第92話 ナナの村一日目の夜
まず村長が慌てる。
魔物があふれて来た、といえばまぁ慌てるか。
「ミナ! 他の村民に知らせて……いやいつも通り隠れておけ! 客人は一緒に」
「え。戦わなくていいの?」
これでも一応剣はもっている。
「なに、魔物は定期的に這出てくる始末、村の方で対処できますゆえ」
えらい。
いや、そういう者なのかな? であれば俺はする事がない。
「じゃぁ隠れてるわ」
「クロウベルさんこちらです。あっ腰の剣はそちらに」
部屋の前に剣立てが置いてある。
なんで? 普通家の入口に置くもんじゃないの?
「え、魔物が来ているのに剣を置くの!?」
「ええ……」
「いや一応持っておくよ」
「…………そうですか。ではこちらに」
おれはミナに言われるままに部屋に入った。
部屋の中は薄いピンクの壁で窓はない。
窓はないのはいいんだけど天井に鏡がある。
「ここは?」
「緊急用の小部屋です。対魔法、耐震、洪水にも耐えれる特注の部屋なんですよ」
「そ。そう」
旧時代にあた田舎の潰れる前のにゃんにゃんホテルの一室みたいだ。
「そこのバッテンしるしの拘束するのは何?」
「魔物が襲ってきた時に錯乱する人を落ち着かせる貼り付け台だです」
なるほど。
俺はてっきり、男女どちらかを縛り付けて興奮させる奴かと思ったら違うらしい。
ガチャっと鍵がかかった音がした。
「ふえ!?」
「ああ、鍵でしたら中からは開かないようになっています」
「なんで!?」
「錯乱して出て行ったら危ないじゃないですか」
そ、そうか……そういう事も考えられるか。
俺が納得し始めるとミナが服を脱ぎだした。
大きな胸を包み込む青い下着が見えている。
「やだ。クロウベルさんのエッチ、絶対こっち見ないでくださいね」
「あっそうだね。扉前で敵が来ないか見張るから」
「………………少しは」
「いや。悪いでしょ」
「探している恋人さんにですか?」
その考えはなかった。
俺が腕を組んでいるとなおもミナ話しかけてくる。
「その探している恋人さんも、もしかしたら他の男性と……」
「あっそれは別にいい」
「え!? クロウベルさん、探している恋人さんが他の男性と子作りしてもいいんですか!?」
「生々しく言わなくても……」
あれで俺より長生きなんだし、そこを含めて好きだしなぁ。
ぶっちゃけるとそりゃいい気分はしないけど、要はその男よりも俺が師匠を満足させればそれでいい。
「とにかく俺は壁見てるから安心していてよ」
「そ、そうですか。あの見たくなったらちょっとぐらいは見てもいいですからね」
村長は俺を置いて行ったが、結局は『娘を守ってくれっ』て事だろう。
餓死寸前の俺を助けてくれたんだし、その礼ぐらいは俺だってする。
「暑くなっちゃった……下も脱ぎますね」
そんな暑いかな? まぁ気持ち暑いか。
とはいえ俺は別に普通だ服を脱ぐこともない。
ばさっと俺と壁の間に何かが飛んで来た。
青いショーツ……ザ、パンツである。
「きゃ! クロウベルさんごめんなさい。飛んで行っちゃいました」
「そそっかしい」
俺は拾おうとして手を止めた。
他人がさわったパンツとか返されても困るよな。
水竜を召喚するしても部屋が狭い。
剣先に引っ掛けて後ろに飛ばしてみた。
「きゃ」
「あっちゃんと行ったようだね……にしても村長のゼンさん遅いな」
このまま閉じ込められるって事はないだろうな。
「ミナ!」
「あっやっとですか、ですよね。誘っ――」
「食料など大丈夫? 何日も閉じ込められたり考えたくはないけど全滅していたら俺達どうなるんだ?」
「…………大丈夫。もうすぐ開くと思いますし」
「わかるの!?」
背後から凄い冷めたようなミナの声が聞こえて来た。
きっと恐怖でそんな声なのだろう、しばらくするとミナが壁を叩きだした。
錯乱し始めたか……どうするかな、殴って気絶させる? 気絶してくれればいいけど気絶しなかったら困るなぁ。
考えていると扉が開いた。
「おお! ミナに客人よ! 遅くなった……なんだってえええええええ! うちの孫に何をしているんじゃ! 払うも…………」
「何もしてないけど?」
扉前に座っている俺とゼン爺さんの目が合った。
ゼン爺さんは孫娘を見ているのだろう、俺は振り返る事は出来ない。
「クロウベルさんの言う通りよ、《《彼は一歩も動かないの》》」
「客人よ、男が好きなのか?」
「何の話がわからないけど、別に女性が好きだよ!」
「そ。そうか……」
何か落胆してるけどなんだこれ。
「それよりも魔物は?」
「ふぁ? ああ…………だ、大丈夫だったようだな」
「じゃっ俺は部屋からでるよ、俺がいたら着替えも出来ないでしょ」
ゼン爺さんの脇を通って部屋に戻る。
ついでだ、村の様子を見てくるか。
俺が村長の家をでて村の中を歩く、用水路や道も壊れた様子はない。
先ほど駆け込んできたおっさんが煙草を吸っていた。
「お、兄さん災難だったな、許してくれよ。これもあの娘が旦那が欲しいっていうからさ」
「何がだ」
「何がって……いや……え? ミナと一緒の部屋いただろ?」
「いたよ? 避難していたけど」
「…………何もしなかったのか?」
「何もって何かする余裕あると思う? 周りは敵だらけだよ?」
「…………たしかにな。でもまぁこないだの兄ちゃんは……いやなんでもねえ。とにかく被害はそんな無かった」
言うだけ言うとさっき駆け込んで来たおっさんは煙草を消して歩き出す。
「無かったっていっても……まぁ無いならいいか……さてメーリスの様子でも見て俺は次の街かな」
近くの村人からメーリスの場所を聞いてその場所に向かう。
村の中央付近にある道具小屋の中にメーリスが座ってトンカチをふるっているのが見えた。
「ようメーリス。元気になったか」
「なんとかね……色々あったけどお礼がまだったわ」
顔はまだ暗いが立ち上がり俺に丁寧に礼をしてくる。
「いや、こちらこそだ。所で魔物が来たらしいけど大丈夫だったか?」
「へ? 魔物? そんな話は聞いてないけど……それよりも魔物退治の武器を頼まれてね。どうしようか考えていたのよ、何かいい案ない?」
メーリスに頼まれても専門職ではない。
「俺に聞かれてもな……」
「案としては大砲の小型化が一番なのよね、女性や子供でも使える……でも火薬は管理が面倒。魔石を使う事も考えたけど、コストの面がね。どこか魔石に代わるようなものがあればいいんだけど……」
「普通に紫水晶使えばいいんじゃ」
「魔石の代わりになる奴よね……そんなのどこにあるのよ」
いや近くのダンジョンに。
思わず、すぐそこにあるよって言いそうになって口を閉じた。
ここで正解を教えたら、何となく俺が取りに行く事になりそうだからだ。
「……世界のどこかにあるんじゃないかな……」
「まぁそんなうまい話ないわよね」
「……まぁな、暇だし見てていいか?」
現在は昼を過ぎたあたり、今から別の街に行くとしても中途半端である。
助けてもらった礼もあるし黙っていく事もないだろうし今日は村長の家に助けて貰おうつもりだ。
「いいわよ」
近くの椅子に座ってメーリスの作業を眺める。
頭にタオルを巻いてサングラスをかけたメーリスは農具を確認しながら手入れをし始めた。
1本1本丁寧に確認していく。
「ん」
「なに? その手」
「貴方の剣も手入れするわよ」
そういう意味か。
俺は鞘事メーリスに剣を手渡した。
その鞘から剣を抜いてメーリスは刃をの部分を触っていく。
「なにこれ……」
「剣です」
「…………変な冗談は嫌いなんだけど? どこでこれ買ったの?」
「貰い物」
「もしかして貴方って盗賊とかもっと悪い人?」
「悪い奴には間違いないな……なんせ愛の伝道師」
ダッサ。
とメーリスの小さい声が聞こえた。
最近気に入って使ってるだけに悲しい。
いや! ここは使い続ける事が正解だ。
「で。この剣が凄いのは刃こぼれが全然ない。自己修復の魔法がかかってるわね、おそらく剣の中に複数の魔石と魔石回路が組み込まれてる思う。魔石回路ってのはね――」
何か火が付いたのだろうメーリスの説明が止まらない。
「で。魔石というのは――」
今日の晩御飯は何かなー……
「次に自己修復の重さ軽減の回路なんだけど、これも今ではすたれていて――」
そういえば師匠の杖はどうなってるんだろあれも魔石か。
「――――と、いうわけなのよ。わかった」
「えっ! そ、そうだったのか……」
「………………貴方私の話聞いてた?」
「そりゃもう難しい話はわからんがこの剣が凄いのはわかったよ」
「聞いてなかったようね。もう一回説明するとね」
「辞めてくれ……」
「もう凄い剣なのに」
俺はメーリスからアンジェの剣を受け取ると腰に戻す。
「クロウベルさん、ここにいたんですか?」
「あっミナ。今夜も世話になっていいかな? 明日には出ていくから……」
「何日でも。メーリスさんもご一緒にどうぞ。今晩とまる宿なんですが小さい村ですし」
「お世話になりまーす」
ミナが手を降りながら帰っていく。
俺はメーリスの作業を再び見ながら時間をつぶしていた。
――
――――
村長の家で夕食を貰い、俺は床。
メーリスはミナと一緒に寝室に入って寝ている。
誰かか走ってくる足音で俺は目が覚めた。
扉が強打され、扉を開けると昼間に魔物が襲ってきた! と伝えに来たおっさんだ。
「おお! ま、まだいてくれたか。ま、魔物があふれて来た!」
「え。また?」
「今度は本当だ! 村長、ゼンを早く起こせ」




