第87話 ザックの本心を探れ!?
師匠から教えられた街の東にある酒場へと足を踏み入れた。
見るからにぼろい店で素人は入っては駄目な雰囲気ましましである。
「坊主。ここは坊主みたいな奴が来るような所じゃねえぜ」
《《丸坊主》》の店主が俺を帰そうとしてきた。
どこからどう見ても坊主だ。
他にはカウンターには1人。丸テーブルには老人が1人、別のテーブルにはトランプで時間をつぶしてる男達3人。
とても暇そうである。
「いや、坊主なのはあんただよ……」
「んあっ!?」
「俺が錬金術師だったら髪の生える薬でも渡すのに、かわいそうに」
「てめえ! ふざけるなっ!」
怒らせてしまった。
善意で言っただけなのに……。
「マスター……オレの知り合いだ」
カウンターで飲んでいたと思われるザックが振り向くと俺と目が合う。
いやぁ、カッコいいね……もうなんだろ、影がある男って事で若いのに渋さもある。
美少年……じゃない美少女だったトトとカップリングはそれだけで絵になりそうだ。
一瞬考え事をしているとマスターと呼ばれた坊主頭の店主は舌打ちするとザックに誰だ? と話かけている。
俺が目の前にいるんだからザックにじゃなくて直接聞けばいいのに、普通に答えるよ?
「ト……領主様の所で住み込みをしている剣士の一人だ」
「ああ、前に胡散臭い2人組が来たって言ってた男のほうか」
俺はザックの隣に座ると店主を見る。
ここは笑顔だ。
「そそ、胡散臭い片割れ。俺にもコレでおすすめを出してよ」
カウンターに金貨2枚を出すと店主は舌打ちをして後ろに回った。
直ぐに俺の目の前にコップをドン! と置くと白い液体が注がれる。
やらしい意味じゃなくて、ミルクに見える。
匂いを嗅いでも飲んでみてもミルクだ。
こ、これで金貨2枚!?
「金はいらねえ、飲んだら帰りな」
坊主店主は俺に金貨を素早く返して来た。
あっサービスなのね。
「じゃぁこの金でおつまみも」
俺は返された金貨をまた坊主店主のほうへ手で追いやる。
「坊主お前……」
「坊主店主なに? あっそうだ。残るんだったら《《周りで飲んでる人にも酒の追加》》を」
「てめえ!」
坊主店主が声を荒げた所で、いつの間にか男達が坊主店主を抑え込んでいた。
さっきまでトランプ遊びしていた男や爺さんまで店主にしがみ付いて俺を見ている。
「若いの! 見所がある! ほれ坊主店主よ酒じゃ酒。金貨がひいふう…………若いのもう少し金貨あればたらふく飲めるのう」
これは坊主店主の腕にしがみ付いている爺さん。
「馬鹿爺さん、金貨2枚でもここの安酒だったら死ぬほど飲めるだろ! この兄ちゃんが金貨仕舞ったらどうすんだよ!」
こっちは店主の腰に手を回しているヒゲの親父だ。
「別にこの店にケンカをしにきたわけじゃないし。俺としては皆とフレンドリーになりたい……丁度このザックにようもあったしさ……ここれで打ち止め」
俺は金貨をもう3枚足した。
「だぁああああ! てめえら口から手を離せ! 窒息させる気が! たっく奢りと聞いたらこれだ。おい坊主! いいのか? こいつらに酒飲ませるとか、一生付きまとうぞ!」
「旅から旅の2人組なもんで、長い時間はこの街にいない。ザック借りていい?」
「…………好きにしろ。おい爺さんに役に立たない冒険者共! 金貨2枚はお前らのツケで回収するからな! 3枚分で飲め!」
騒がしい酒場からザックを連れ出す。
街の東側はあんまり治安もいいとは言えない感じで人通りもまばらである。
酒場から少し離れた所で俺は本題に入る事にした。
ザックがトトの事を本当に好きなのか。クウガみたいに流れでキスをしただけなのかも気になる。
あれ? クウガはそんな事しないか……いやでも俺がいない1年で子作りして逃げたからなぁ、たぶんするだろう。いやきっとする。
「歩きながら話そう」
「さっきから歩いてる、何の用事だ。領主様が好きであれば結婚すればいいのではないか?」
「はい?」
「違うのか? ト……領主様の話ではセクハ……貴方はスキンシップが多い。と聞いている。それもこれも領主様は婚約、結婚を前提に迫られた嫌が……スキンシップと話していた」
トと言いかけたのはトトで、セクハ……はもうセクハラと言いたかったのだろう。
最後にいたっては嫌がらせ、と思われていた。
ごめんって……そりゃ。連れションいくか! とか領主とはいえ女の子に言えばそうなるよね。
毎回ドン引きしていた顔をしていたのがわかったよ。俺としては立って2人でしてるイメージで、横からちょっと覗いてさ『トトは立派なトトもってるなぁ』って軽いジョークで交流を深めようと。
「違う違う。俺が結婚したいのは師匠だけだし……まぁ最終的に結婚しなくても愛人でもいいんだけどさっと……その話は今は違って。その好きなんだろ? トトの事」
「…………好きじゃない」
あれ?
物影でぶちゅーまでしたのに好きじゃないとはこれはいったい。
「え、じゃぁ体だけの目的? トトは美少年……じゃない美少女だもんな」
「………………好きじゃない!!」
今度は叫ぶように否定した。
んまぁ、なんて意地っ張りなんでしょ。
「そんな…………」
「ほらトトだって悲しんでるだろ? ってあれ?」
突然トトの声が聞こえたかと思って流したけど、俺とザックは振り返った。
トトが絶望の顔で立ち尽くしているではないか。
「トト! な、なんでここに!?」
「メル様がベルとザックが飲んでいるだろうからって……私は迎えに……いやそれよりもザック! 私の事が好きじゃないって!?」
不味いぞ。
非常に不味そうな流れだ。
ザック頼むから好きだって行ってくれ。
「っ! そ、それは……ああ…………嫌いだ。オレはお前の事が嫌いだ。オレの父が死んだのもトト。お前の親父が不正を働いていただけだ、上手くたらしこんで金をとろうとしたが飽きた」
ザック君!?
何てこというの!
「う、ウソだ!」
「あっトトちょっと待て!」
「うああああああああああ」
トトがものすごい勢いで走って消えた。
残された俺達2人は茫然とその背中を見送る。
「ザックうううううう! お前!」
俺はザックの胸ぐらをつかんでゆすった。
俺の力任せにした勢いにザックは抵抗する気は一切ないようだ。
「………………さすがの俺でもわかる。本心じゃないだろ……」
「っ!!」
ザックの言葉が止まる。
だってずーっとトトが消えた方から首を動かさないからだ。
「オレと一緒にならないほうがいい」
あーやっぱりか。
「このばかちんがああああああああ!」
俺はザックを殴った。
「ぐっ!?」
「お前もトトの事が好きだったらアタックすればいいじゃん。それでダメな時に考えれば、別に2人とも好き同士なんだろ? 物影でちゅっちゅするぐらいなんだしさ……いいじゃん最悪逃げだって、俺の実家も一応貴族なんだけど、親父なんてバンバン奥さん代えてるしさ。それともトトが脂ぎった男と結婚する。ってなったら我慢できるの? それこそ――――……あれ? ザック……おーい」
殴って倒れたザックが起き上がってこない。
もしかしてアゴに入ったか? アゴは人間の急所でもあり下手をすると一発で脳しんとうまで起きる。
脳しんとうで止まればいいが、最悪パーになる可能性も。
「ザック。お、おい! 起きて! 頼むからおきて『生命の水』『生命の水』あっだめだ。斬り傷系じゃないから効きにくい、そもそも俺の回復は自分用だし自分にかけるのと勝手が違う……お、おぶって師匠の所……いや、おぶっていいのかなぁ……」
動かしたいが素人判断で動かしたらアウトな時もある。
「ええい! 動かすからな!? 師匠の所に持って行くから頼むから変になるなよ!?」
俺は重たいザックを背負うと一気にトトの屋敷まで走った。




