第86話 衝撃のクロウベル
こっそりと2人の様子を見る。
小屋の影で見えにくい、じゃぁこっちも近くの小屋影にかくれる、丁度影になって向こうから見えないはずだ。
「って……別に隠れる必要ないよな」
思わず隠れたけど男2人で何も起きるはずがない。
物影影から出て声をかけ……。
「おー……んっ!」
俺は慌てて口を閉じて、地面へと腹ばいになる。
だって。
ザックがトトに抑えられてキスをしてるからだ。
おいおいおいおい、まじかよ。
BL!?
ここでBLとはボーイズラブの略称で、基本男性と男性の恋愛事情を示す。
間違いやすいのがホモではない。
その好きだった人がたまたま男性なだけで、男性であれば誰でも好き。とはまた違うのだ。
心の中で力説していたら思わず俺の足が小枝を踏んだ。
「だ、誰だ!」
トトが突然叫ぶ。
俺に今できる事はこの3つ!?
1、逃げる。
2、誤魔化す。
3、石になりきる。
「にゃーん」
3番に決定。
俺は手元の石を思いっきり反対方向へ投げた。
運よく猫が本当にいたらしく、反対側へと逃げて行った。
「………………なんだ猫か。ザック最近ディエがうるさい。それにあの武術の師とそのおっぱいが大きい女もだ。絶対にディエに私の結婚相手を探そうと依頼を受けているに違いない……それにセクハラもひどいんだ。私は嫁ぐつもりもないし……ザック。私と一緒に逃げないか」
うああああああああ。
駆け落ちだあああああああああ。
俺が気配を殺して耳だけ集中する。
ザックがトトを抱きしめたまま首を振った。
「…………」
「トト……もうこうして隠れて会うのは終わりにしよう。俺は犯罪者の人間だ。トトの横には立てない」
「ザックの父さんが私の父を殺したからか!? それは父が……それでも私はザックの事が! 私はトトの子が欲しい」
「トトすまないっ俺は罪人だ」
ザックが小さく言うと駆け足で遠ざかる音が聞こえた。
トトが小さく「ザック」とつぶやくと屋敷のほうへ歩いて行く音が聞こえ始めた。
2人の足音が聞こえなくなっても俺は息を殺す。
しばらくそうした後にゆっくりと息を吐く。
「すーーはーーーすーーーはーーー空気が美味しい」
って、色々やばい話を聞いたような。
うわーうわー、どどどどうしよう。
え、ディエ爺さんに言うの? おたくのトト様はザックと熱いキスをして子が欲しいって。
物理的に無理だろ、それとも頑張れば男でも孕むのか?
「お、なんじゃモグラのマネでもしてるのじゃ?」
街から坂道を上がって来た師匠が俺を見つけ声をかけてくる。
「あっ師匠……これには深い事情があって……師匠ちょっと相談なんですけど」
「なんっじゃ」
「男でも赤ん坊産める魔法とかあります?」
「……………………ワラワは別にワラワ以外の女性を好きになってほしかったが、よもや男に目覚めたのじゃ……1つの愛と思うのじゃ、で誰じゃ? 行方不明のクウガ? それともディエ爺なのじゃ」
「俺じゃないっす! 俺は師匠が一番ですし」
なんで俺が孕みたいのが、逆もやだ。
クウガはまだ絵的にいいかもしれんが、ディエ爺さんは爺さんだぞ。
俺の肉体とディエ爺さんの肉体がからみ……オロロロロロロロロ。
「気分が……」
「薬じゃったな……無い事もないのじゃが。ワラワでは作れぬ。昔錬金術師が作ったような気もしたのじゃが……」
「作れますかね。トトとザックに」
もうこうなったら既成事実だ。
俺は二人のためにひと肌脱ごうじゃないか。
決して! 納期を急かしてくるディエ爺さんに嫌がらせをしたいとかじゃない。
本当に、小うるさいディア爺さんに見返すためじゃなくて、まぁ2人が男同士でも最近はほら多様性ってあるし。
俺が前世で読んでいた小説では、少女2人が結婚するって本もあった。
百合が良くてBLが駄目な理由がない!
「…………なんでじゃ?」
俺がトトのために師匠を口説き落としていると師匠の顔がはてな顔になっている。
「なんでって、2人がくっつけば今は男同士で子が無理でしょ?」
「………………ドアホウちょっとこい」
あれ。
師匠が語尾がない時は本気以上の質問だ。
「何でしょう?」
師匠に言われるままに物影に移動する。
もしかして、俺もキスでもされるのだろうか……。
「もしかしてなのじゃが、トトの事男と思ってるんじゃないじゃろうな?」
「いや男でしょ、いくら俺だって男女の違いぐらい分かりますって」
「…………」
あれ、師匠が無言だ。
「トトは女の子じゃぞ」
「は? ええ!?」
「そういえばドアホウ……たしかノラの時も男と間違えていたのじゃ」
「いやだって胸もないし」
色々思い当たる節がある。
ある日の訓練の終わり時に、トトの時間があったので一緒に風呂でも入るか。って誘ったら、すごい拒否られた。
またある時は、訓練中に俺のズボンが落ちてしまって、そのままパンツまで。ぶらんぶらんさせた物をトトに見せてしまってトトは手で顔をおおっていた。
トトの好みを知るために、いかに女性のおっぱいとお尻はステキだ。という授業もした。
今度一緒に大人のお店でも行くか! って提案したときにはなぜか軽蔑の目で見られたのも理由がわかった。
「マジで」
「マジじゃ……よくもまぁ1ヶ月も気づかなんだ……」
「全くです」
師匠と俺はお互いに黙る。
「まぁなんにせよ……そのアレなのじゃ。話を戻すとじゃトトとザックは出来ているって事なのじゃ?」
「そ、そうですね。さっきもほらあの物影でブチューって」
先ほどの事を師匠に話す。
それでいてザックは罪人の子だから結婚は出来ない。と言った。までを師匠に伝えた。
「それじゃったら、ザックの父親は前領主を殺して相打ちになったと聞いたのじゃ」
「そ、そうなの!?」
「何でも前領主は悪徳の限りじゃったっぽいぞ。そこで旅の魔物使いであったザックの父親はトトの父を誘い出してザックリとじゃ。残ったザックは領主殺しとして裁かれるはずじゃのだが……」
「トトがそれを守った……ですかね?」
師匠が小さくうなずく。
「そういう所はわかる癖に男女の違いを……」
「ぶり返さないで……俺も結構ショックで。あっ以前に師匠が胸を揉まれた時に激怒しなかったのって……トトが女の子だったから?」
「当たり前じゃ、悪意のない少女から揉まれた所で激怒する事もないのじゃ……」
「じゃぁええっと……花嫁じゃなくて花婿を探せばいいのか……ってあれば早くない? ザックに決めれば、お互いちゅっちゅしてるんだし。さっそくディエ爺さんに――」
「ちょっと待つのじゃ」
師匠に呼び止められた。
「ワラワが言う事じゃないのじゃが、貴族が罪人の子と結婚は許されるのじゃ?」
「…………駄目っすね」
そうか。
あーーもう、やっと問題解決できそうなのに。
「それにじゃ、ザックの意見も聞いておいたほうがいいじゃろ。仮にもくっつけようとしてるのじゃ」
「師匠がまともな事を」
師匠が無言で杖を取り出すと、俺の頭を狙ってのフルスイングだ。
俺は頭を引っ込めてそれを回避する。
「殴るぞ」
「殴ってから言わないでくれますか……」
「どうせかわすじゃろと思ってなのじゃ」
そりゃかわす。
当たったら頭の骨が粉砕されそうだし。
腕や足ならまだいいよ。良くないけど回復魔法唱えられるし、頭はだめだよ……魔法も何も唱えられない。
「じゃぁちょっとザック捕まえてきます」
「この時間なら西通りの酒場じゃな」
「え、なんでザックの場所を……ストーカーっすか。俺と言う男がいながら師匠が浮気を……髪の色は同じ黒ですけど、もしかして褐色肌のほうがいいとか。俺も日焼けしたら黒くなりま――」
「ふざけ……はぁーふぅー落ち着くんじゃ……ワラワとて無駄に過ごしてないのじゃ。トトと近い男性の事を調べて、先ほどの情報もその一つじゃ……」
確かに。
さっきはスルーしてしまったけど、何も調べてない師匠が突然ザックの過去を語りだしたら怪奇現象だ、もはや何か憑依でもしたのかと疑わないといけない。
「さすが師匠」
「お主がドアホウすぎるんじゃ……今度から出会った人間のおすめすを教えようなのじゃ?」
「遠慮しておきます……じゃぁそのとりあえずザックの意見聞いて来ますね」
俺は師匠と別れてやっと街中まで行くことにした。




