第9話 緊急クエスト
修行生活22日になった。
なんと15日目辺りでスゴウベルがストーンエッジを会得した、ぐぬぬぬぬ……。
名前だけは強そうだけど威力は弱く小石を飛ばす技、当たると地味に痛い。隙を見ては俺に小石を飛ばしてくる。
最近は自習が多く、今日も軽い訓練の後は自由時間だ。
師匠のほうは父に呼ばれて外に出ている、まさかの浮気! と勘違いしないのはアンジュもついて行っているし、アンジュが付き添えない時は別の人間が付いて行っている。
冒険者ギルドの方で何か問題があったのかなんとか。
こっそり何しに行っているか聞いてみると『心配するような事ではない』と教えてくれなかった。
お勉強時間といってもだ、師匠がいなければサボり放題と言う事で俺とスゴウベルはリバーシという黒と白のコマを使ったどこにでもあるゲームをしながら時間をつぶす。
本当はテレビゲームとかしたいよ? 無いからしょうがない。
他にあるのはチェスとサイコロ、トランプなどあるが無難な奴だ。
俺は黒色で白を使ったスゴウベルが一気に5枚も黒から白にかえていった。
「おいクロウベル! 先生様は今日も夜までいないのか?」
「僕に聞かれても……忙しいでしょ」
「ふーん……あっもしかして父が手を出したとか」
まったくスゴウベルは俺をからかう事に全力だ。
「アンジュがついて行ってるからそれはないよ」
「つまんねーな。もっと慌てるかと思ったのによ……これで終わりっとさて同じような枚数だな」
「はーい数えるね」
審判役のアリシアが盤面をみながら白と黒のコマ数を数え始めていた。
「クロウ君、先生の事になるとおかしくなるもんね」
「なった事がないよ」
二人とも黙りだす。
「そ、そうだね」
「こええな」
何が怖いんだ、アリシアが小さい悲鳴と共に「スゴウ君が26枚とクロウ君が22枚」と教えてくれた。
「え? 僕が負けたの?」
スゴウベルが、ドヤ顔で俺を見ている。
「ほら、早くしろ。負けた方が謝罪するんだったな」
そんな約束した覚えはないけど……いや、あった。絶対に負けないと思っていた分くやしさが増す。
「…………ごめんなさい。僕は負けましたっ!」
「反抗的だがいいだろう!」
次は勝つ。
リバーシを並べなおしていると扉が開く。
アンジュが部屋に入ってく来た、同時にちょっと匂いが広がって来た。どぶの匂いだ。
「くせえ!」
「こら! スゴウ君!」
「いやだってよ」
アンジュが自分の衣服の匂いを嗅ぐと深々とお辞儀した。
「申し訳ございません。地下にある下水道のほうにいってましたので。それよりもクロウベル様、サンドベル様とメル様がお呼びです。お二人からの言葉をそのまま伝えます『暇なら来るか?』との事です」
「行く! いや行きます!」
このままリバーシしてるよりずっといい。
俺が立ち上がると、リバーシで勝ったスゴウベルも立ち上がる。
「負けたまま逃げるのか?」
「いやだって……」
「俺もいく!」
「アンジュさん私も行っていいでしょうか? 何をするか知りませんけど」
アンジュを見ると少し眉をひそめた。
用事があるのは俺であってスゴウベルじゃない、何をするのか知らないが、アンジュだって必要以外な人呼びに来たわけじゃないだろう。
「わかりました。『どうせ3人ともついてくるのじゃ』と、言うメル様の言う通りになりました。馬車の中で説明します」
屋敷の廊下をアンジュを先頭に歩いてく、途中ですれ違うメイドや執事のカールがアンジュにタオルや飲み物を渡し、それを使うと別のメイド達に手渡すしぐさは、控えめにいってかっこいい。
その手際の良さにアリシアもかっこいい。と、憧れの目だ。
俺も今度真似しよう。
さて外に出て馬車に乗るころにはアンジュからは匂いが消えて俺達が乗り込むとアンジュが説明し始めた。
「現在地下道下水道に魔物が出ています。ランクはDからC、冒険者ギルドといってもこの辺は冒険者が少なく他の仕事もあります。サンドベル様と冒険者ギルド、今回は特別にメル様も含め討伐しておりますが、魔物の数が多く手が足りません」
「ふ。それで俺様の出番だな!」
力強くいうスゴウベルにアンジュは首を振る。
「いえクロウベル様のほうが適任と思います」
「おいい! アンジュ。メイドのくせにっ」
「なんでしょうか?」
アンジュの鋭い眼光でスゴウベルが押し黙る。
ふ、馬鹿な奴め。アンジュは剣聖と呼ばれた人だぞ、お前何て一瞬で殺されるんだからな!
「クロウベル様、何か勝ち誇っているようですが、クロウベル様が偉いわけではありませんよ」
「うっ」
「怒られてるー」
アンジュが咳払いをする。
「続きをしても?」
「あっはい。ごめんなさいアンジュさん」
「いいえ。アリシアさんが謝る事ではありません。クロウベル様には水魔法を使って一区間を防いで貰いたいのです」
「無理です」
地下下水道はゲームプレイで知っているか結構入り組んでいる。
そもそも街のほとんどは古代遺跡の上に建っているという設定が多い。
例外もあるけど、地下下水道の三層までは簡単であるがさらにその下は入り組んでいる。
ゲーム内では一定期間過ぎれば何度でも挑戦できるクエストで現実でも適度に魔物が湧くので討伐依頼が起きる場所だ。
そんな場所を子供1人でどうにか出来るとは思えない。
「そうでしょうか? メル様からは推薦されていましたが、わかりました。別のプラン――」
「僕に任せてください! 師匠が言うならいけるよ」
「………………ちょろ」
「ん? アンジュに何かいった?」
何かチェロ? とか聞こえた気がする。
突然音楽の話がなんだろアンジュに確認すると首を横に振った。
「いいえ。他の2人は何かご質問はありますか?」
スゴウベルもアリシアも首を横に振る。
「で封鎖っても僕は何をすれば」
「ウォーターシールドの応用で行けると思います。『小僧の力であれば全身以上の大きさを作る事が出来るのじゃ』と、メル様はおっしゃっていました。要は出口を塞いでくれれば残った我々が背後から叩き潰しますので。さて着きましたね、3人とも杖と剣は積んでありますのでお忘れなく」
なるほど? 作戦としては簡単だ。
問題は俺にそこまで大きい盾を作れるかどうか、できなかったら穴の開いたホースの様に魔物が飛び出るだけでは?
アンジュはさっさと馬車を降りていくし残った二人も先に降りた。
数人の大人たちがアンジュを見てはお辞儀する、アンジュも軽く礼をするとスタスタと下水道の中に入っていった。
ヤバイ、おいていかれる。
俺が入ると、少し先でまっていたアリシアが横についた。
「ねぇクロウ君。地下下水道って魔物が出るんだよね? 封鎖できないの?」
「一応生活の基盤の一つだからね、だから依頼もあるんだよ」
「迷宮みたいにボスとかいるのかな……」
迷宮ボスか。
ダンジョンの奥にいるボスで1回戦えば消える奴、何度も復活する奴などがいたりする。
地下下水道の上層部に1体。
隠しダンジョンであるさらに地下に1体。
隠しダンジョンの方は当然序盤でいくと瞬殺される。ってか雑魚にすら勝てないはず。
「いるだろうね」
「すごい、クロウ君は何でも知ってる」
「…………知らないよ」
アリシアは感がいいというか、何か知らない事があると師匠か俺に聞いてくる。
「お話はそこまでに、入りますよ」
スゴウベルが「やっぱりくせえ」と言いながら入っていく。
だろうね、ゲームでは匂いはないんだよなゲームでは、だから何度も挑戦できるし気にならないけど、ここまでくさいならリピーターは少ない。
「ええっと……この先はお食事中、リラックス中の方、虫が苦手な方はご注意を。無理して進めるクエストではありません……」
「え?」
俺が小さく呟いた言葉にアリシアが振り向くが、俺は黙って首を振る。
ゲームプレイ時に下水に入る時に出るメッセージを口にした。
「なんでも無いよ、たしか虫系とネズミ系の魔物がでると思うから」
「さすがはクロウベル様、良くお調べに。書庫の本を読んでいるだけありますね。来ましたよ」
物影から俺よりでかい触角がある虫が現れた。
全身に鳥肌が立つ、だってアレよアレ。現実世界にいたゴからはじまってリで終わる害虫の王だ。
「ファイヤー! バーッスト!! クロウ君右に行った奴お願い!」
「え、ああ、うん!」
焦げ臭い巨大Gを俺は剣で斬る。
「うあああああ! 動く、こいつまだ動く!!」
「魔物ですし……スゴウベル様。中央右下に剣を魔石があるかもです」
「え。マジで!?」
それまで怖がっていたスゴウベルがアンジュの言う通りに剣を差すと赤い宝石が出て来た。
「へえ、これが魔石か。おいクロウベル! 何に使うんだこれ」
「師匠の授業聞いておいてください、加工して魔法を込めたり光を入れ照明にしたり魔力ブーストとか魔物から出るアイテムでは共通レア素材の一つ」
「へえ……高いのか?」
「どうだろう、アンジュ」
価値まで言われると俺にはわからない。
ゲーム内では魔石小から魔石特大までわかれているだけで個別となると見当もつかない。
「そうですね、その大きさなら慎ましく暮らせば2ヶ月はもつでしょう」
「お。ラッキー…………アリシア。俺の気持ちだ受け取ってくれ!」
「え、いらない……今の虫モンスターから出た魔石とか」
俺は小さく笑うと、背後から頭に小石が飛んでくる。
振り返るとスゴウベルが、なんだよ! と少し怒っているようだ。
「お、小僧! とアリシア、エロガキよく来たな」
声のほうを向くと師匠と父サンドベルがいた。
「師匠おおおおおおおおお!! お?」
前に進もうとすると俺の体空中に浮く、上を見るとアンジュが俺の服を引っ張り持ち上げていた。
俺とて15歳だよ? そこそこ身長あるのにそれを片手で持ち上げるアンジュってやばいでしょ。
「アンジュ?」
「クロウベル様少し落ち着いてください」
「え。いつでも落ち着いていますけど」
「………………それはそれで怖いです。クロウベル様のお体は現在アンジュが吊り下げている状態です」
「うん。だから落ち着いているよ?」
アンジュからの教えでいかなる時でも落ち着きなさい。と教えを受けている。
なぜか師匠は俺に杖を構えていた。
敵じゃないのに。
「アンジュ、クロウベルに首輪でも付けたらどうだ?」
「スゴウベル君。それじゃクロウ君と一緒に散歩する犬さんがかわいそうだよ」
中々ドきつい事いうアリシアに俺は苦笑した。