100:閑話-国王と宰相と宮廷魔術師二人
閑話です。
閑話の共通テーマを挙げるのなら、その一つは『ミーメが関わったアレコレのその後』と言う事になるのでしょう。
「何とかなったか」
「何とかなりましたね」
「何とかなったねぇ」
「……」
王城の一室、王の執務室にて。
グロリアブレイド王国国王ケルウス・フォン・グロリアブレイド、グロリアブレイド王国宰相ウィート・フォン・グレンストア、グロリアブレイド王国宮廷魔術師長ジョーリィ・ウインスキーの三人は揃って息を吐いていた。
それを無言で眺めつつも、周囲を警戒するのは、グロリアブレイド王国親衛隊の隊長にして宮廷魔術師が一人、『光盾の魔術師』カツリッコミ・フォン・ガドオールただ一人である。
「いやぁ、こんな大任を果たしたのなら、吾輩はもう宮廷魔術師長を引退しても良いんじゃないかな? 制度改めついでにヘルムス君辺りに座を譲るのも有りだと思うんだよね」
「ははは。この不忠者め、何を言うか。貴様だけこの先に起こるであろう問題から逃げようとしても逃がさんぞ。逃がしたら余が死ぬからなぁ」
「陛下に同感ですな。逃がしませんぞ、ジョーリィ。この中で最初に引退するのは私にならなければ。それが世の為、国の為と言うもの。ははははは」
「……」
宮廷魔術師長と宰相は歳が同じで、貴族院の頃から付き合いがあった。
国王と親衛隊隊長は幼馴染。
そして、国王が皇太子だった頃から、多少の歳の差はあれど、四人揃って公私共に仲良くしていた。
その為、部屋の空気は軽く、冗談も普通に飛び交う。
「それで宰相、宮廷魔術師長、それから親衛隊隊長。問題は起きると思うか?」
そんな明るい空気の中で、極自然に国王は先ほど決まった件について記された羊皮紙を机の上に広げた上で、残りの三人に問う。
羊皮紙の内容を簡単にまとめるなら。
『闇軍の魔女』ミーメの提唱した魔術の八顕現及び第二属性の積極的発現の実証実験を行うに当たって、被験者となる者の選定をどのようにして行うか。
となる。
「問題は確実に起こるでしょう。むしろ起こらない方がおかしい。貴族であるならば……いえ、多少なりとも魔術に詳しい人間であれば、この果実に手を伸ばさない訳がない」
「しかも手を伸ばして失敗しても、自分に損があるわけじゃないからねぇ。問題を起こすなってのは当たり前の話だし」
「人が人である以上、問題が起きるのは避けられない事かと」
「まあ、そうなるか。当然の事だな」
当然のことながら議論は揉めに揉めた。
まだ上手く行くか分からない……と言うより、それを確かめるための実証実験の段階であるにも関わらず、関われるなら何としてでも関わって見せると、議論に参加した誰も彼もが、少しでも自分の利益が増すように立ち回り、自分と敵対する者の利益を減じようとした。
はっきり言って、こうしてまとまったのは半分は奇跡であり、もう半分はノスタと言う分かり易い脅威が示されたおかげだった。
特に後者の件が無ければ、今もまだ議論は続いていた事だろう。
それぐらいには揉めた。
「なにせ、この実験が上手く行ったなら、第二属性を保有する魔術師の数が一気に増える。しかも、推薦した者とされた者と言う縁がある宮廷魔術師。これまでは辺境伯領や侯爵領に大戦力となるような宮廷魔術師を常駐させる事は難しかったが、それも変わるかもしれない。辺境伯以上でこれが欲しくないと言ったら、そやつは無能として扱わない訳にはいかんぐらいだ」
しかし、それほどまでに揉めたのも当然の事だった。
これまでの第二属性持ちは、魔術師が厳しい研鑽の果てに自然と生まれる者だったのに対して、『闇軍の魔女』の方法を使えば、ある程度は第二属性持ちを狙って生み出せる。
しかも、知識である以上、上手く行ったのなら、第二属性持ちの数を爆発的に増やせる可能性がある。
第二属性持ちの利便性と戦闘能力も合わせて考えれば、その利益が膨大な物になる事は確実であり、新たな権益として求めない方がおかしいとなるのは、当然の事だった。
「しかしこうなると、犠牲になった民や兵士には申し訳ないけれど、ノスタの事件があって助かったかもしれないね。吾輩としては、アレのおかげで規制周りに手が入れやすくなった」
「宮廷魔術師長に同意ですな。たった一人の第二属性持ちでも、時間をかけ、貴族の援助を受ければ、あれほどの惨事を生めると言う実例は、各種制限を組み込むための理由としては都合が良いものではありました」
だが、それほどの利益を生むと同時に、ノスタと言う問題が起きた場合の実例もあった事で、選ばれるべきでない人間を選ばないためにも、選定には様々な条件が課される事となった。
少し例を挙げるのならば。
・王城または辺境伯以上の爵位を持つ家に一年以上勤め、勤める前含めて、これまでに大きな問題を起こしていない。
・王家、あるいは辺境伯以上の爵位を持つ者、これらから合わせて二名以上から推薦される事。
・王家が推薦された者を調査して、思想・言動・身元に問題が無いと判断された事。
と言った具合である。
そして、これらの条件に加えて、推薦された者が大きなトラブルを起こした場合には、当人だけでなく推薦者も責任が問われる事があることを明記。
その他にも様々な制約や条件を加えて、被験者の選定を行う事になったのだった。
なお、繰り返すが、現状はまだ実証実験の段階であり、それもまだ試しにやってみようくらいの気持ちで行われるものである。
それでもなお、これほどの騒ぎになっているのだから、第二属性持ちがどれほど望まれているのかは推して知るべきである。
「それで、どの程度で成果は上がると思う?」
「うーん、ミーメ君は3年、ヘルムス君は1年。これまでの研鑽もあるわけだし、本当に早い子だと半年も経たずにって事もあり得るかもしれないね。長くても……まあ、5年までは様子を見ていいんじゃないかな。やっぱり相性とか、熱意とか、知識量の差とかあるだろうし」
「そうか。では、まずは半年毎に様子を見て、必要なら来年の今頃にでも見直しとまとめだな」
しかし、最初の方に述べられた通り、様々な制約が課されても、問題が起きる事は予見されていた。
「後は誰が待てないかだが……。まあ、あそこか」
「あそこでしょうな」
「あそこだろうねぇ」
「……」
なにせ、内容が内容である。
癒着、汚職、地位の濫用、酷使、知識の簒奪、等々。
誰を候補者として擁立するかと言う時点から、ありとあらゆる犯罪が関わってくる事は、容易に想像できたし、第二属性に目覚めた後にノスタのように犯罪を起こす場合もあり得るだろう。
そして、これらの犯罪を自ら積極的に行いそうな家について、この場に居る四人が知らない訳が無かった。
「まあ、事が起きてからで良いだろう。妙な疑惑を持たれても面倒だ」
「そうですな」
「そうでしょうね」
「……」
しかし、それらの犯罪が行われたとしても、第二属性を扱える者を増やさなければいけない理由が王国にはあった。
それはドラゴンの脅威。
グロリアブレイド王国に襲い掛かって来るドラゴンの数は確実に増えている。
それが今後も増えるのか、逆に減るかはドラゴンの生態にはっきりとしない部分も多いので分からないが、王国としては増えるものとして扱わざるを得なかった。
そしてドラゴンを抜きにしても、グロリベス森林の深層のように、一筋縄ではいかない魔境は幾らでもあった。
なにせ、グロリアブレイド王国は他国と国境を接しておらず、魔境に囲われ、魔境を抱える、開拓の国なのだから。
これらの事情を考えたのなら、第二属性持ちを増やさない理由など無かった。
「ところで陛下。諸外国が知った時には如何しますか?」
「……。まずは実証実験が済んでからだ。不確かなものを親しい相手に伝えたいとは思えん。済んだ後なら、我が国と直接やり取りがある二か国の王家ならば、伝えても良いだろう。魔境と魔物に悩まされているのは何処の国も同じなのだからな」
「ではそのように。まあ、対応するのはトレガレー公爵となるでしょうが」
「まあ、トレガレー公爵にとっては身内の話のような物だ。王家として指針は出すが、細かい所は公爵に任せるのが筋と言うもの。任せてしまおう」
そうして数日後。
条件が知らされると共に、候補者の選定作業が始まるのだった。
ケルウス・フォン・グロリアブレイド:国王。ようやく登場
ウィート・フォン・グレンストア:宰相。現グレンストア公爵の弟でもある。たぶん、もう直ぐフォンが外れる。
ジョーリィ・ウインスキー:宮廷魔術師長。余談だが、息子が二人居て、どちらも魔術師。
カツリッコミ・フォン・ガドオール:親衛隊隊長にして宮廷魔術師。『光盾の魔術師』。光・盾属性。ちなみに奥さんも宮廷魔術師(『白花の魔女』)。
次回からは第四章に入りますが、投稿開始までしばしお待ちくださいませ。




