第96話 鑑定士フーロンとマジックボックス
パッカパッカと馬を走らせる。
ナナの村を離れて若干二日酔い気味であるがやっと自由になった。
「うっぷ……」
馬を止めて少し道のはじっこで吐く。
だって空が明るくなるまで飲んだんだよ? 送別会って言ってもやり過ぎだろ……。
何度俺は英雄じゃないってもゼン村長の悪乗りはおわらないし。
「おろろろろろ……はぁすっきりした」
現在の装備はアンジュの剣。
革袋。
タオルなど入った簡単なカバン。
ミレニアム金貨7枚。
メーリスからもらったスタンガン程度の銃。
これは便利だ、いづれ師匠に食らわせて遊びたい。
さて……地図を確認したけどこのまままっすぐ行くと簡単な宿場。途中で曲がると山々が見える。
「どうするかな……カンザの街に行くか、フェーン山脈を目指すか……」
師匠の家まで向かってもいいが道が険しい。
ゲーム内では飛空艇で降りた先だったし、徒歩の道はあるとは思うんだけど。
師匠と再会するにしても、不老不死にはなっておきたいのもある。
それも結構早めに。
「カンザで情報を集めるか……前回は師匠がフェーン山脈にいる! と思って先回りして転移の門を使おうとしたけど、あれから何ヶ月……いや1年はアッチの世界にいたから2年近く? はぐれた時の待合場所作っておけばよかった……後は通信道具とかさ……俺が知ってるのは」
精霊通信、これは精霊使いが遠くの精霊使いと通じて伝言ゲームみたいな奴。と攻略ページで説明を見た、欠点は間に精霊が入るのでたまに間違った情報になる事…………だめじゃん。
次に水晶球、よくある水晶で会話するアレなんだけど音声はないので文字もしくはジェスチャーで会話するとかなんとか。
他には伝書動物、郵便、ギルドの連絡版。
それぐらいだ。
スマホというようなものは無い。
「なんだったらGPSでも仕込んでおきたい……であれば師匠の場所わかるだけどなぁ」
ま、考えていてもしょうがない。
俺の考えとしてはなるべく大きな街に行って遠回りしながらフェーン山脈に行く。って事かなぁ……師匠が暴れてくれれば見つけやすいけど、そんな性格じゃないだろうし。
後カンザの街にはあのキャラがいるし、ちょっとした補充もしておきたい。
何十年も生きてるだけからだらけてるんだよな基本。
うん、やっぱここは俺が救うしかない。
と、言う事で宿場が見えて来た。
流石に馬は早い。
小さい宿場には人が沢山いて近くの酒場で飯と宿をを頼む。
翌朝になっても人は多く、少し気になるがまぁ俺には関係ない。
そのままさらに道なりに進むこと3日。
「ついたぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
馬を降りた俺は両腕を空にあげ祈るように組む。
足は膝たちで上空にウォーターボールをいくつも出して直ぐに破裂させた。
雨のように魔力の水が降ってくると俺の頭や衣服を豪快に濡らす。
すぐ乾くけど。
周りの旅人が俺を避けてカンザの街に入っていくのが見えたが気にしない。
しばらくそうすると、俺は立ち上がり愛馬黒龍王の手綱を手に取って門兵の所へと歩く。
「………………入街を希望するのか?」
「え。駄目?」
「………………先ほどから見ていたが、魔法使いか? その町に入る儀式とか呪いとかじゃないよな?」
「魔法は使えるぐらいで、呪いじゃない。他の人みてよ街に来たのに皆感動的じゃないというか、俺はその喜びを体で表現していたんだけど」
「そ、そうか……別に普通の街と思うけどな。じゃぁ一般人なら金貨1枚冒険者なら銀貨3枚、何か書類あればそれを」
当然俺は金貨1枚何だけど、事前にゼン村長から紹介状は貰ってある。
「はい紹介状」
「紹介状もちとは珍しいな、確認に時間がかかるがいいか?」
「もちろん」
その間に愛馬黒竜王を売りに出す。
非常にも思えるが馬の管理何て街中で出来ないし、管理してもらうのにもお金がかかる。
名前をつけたが、別に馬の色も黒毛ではない。
愛馬をさっさっと馬屋に引き渡すと金貨5枚ほど増えた。
まずは冒険者ギルドだな。
手持ちのミレニアム金貨を換金したい、もしくは俺もそろそろマジックボックスを手に入れたい。
かさばるし物が持てない。
1枚で金貨2000枚分だよ! って言われてもだ。
うかつに使えない。
そこの食べ物屋、串焼きが銀貨2枚だ。
お釣りが金貨1999枚と銀貨8枚渡されても困るし店だって困るだろうなぁ。
この街ならおそらく換金もできるだろう、全体的に大きな街だし。
観光場所は少ないが周りにはダンジョンもあるし、冒険者も多い。
冒険者が多ければ、それをカモにする商売人もめちゃくちゃ多い。
駄目な所をしいていえば冒険者の命が軽い。
特に帝国では王国よりも魔物が強いから……ゲームでもバンバンモブキャラは退場してる。
「っと、ここだな」
S級冒険者求む! 一緒に働きましょう。という張り紙を見ながら古臭い扉を開けた。
比較的混んでいて、田舎にあるよそ者が来た! という視線はあまり感じられない。
近くのカウンターを素通りして一番奥のカウンターへ座る。
目の前の受付が一瞬嫌な顔したが気にしては駄目だ。
「…………他のカウンター開いてますよ?」
「ここがいい」
「はぁ、ではご用件を」
俺は革袋からミレニアム金貨7枚を並べる。
「これ6枚でマジックボックス……小さくてもいい買える? 残り1枚は換金。でも俺は袋が持ってない」
「…………こちらの事を知っての買取ですか?」
「…………若干」
改めて目の前のギルド員を見る。
鑑定士フーロン。
黒髪ロングの女性、片目だけ青色で唯一無二の……じゃないか、とにかく俺が知ってる範囲でスキル鑑定を持つ若い女性である。
呪われたアイテムなど誰が装備できるか。などアイテムを鑑定してくれて助かる女性。
ゲーム内で『ドエッチな下着』を鑑定してもらうと殴られるミニイベントがある…………普通はそこで終わりなんだけどその夜にちょっとしたイベントが。
フーロン本人は鑑定スキルが凄すぎて、相手の趣味や本当の性格をついつい鑑定してしまい婚期を逃してる女性で、例によってクウガに惚れる。
このフロンが偽物を本物! というだけで偽物が本物になる場合も、それもあって本人に賄賂などは一切効かない。
「で、あれば本気をだしましょう。この金貨が本物なのか……話はそれからです」
フーロンが片目だけの眼鏡をつけると青白い目が光りだす。
魔力があふれているのが俺はわかった。
1枚1枚丁寧に調べると最後のコインをカウンターに置く。
「どうやら本物のようですね……ミレニアム金貨の前期と後期が混ざっていますが保存状態もいい方です。マジックボックスですが冒険者カードは?」
「無いよ、冒険者じゃないし」
「そうですか、で有ればお売りできません」
ふむ。
「それはこの金貨が出所不明だから?」
「いえ冒険者ギルドは余程の物じゃない限り買い取りますよもっとも冒険者であってもマジックボックスはBランクからじゃないとお売りできません。それとお金が足りませんね……ミレニアム金貨あと5枚は欲しい所です」
「そこを何とか! フーロンちゃん!」
「…………名前教えましたっけ?」
「いやだって君の事少し知ってるって俺さっき言ったような」
ん。
魔力の流れが変わった。
目の前のフーロンの片目がいや黒目の方がさらに黒くなったきがする。
お? 俺を鑑定か……別に鑑定されてやましい事はないけど、どこまで出るんだろう。
前世が日本人とかでるのかな。
実は縛りプレイに興味がある。とか出たら恥ずかしいんだけど。
「っ!?」
フーロンは黒目の方を両手で抑えた。
「大丈夫? 俺の鑑定だよね凄い気になるから結果だけ教えて」
「なっ……こっそり鑑定したのに……」
「魔力の流れ変わったからね……で、俺の情報気になる」
「……鑑定されて喜ぶ人がいるとは、大変失礼しました。ギルド員失格ですね」
「いや、だから俺の情報を」
「…………変わった人。結果から言うと見えませんでした」
「まじで」
「ええ。まるで死人のよう、いえ死人でさえ生前の名前などわかるのですが……」
あー……普通なら1年以上前に俺しんでるもんね。
「あの」
「何?」
フーロンが俺の顔をじっと見つめてる。
「結婚を前提に付き合ってください」
「ぶっ!」
思わず吹き出してせき込む。
周りの冒険者が何事かと俺達を見ている。
「フーロンちゃん?」
「あなたのように鑑定できない存在は久しぶりです。私達きっと上手くいくと思うです。マジックボックスでしたよね、任せてください不正でも何でもして手に入れますので」
「いやいや、奥にいる人に聞かれてるからね」
フーロンの声が聞こえているのか持っている書類を目にしないで俺達を見たまま固まっている半裸の女性がいた。
間違えてなければここのギルド長で剛腕のウエンディ。
「あと俺一応恋人いるし」
「…………わかりました……物理的にいなくなれば大丈夫ですよね?」
「大丈夫じゃないから!」




