第89話 クロウベル君は1人なんですよ……
結婚式。
誰のかと言えばもちろん俺と師匠のいってえええ!
「師匠、足踏んでます! 足!」
「わざとだからじゃの……どうせドアホウの事じゃ、式場を見てワラワとドアホウの結婚式。とか思っているんじゃななかろうかとなのじゃ」
「まったく。いやぁ心外だよ心外」
心を見透かされた俺は改めて式場を見る。
街の中では比較的大きい教会での結婚式になりそうだ。
正式には結婚式の準備であって本番はもう少し後。
今日はその打ち合わせ。
花嫁は領主であるトト・トール。その夫となるのはゴーレム使いのザック。
廃坑での騒動からすでに10日ほどたった。
あれからは忙しくて、ディエ爺さんがトトが生きていた事に腰を抜かし呆けていた。
その間にディエ爺さんの気が変わったら大変だ! という事で証文作ったり、聖都にいる聖騎士隊副隊長アンジェリカ宛にトトとザックの結婚の報告や招待状の速達。
さらには登録まで任せてもらって、同時進行で俺と師匠は街のあちこちにトトとザックが結婚する。という事を言いふらした。
ディエ爺さんの頭がはっきりとして『やっぱりザックにはトトとの結婚を認めないほうがいいんじゃ』と言い出していたけど、各種外堀を埋めきった後なので、とうとうディエ爺さんも諦めた。
今ではザックをトトに相応しい男にするべく燃え上がっている。
「ベル!」
俺の名前を言って走ってくるのはトトである。
いやぁやっぱり美少年にしか見えない。
武人というだけあってズボンだしな……あれか女学校の王子みたいな感じだったんだなぁ。それは置いておいて……。
「やぁトト。結婚おめでとうかな?」
「ベルとメル様のおかけだ……メル様にいたっては、わざと変な男性をディエに紹介して時間稼ぎをしてくれた」
え!?
師匠の方を振り返ると、当然。といった顔だ。
「まぁなのじゃ……」
あれ、歯切れがわるい……って事は。
「師匠偶然っすよね」
「ば。計算に決まってるのじゃ! そ、それよりもゴーレム使いの方はどうしたのじゃ」
あ、話そらした。
「ザックだったら神父と打ち合わせを、呼んでこようか」
「いやいいのじゃ、式は来月じゃったな」
「そう、もちろん2人にも参加してほしかったんだけど……」
「数日前にも言ったけど、無理やりな依頼だったし。さすがにここまですればもう確定だろ? 俺達はここで終わり」
まぁ旅起つ前に会いに来た。
と、言うやつだ。
もちろん報酬はちゃんと受け取っている。
受け取りはしたけど残ったのはミレニアム金貨で5枚ほど、この数日の間にトトとザックの結婚式を合法にするのに色々と使った。
神父、冒険者ギルド、裏通りにある酒場、表通りの酒場、先ほどの回想にでたアンジェリカへとなど。
「とても残念だよ。また街に来た時に遊びに来て欲しい」
「その時は子供の顔でも見れるといいな」
「少し見直したよ、ベルはセクハラしか言わないと思っていたけどそんな気遣いも出来るんだ」
セクハラにいたっては本当に男と思っていたんだって、別にネタバラシはしないけどさ。
俺は黙ってトトに手を差し出す、トトと握手をして師匠もトトと握手をした。
名残惜しいが「じゃ」「またなのじゃ」と俺と師匠は小さく言うと馬車屋のほうへと歩き出した。
欠伸をしている暇そうな馬車屋に入ると、ゴールダン共同墓地行きへと便を頼む。
コトコトとボロ馬車に揺られて数時間。
結界に守られた共同墓地へとついた。
「で……ここから転移の門でフェーン山脈に行くんですよね」
「壊れてなければの」
「壊れてないと思いますよ」
壊れたってイベント知らないし。
「だといいのじゃがな」
墓守に見つからないように奥のさらに奥の墓へと向かう。
なんでかっていうと、勝手に墓を開けて中入る所なんて見られたら大問題になるだろうから。
「まるで墓泥棒っすね」
「大きな声を出すななのじゃ。フユーンは墓守がいないのじゃがここはいるみたいじゃらかの」
「うい」
一見すると普通の墓。
師匠が立ち止まると墓石に手を当てた。
「おお……」
師匠の手から魔力があふれ墓石へと吸い込まれていく。
重たいはずの墓石が自動で動くと左右にたいまつが付いた地下へと階段があらわれた。
まず師匠が先に入っていく。
俺もすぐに入ると背後で墓石が閉じて行った。
「まるで駅の改札みたいな」
「何の話じゃ?」
「いえ、何でもないです」
長い螺旋階段をぐるぐると地下に降りて行くと最後には小部屋についた。
殺風景であるが前にも見た部屋と同じで大きな絵の無い額縁が壁に寄り掛かっている。
「さて……いいのじゃ。絶対に何もするななのじゃ」
「と、いうと?」
「魔力を流して門をつなげるのじゃが、横から変な魔力があると転移の門が壊れるのじゃ! ドアホウ忘れてないからなのじゃ。前回は尻をぺたぺた触りおってなのじゃ」
「わかりました、ふりですね!」
師匠が冷めた目になったのでご褒美だ。
「はぁ……もうやだなのじゃこのストーカー……」
「師匠そんな泣かないでください」
「誰のせいと……」
誰のせいと言えば師匠のせいである。
俺は悪くない! そう俺が悪乗りさせるような師匠が悪いのだ。
「じゃぁ現実の話しますけど、当然俺は今回は何もしてませんけど……魔力の流れおかしくないですか、これ」
「む?」
先ほど小部屋に入ってから転移の門まで何かわからないけど、肌がちりちりとしてるのだ。
師匠が転移の門をゆっくりと調べ始める。
「使った後じゃな」
「門を?」
「ドアホウ……いやクロウベル。良く気付いたのじゃ……最近使った跡があるようじゃな。その魔力の残りじゃろ」
師匠が珍しく……いや初めて俺の名前を言った気がする。
「そりゃ師匠の弟子ですから」
「自称じゃな……こっちに来てみるのじゃ」
師匠が転移の門に魔力を流し込んだのか何もなかった額縁に鏡が現れた。俺が見ているとすぐに消えて壁になる。
「あっち側の魔力と不安定になっておるのじゃ。誰かか無理やり魔力をいれたんじゃろうな」
「そうなんです?」
「たまには師匠らしく教えてやらんとなのじゃ……じゃっ別の門を使うのじゃ。危なくて使いとうないのじゃ、わたっている最中に魔力がきれてみろ。体が切断なのじゃ」
「え?」
俺はまぬけな声を出して師匠を見ていた。
だって転移の門に上半身を突っ込んでいたからだ。
反対側どうなってるのかなーって覗いてみただけで体が切断とか聞いてない!!
「なっ!? ドアホウ!? まっまずいぞ! 魔力の暴走だけならまだしも!? ええい!!」
「いってええええええ!」
思わず口にだしてしまった。
お尻を蹴られたからだ。
反対側に突き飛ばされた《《何かにつかまり》》ぐるぐると回転しながら転がった。
壁にぶつかってやっと止まった。
「師匠! いきなり蹴るだな…………」
言葉が止まる。
転移の門。
普段は額縁なんだけど、俺が見ている額縁は四角ではなく3本しか線がない。
残った1本は俺が大事に握りしめていた。
「え。壊れた…………やだもう! 《《何もしてないのに壊れた》》もう一度言うよ。何もしてないのに……いや、したんだけどさ……つかんだら取れる普通……」
壊れた転移の門を四角にしてみたが、俺がおった部分はくっつく事がなく1時間ぐらいしても誰も助けに来なかったです、はい……。




