔術師の一人である『石抱きの魔術師』その人でもある。


「何の用ですか? 『石抱きの魔術師』殿」

 そんなライオットの登場にヘルムスにしては珍しく苦々しい顔をする。

 そして、茶を出すこともなく、それどころか杖を握った上で、用件を促す。

 何時戦いが始まってもおかしくないような空気で部屋の中を満たしつつ、盗聴用の魔道具が無いかの確認や、入り口のドアがきちんと閉じられたのかを確かめる。

 はっきり言って、ヘルムスのそれは客人や先達に対する態度ではなかった。


「相変わらずだな」

「当然の反応でしょう」

 実のところ、二人自身の間には然したる因縁は無い。

 だが、家で見れば浅からぬ縁があった。

 故にライオットは挑発的な態度を崩さず、ヘルムスは敵愾心を隠さない。


「今回は真っ当な情報提供だよ。一つ、うちのクソ親父が『闇軍の魔女』を欲しがり始めた」

「漏らしたのですか?」

「誰が漏らすか。単純に『闇軍の魔女』がしでかした事が大き過ぎて、王都全体から情報を集めて、きちんと処理したら、俯瞰している奴からは異常なのが分かっちまう。そう言う話だ」

「そうですか。情報感謝します」

 そうしなければ、怪しまれてしまうから。


「それで、それだけの情報の為にこちらに?」

「まだあるぞ。あのクソ親父が冗談を言い始めた。『『闇軍の魔女』をトレガレーの三男坊から奪い取れ。そうすれば貴様に侯爵家嫡男の座をくれてやる』だとさ」

「ははは、遂にボケましたか? 全くもって面白くない冗談ですね」

「その点については同感だな。ああ、理屈としては、『公爵家の三男では、結局、家を出る他ない。そうすれば待っているのは子爵夫人。だが、侯爵家の嫡男と結婚すれば、いずれは侯爵夫人。どちらの方がより素晴らしいかなど考えるまでもない』と言う事らしいぜ」

「ははははは。そうですか」

 ライオットは誰かを真似るようにふてぶてしく物を語る。

 それをヘルムスは見た目だけは笑顔で応じる。


「「……」」

 気が付けば、部屋には程度の低い魔物ならばそれだけで逃げ出しそうな空気が立ち込めていた。


「ミーメ嬢を狙うつもりですか?」

「馬鹿を言え。俺はあの嬢ちゃんの正体を知らされている身だぞ。敬虔なトリニア教徒として、正体を知っていて狙うなんて不遜な真似が出来るか」

「そうですか」

「そもそもだ。俺は32歳だぞ。対して嬢ちゃんは実年齢16歳で、見た目だけなら10歳でも通じる。お前みたいに前々から慕っていますと公言していたならともかく、今ここで俺が嬢ちゃんに対して婚姻を申し出たら社会的に抹殺されるっての。社会的に抹殺されなくても俺自身が恥ずかしさで憤死するっての。つーか、義妹から軽蔑の目を向けられるのが目に見えている時点でこの選択はあり得ねんだよ。根本的にあの嬢ちゃんの見た目は俺の好みとは真反対ってのもあるが、まず第一に義妹から俺がどう思われるかを考えたら、あー……考えたくもねぇ!」

 ライオットがまるで言い訳を述べるかのように早口でまくし立てる。

 その姿にヘルムスは何処か呆れた様子を見せながら、言葉を返す。


「ではどうすると? イストフィフス侯爵家の名を未だに捨てていない以上は、当主の命令に逆らう気は無いのでしょう?」

「と、いけねぇ。そうだった。今日は命乞いに来たんだった」

「……。やはりそう言う事ですか」

「まあな。クソ親父曰く『儂の傘下に来る気がないどころか、トレガレー公爵家の下に収まるのなら、殺してしまえ』だそうだ。流石にこっちは言外に匂わせるだけで、明言も無ければ、文章化もしてくれなかったけどな」

「してくれれば楽だったものを」

「同感だ」

 宮廷魔術師は国に仕える魔術師である。

 その命や動向をどうにか出来るのは国だけであるし、その国にしても周囲が納得するだけの理屈を持ち出さなければならない。

 これは貴族にとっては常識と言っても差支えの無い話だった。

 それを無視しているのだから、イストフィフス侯爵が白眼視され、呆れられるのも当然の事と言う他なかった。


「だがまあ、俺如きが嬢ちゃんに勝てるはずはない。しかし、今後の事を考えると、俺が侯爵を裏切ったと気づかれるのも良くない」

「だから命乞い。ですか」

「そう言うこったな。何時仕掛けるかは明言しないが、仕掛けられた時はまあ、適当に返してくれ。あの嬢ちゃんなら、俺の全力ぐらいどうとでもなるだろ」

「ははは。つい反撃をやり過ぎるかもしれませんよ」

「最悪、義妹が無事なら文句は言わねえよ。クソみたいな提案をしている自覚はあるしな」

 しかし、それでもイストフィフス侯爵は侯爵である。

 手下は多く、手綱も握っていて、そう易々と首は落とせない。

 咎めるためには相応の準備と手続きと証拠が必要であった。


「……。それで? こんな会話を私としていて大丈夫なのですか?」

「心配しなくても、今日は挑発ついでに『闇軍の魔女』の好みやら何やらを聞いてくるって話してあらぁ。お前が宮廷魔術師相手なら誰彼構わずに年下師匠様の事を熱心に語るってのはよく知られている話だからな。盗聴器の類もお前ならちゃんと潰しているだろ」

「なるほど」

 と、ここでライオットの言葉を聞いたヘルムスが立ち上がる。

 その動作と表情にライオットは思わず『しまった』と言う表情を浮かべる。


「では折角なので語りましょうか。ミーメ嬢が如何に素晴らしいかを」

「あー! 待った! 待った!! 語らなくても……」

「ミーメ嬢と私の出会いは……」

 ヘルムスがミーメについて語り始める。

 滔々と、朗々と、ある事だけを語る。

 ある事だけしか語っていないのに、その熱量の前では聞く者は圧倒される他なかった。

 だが、此処に居るのは、これを散々に聞かされて、部屋を動くとなった時に泣いて喜んだとある宮廷魔術師ではない。

 故に。


「ええい! だったら俺も義妹の素晴らしさを語れるだけ語ってやらぁ!」

「受けて立ちましょう」

 ライオットは義妹……サキ・イストフィフスと言う名前の女性について、語っても問題の無い範囲で語る。

 熱烈に、切れ目なく、ある事だけを語る。

 その言葉に含まれる熱量は、ヘルムスがミーメについて語る時に勝るとも劣らない物だった。


「「はぁはぁ……」」

 それでもやがて息は切れ、頭の中で湧く言葉は尽きずとも、口は動かず、取っ組み合いの直前であったかのような空気は霧散していく。

 だが、仮に現状を目撃した者が居たとしても、どのような話をしていたかには決して辿り着けず、激しい口論があったと言う半分正しい答えまでしか行き着けないだろう。

 それぐらいには、トレガレー公爵家とイストフィフス侯爵家の間には確執と呼ぶべきものがあった。


 ただ、もしもこの場に第三者ではなく、話題に上がっていた当人の二人が居たら、きっと揃ってこう思っていた事だろう。


『何をやっているんだ。こいつら』


 と。

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― 新着の感想 ―
この部屋の記録が、もしあってミーメとサキが見たらどうなるんだろ 他の方の感想で思ったのは、ミーメなどの監視化で呪い「っぽいと認定できる魔力の挙動をする品」に思いついた手を試す訓練は出来ないかなー。 …
この2人の間の敵愾心って、家以前に、その、推し語りのライバルなんじゃなかろーか。私の推しの方が素晴らしいに決まってる!みたいな。もしくは同族嫌悪w
大型犬が二頭に増えた……。
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