第91話 偶然の一致ってすごいなぁ
「おや旅人さんだねナナの村へようこ……そ……?」
第一村人発見! じゃねねえええ!
俺は村人の肩を思いっきりつかむ。
「ひぃ!」
「水! 水と食べ物! し、死ぬ……いや俺は生きる! 早くしろぼけえ!」
「はっはい!」
普段出ない言葉が出たかもしれないが仕方がない。
俺とメーリスはもう死にそうだから、3日も何も食べてない……水だってないし魔法で出した水を飲んでもすぐに体から《《出る》》全然のどの渇きは収まらないし、その変の草木を食っては頑張って来たんだ。
問題のメーリスは途中で体力が尽きたので捨てて来た……かったけど水竜を出してその背中に縛り付けてやっとここまで来たんだ。
「ど、どうぞ……」
「コップ一杯で足りると思うな!!」
「ひぃ!?」
俺は村人からコップを奪い取ると半分飲んだ。
水竜も追いついて来たのでメーリスの顔に水をかける。
「も、もう魔法の水は……いや……全部……出る……」
「ミ、水です!」
村人は小さい鍋に水を持って来た。
俺は一気に飲み干して地面へと座り込んだ。
うまい。
こんなに水が美味いとは……。
「はぁはぁ……後ろの奴にも飲ませてくれない?」
何とか平常心を取り戻し、村人へとお願いしして水竜の魔法を解いた。
「うべ」
カエルが潰れたみたいな声を上げてメーリスが地面へと激突。
そのまま動かないメーリスの周りに他の村人達が集まって来た。
その頃には俺の周りにもおっさんが集まってくる。
ちらっとメーリスを見ると若い女性や若い男性が集まっている、もう一度俺の周りを見ると、おっさんと老人ばっかりだ。
「いはやは若いの……どうなされましたか?」
「…………人間の心理を考えてました」
「はて?」
「冗談は置いていて、あっちはメーリス。冒険者ギルドのクエスト依頼とか。俺は普通に行き倒れ……俺とメーリスは大草原の途中で魔物に襲われ食べ物がなくなった」
簡潔に説明すると老人が「それは大変だ」と、その後に家に招いてくれると。
「いいの?」
「なに小さい村ですので、村長をしておりますゼンですな」
「たのまぁ」
と、言う事で『私が村長です』というような爺さんの家に招き入れられた。
簡素な作りで長身の若い女性が鍋を作っている。
「お帰りゼンじい……わっ。お客様!? はじめまして村長の孫でミナと言います」
ぺこりとお辞儀をするのだが中々のおっぱいだ。
重力に負けてぷるんぷるんしてる。
「中々じゃろ?」
村長の言葉で現実に戻される。
「いやこれでも好きな人いるんで」
「なんじゃ……それはそれでつまらんのう」
「孫なんでしょ? 俺みたいな突然出て来た奴に」
俺とゼン村長がこそこそ話しているとミナが不思議そうな顔をしてきた。
「中に入らないの?」
「おお、そうじゃったな。では旅人よゆっくりと過ごされよ。このゼンは鍛冶師メーリスのほうを見に行く」
「お、おい!」
村長はそういうと家を出て行った。
俺は茫然と立ち尽くす、いやだって知らない男と孫を突然密室にする? 田舎あるあるなのか?
「どうなされました? 良かったら簡単な物ですけど食べますか?」
「食べる! 3日ほど何も食べてなくて……」
「まぁ……《《貴方》》もですか、どうぞ座ってください」
俺は言われるままに椅子に座る。
目の前にはホワイトシチューが皿にのせられて、後は少し硬いパン。ワインと並べられた。
「お口に合うかどうか」
泥よりもうまければ何でもだ。
昨日の夜なんて土を食ったぐらいだし。
「うま…………」
まずシチューが美味い。
肉にじゃがいも、ニンジンあたりだろう……じっくり煮込まれてい口の中で溶ける。
パンが硬いのがまた丁度いい。
「そんなに褒めても……どこからこの辺じゃ普通の料理よ」
「じゃぁ作ってる人間が凄いんだ。あの、お代り貰えるかな?」
「喜んで」
ミナが空になった皿にシチューを入れて戻ってくる。
俺は直ぐに平らげて3杯目、4杯目を食べた所で村長が帰って来た。
「ミナ。もどったぞ……どれわしらゼンも飯にしようか」
「はーい」
――
――――
昼食を食べながら話をする。
別に無言で食べてもいいが、さすがは村長と言う所だ。
こういう所で情報を仕入れるのも村長の仕事、俺もとしても飯と宿を借りてる身分なので言える範囲の情報は教えるつもりだ。
この世界インターネットはないからね。
似たような魔道具はあるっちゃあるけど世間一般人は知らない。
俺は適当にダンジョン攻略中に転移の罠でこの辺に飛ばされて、はぐれた恋人かっこ師匠を探しながら放浪した所をメーリスと合流した。と適当に説明した。
最初と話しが違うような気もするがまぁ強引に行けば行けるだろう。
「俺の方はそういう理由って事で、じゃぁメーリスが呼ばれたのは農具の手入れと防衛のための武器って事?」
「そう、最近は魔物が活発での……最近も偶然立ち寄った冒険者に退治してもらった所なのだ」
「へぇ……この辺っていうと……紫水晶の洞窟か……」
魔石に近い性質をもつ紫水晶。
加工次第では色々使える紫水晶なはずで『ファイナルバースト』という固有技が付いた『紫水晶の剣』などがこの村で手に入ったりする。
「旅人よ……なんじゃそれは?」
「え?」
「ミナ知っとるか?」
村長は孫に聞くもミナも首を振る。
「確かに魔物はでますけど……水晶……ですか? 聞いた事ないですね」
「勘違いだったかも」
「あっ!」
ミナが突然叫んだので俺も村長もミナを見る。
「待っていてください」
ミナが走って食卓から消える。っても自分の部屋にいったのだろう、すぐに何かを持って来た。
テーブルの上にゴロンと置くとそれは小さい紫色の水晶だ。
「これの事ですか?」
「これっぽいけどこれは?」
「はい、以前ここに来た冒険者さんが私に……と」
ちょっと赤い顔のミナ。
村長がゴホンと咳払いをした。
「初耳じゃよ」
「そ、それはだってお爺様が何も聞いてこないですし……あの人は今頃は帝都についたわよ」
「ミナ、お主はアイツの事が……」
「もう変な事いわないの! お客様の前よ。ねクロウベルさん」
ね。と言われても。
苦笑するしかない。
人間笑っておけば場を流せるもんだ。
「しかしあの小僧め……ミナの婿にと思っていたの」
「もう、だから《《クウガ》》さんは無理よ。あの人自分の事が最低な男だって私じゃあの人を元気にしてあげられないし」
珍しい事もあるもんだ。
クウガって名前を久々に聞いた。
まぁ他人の空似、もとい他人と同じ名前なだけだろ。
ここは帝国だし《《通常ルートでは来れるはずもない》》。
「悪い男もいたもんだ、俺が恋人がいなかったらミナさんをほっとけないと思うんだけどね」
まず、胸がでかいし。
優しそう、夜の方も凄そうだし村長の息子? って事で地位もある。
「クロウベルさんったら褒めたって何もでないわよ……クロウベルさんのほうも恋人さんと早く再開できるといいわね」
「帝都のほうにいったら冒険者ギルドにでもメッセージを入れておくよ、あれは建前は国と別機関だし」
俺がテーブルにある饅頭を口に入れると扉が大きく開く。
「村長! 洞窟から魔物があふれて来た!」
「なんじゃと!」




