第93話 別に全滅させてもなぁ。と思うクロウベル
眠たそうなゼンが寝室から出てくると、昼間の魔物が襲ってきたおっさんから話を聞きだした。
ミナとメーリスも起きてきて……うわぁミナはスケスケの服の上から厚手の布を体にかけている。
えっちだ。
「ドッコンよ。もうそのようなアレは言わなくても大丈夫じゃ。この客人はこの村に残らないし――金も――」
あのおっさんはドッコンって言うのか、ドッコンドコドッコン……。
2人の声が突然小さくなって聞こえにくい。
ゼン村長が『金も落とさない?』と、言ったような聞き間違いか。
別に助けたお礼の請求もされてないし無償で助けてくれてるっぽいし。
「違う村長! 本当に出たんだ。あの洞窟からハグレゴブリンから始まって、洞窟スライム。メイジオーク。稲刈カブトまで……ざっとみたが200匹ぐらいは」
懐かしい名前だ。
ハグレゴブリンはここに来る途中に出た魔物。
洞窟スライムは、そのまま洞窟に住み着いたスライム。骨何でも溶かすので結構ぐろい……因みに魔法をかけた箱に入れてゴミ箱として売ってる店もあるらしい。
メイジオークは変に知能を付けたオーク、オークならこぶしで来いよ! とおもうがオークなのでこぶしも強い、人間なんてアッパー食らったら粉砕されるはず。
稲刈カブトは、草木を食う昆虫型魔物。人間も食う、これは煙が嫌いなので蚊取り線香みたいなのに火をつければ寄ってこない。
そもそもだ。
《《昼間に撃退出来るんだから俺の出番はない。》》
「じゃっ俺はミナと控え室に行くから。あっメーリスも来る?」
「だ、大丈夫なの!? 魔物なんでしょ? 私冒険者っても鍛冶師メインで戦えないわよ!!」
「大丈夫と思うよ、この村民強いっぽいし、昼間も撃退したとか」
メーリスが「じゃぁ安心ね」って言うと。ミナ。ゼン。ドッコンの顔色が悪い。
誰か何かを言いたそうな感じだ。
薄着のミナが突然に手を叩く。
「うお! な、なに?」
「クロウベルさん! 実をいうと昼間の襲撃はスライム2匹だったのです!」
「そ、そうなの!? そこのおっさ……ドッコンさんが血相変えて来ていたけど」
んなばかな。
スライム2匹であればこん棒で叩きつつけばいずれ勝てる。
「はい! ドッコンさんはスライムにトラウマがあって。そうですよね!」
ミナが力強くいうとドッコンは「ああ、そうだ! スライム1匹でも怖い、昔スライムジュースにあたって……」と、言いだす。
ゼン村長も突然に俺の手を握って来た。
「客人よ。ハグレゴブリンを倒せるほどの実力があると、夕飯の時にメーリス殿が話していたな。ど、どうが防衛を」
「え。いやなんだけど」
わかりました。ここは任せてください!
「…………」
「…………」
俺と村長を含めて全員が無言になる。
「はっ!? 思わず心の声と建前が逆に」
「客人よ! じ、時間がないんじゃ。頼む! ほれミナも」
「クロウベルさん。私死にたくない! 守ってくれたらなんでもするから、お願い」
「オレも何でもする。穴を差し出せといえば出す、助けてくれ!」
ミナはともかく、ドッコンの尻なんて要らない。
いや、ミナのもいらないんだけどさ。
アンジェリカの教えでたとえ1人の人間が強くても国は守れません。と教えられている。
「出てもいいけど、俺の力は全体を守れないよ? 軍師とかじゃないんだしさ」
「そ、それでもお願いします」
「何人も死ぬかもしれないし」
「それでも村が滅びるよりは」
「ダンジョンに行くふりして逃げるよ」
「信じてます……クロウベルさんならきっと」
俺の何を信じているんだ。
まだあって2日も経ってない。
「仕方がないか……やるだけやるけど。ダンジョンの入り口はどうする?」
「結界が破られるほどの力とは……後で村の者が結界を張り直しに」
「んじゃ、時間稼ぎって所か」
メーリスと目があった。
「頼むから絶対にたのんだわよ。まだこの村から金だって貰ってないんだし! 徒歩で次の村まで行くのに何日かかると思ってるのよ!」
「それもそうか」
アンジェリカの剣を持って外に出る。
村人数人がすでに村長宅前にいて俺を見ている、やだなーこういうの……俺に何かを期待した目で見ているけど、俺は英雄でもなんでもないんだしさ。
近くの村人にダンジョンの場所を聞く。
「ダンジョンってどこ?」
「あの見える山、そこのふもとに大きな穴があるんで……そこに結界で固めた入口が」
「なるほど? この馬借りて言い?」
「どうぞ、ドッコンのですが」
俺は馬の首筋を撫で、そのまま乗り込む。
言われた通りに走ると、洞窟スライムと稲刈カブトが見えてくる。
「うげ。数が多い……水槍・連!」
パット見た感じ200体といってもスライムと稲刈カブト少々。あとはハグレゴブリンとメイジオークか。
そっちの方が楽ではある。
だって虫は標的が小さいしスライムは斬っても斬りごたえがない。
ハグレゴブリンが俺を見つけては雄たけびを上げた、馬の首を軽くなで急停止させる。あれのほうが倒し甲斐がある。
「帰っていいよ」
馬にそういうと俺は降りてアンジェの剣を振り回す。
水竜を召喚し、先にいかせた。
ハグレゴブリンは突然現れた水竜たんに驚き攻撃をしかけるも、武器などが水竜の中にめり込んでハグレゴブリンを取り込んでいく。
そのまま魔力の水でハグレゴブリンを溶かしていくと、一回り大きくなったような。
「っ! 水盾!」
とっさにウォーターシールドを唱えると火系の魔法が飛んでくる。メイジオークだろう、見た感じ知能がないというか手あたり次第暴れてる感じがある、魔法だってあれ味方にあたってるし。
走っていきメイジオークの首を跳ねる、飛び散った血が体にかかった……後で村長のクリーニング代を請求したい。
「次!」
俺は短くいうと近くのハグレゴブリンの首を斬る。
アンジェの教えで魔物と戦うのであれば、一撃で倒せるならその急所を狙え。と教えられているからだ。
スライム系や昆虫系はわからんが、二足歩行の魔物なんてほとんどが首を跳ねればまぁなんとかなる。
「次っ!」
首を斬った後に着地したまま直ぐに動く、手を上にあげて水盾を唱えると目の前の見えた足を切る。
悲鳴を上げ倒れたメイジオークの胸に足をかけてその命を刈り取った。
「次っ!」
敵が襲って来ない。
「だから次!!」
周りが静かだ、俺が周りを見ると……動いてる魔物が見当たらない。
水竜たんのほうをみると最初の7倍ぐらい大きくなってる……いや怖い。
半透明な水竜たんのお腹の中には稲刈カブトが沢山入っていて丁度消化されようとしていた。
「きも」
俺が出した魔法なのに水竜たんの『尻尾』が不機嫌そうに地面を叩く。
「ごめんって」
最近おもうけど自動で動く水竜たんは感情があるのかもしれない……魔法を解くとき悲しそうな動きするし。でも、永久に出しておくほど俺の魔力ないからね。
俺が指を鳴らすと水竜たんが地面に溶け消えていく。
残ったのは大量の魔物の死骸と洞窟の入り口。
少しだけ洞窟の中に顔を入れてみた、大きな穴が開いてあってそこから魔物が出たのがわかる。
奥の方が光っていて紫の光がもれだしているのが見えた。
「お。紫水晶……か……」
お土産にもっていくか。
メーリスに見せれば武器を作ってくれるはずだし。
「うわああああああああああああ、なにこれ、なんなのよ!?」
突然の声で振り返ると、馬に乗ったメーリスが近くによって来た。
魔物の亡骸を見ての感想だろう。
「あれ。メーリス待っていたんじゃ……こっちに来たの?」
「いやだって万が一貴方が死んだら村にいてもだめじゃない? 逃げるなら今かなって……その前に貴方の剣でも落ちてないかなって……」
「たくましいが、やらんぞ」
「知ってるわよ! でも死んでいたら私の物よね!? ね!?」
ね。じゃない。
死んでも渡したくはない。




