第84話 トトはザックに憧れている。兄貴分として?
「領主様、頼まれていた魔物です」
「ザック、いつもみたいにトトでいい。紹介しよう、この人は私の武の先生クロウベル。本人は嫌がっているのでベルと呼ぶ事にしている」
挨拶したほうがいいよな。
「どうも、クロウベル……もしかしてあの森にいたミラーゴーレムって君が捕まえた? いや魔物使いって魔物を家族の様にして暮らすんじゃ」
であれば俺は全部倒した。
もしかして『家族の仇! 俺はお前を捕まえた後に1センチずつ肉体を切り刻んで苦しみながら殺してやる!』って言われる奴か?
逃げる準備をしたほうがいいか。
いや、奇襲で殺してしまおうか……でも、トトの友人っぽいしだめか。
「魔物使いといっても見習いでゴーレム系しか操れない……ゴーレムはゴーレムだ人形と同じ気にしないでください、逆にすみません……依頼でしたので、どうが殺さないでください」
ザックという青年は俺にそういうと頭を下げる。
「ザック! 私が守る。ディエの無茶な命令だったんだろ? いくら武人の力ためしとはいえ、ベル! こうしてザックも謝っているんだ許す」
決定してる!?
「俺としてはあれぐらいでは死なないけど……その今度は依頼を吟味したほうがいいよ」
無理だろうけど。
出来るなら最初からしてるよな、出来ないから無茶な事を引き受けないといけない。
ああ、現代もこの『マナ・ワールド』も世知辛い。
貧乏人は金持ちに逆らえないのだ。社畜ざ! 社畜!
「わかりました」
ザックが素直に謝ると、トトが一歩前に出て来た。
「ベル! 何もそこまで言う事はないだろ、ザックだって一生懸命魔物を持って来たんだ。褒めるべきだと思うんだ私は!」
「ご、ごめん」
「わかればいいんだ!」
なんで年下のトトに怒られているんだろう。
つい謝ってしまったけど、俺わるくないよね?
「そうだ、ザック! ベルに捕まえてきた魔物を見せてあげて」
「わかりました」
俺の意見なんてゼロで話が進んでいく。
別に捕まえて来た魔物とか見たいとも思わないんだけど。
ここは大人の余裕を見せるべきだろう。
「どれどれ」
檻の中にミラーゴーレムがいる。
あっやっぱミラーゴーレムなのか……。
「どうやって捕まえてるんだ?」
「ゴーレムはその文字に秘密があります……そこの文字をオレの命令が効くように書き換えるんです」
「へぇ……普通に凄くない?」
「だろ! ザックは魔物使いとしてとても優秀なんだ!」
トトが自慢気に話すが、そのザックは控えめである。
俺が凄いと言ったのはこの技術もすごいんだけど、この技術でわんちゃん国を亡ぼせる力があるからだ。
「何体までいける?」
「俺の命令は最大3体までですね……それ以上は俺の魔力が持ちません」
「そうか……一度に10体20体と作れれば小さい国ぐらい亡ぼせれるだろうに」
俺がそういうと、トトもザックも無言になった。顔を見ると少し怯えたような顔である。
「ベル。貴方はとんでもない事を言い出す、まるで悪魔の考えだ」
「そこまでっ!? いやでもミラーゴーレムだよ? この辺の魔物の10倍ぐらいは強い。それこそ3体まで操れるならこの辺のクエストは受け放題だし」
「俺自身が弱いので」
「ああ、なるほど……」
操れる魔物が強くても本体が弱いのであれば意味がない。
直ぐに捕らえられて打ち首だ。
「俺の親父がそれをして打ち首になりました」
「ザック……本当にごめん」
「領主様、先代の話ですし俺は何も恨んでません」
思いっきり暗い雰囲気になった。
「ベル! この話は終わりしよう。ザックは今ではトール家の専属魔物使いとして契約しているんだ。それでいいじゃないか」
「そうだな……じゃっトト。ミラーゴーレムと戦ってもらえる?」
「今ですか?」
「今以外あるの!?」
「え、いや…………そのザックともう少し」
トトがザックをちらちらとみてる。
ザックは無表情でトトに向き直った。
「では領主様俺はこれで」
「あっ……」
「まだ何か?」
「いや……そ、そうだ今度一緒にダンジョンについて行っていいかな?」
「…………ディエさんに聞いて下さい。失礼します」
ザックは檻のついた所を置いていくと馬で帰っていった。
なるほど?
トトの兄貴分みたいな感じなのかな?
「ザックの事好きなのか?」
「ばばばばっばばば! 何を言うんですか!!」
「ごめんって。いやずいぶんと見ていたからさ、ほら兄貴みたいな感じあるから」
「兄……そうですよね。私はザックの事を尊敬してる。この話は終わり終わりです! さぁ次の訓練をしましょう! 時間は無いのです!!」
トトとザックは男同士の友情みたいなものか。
少し調べたほうがいいかな、俺からじゃなくてザックからトトの好きな女性を聞いてもらってもいいかもしれない。
「とりあえず、そのミラーゴーレム倒して見て」
「ま、任せてください!」
あれ? これ操るザック帰っちゃったけど大丈夫な奴なの? 俺がふと思ったら檻を壊したミラーゴーレムが暴れだす。
「うお!? やっぱり暴走してる!?」
「いえ、ザックが帰ったので魔物の本来の力が出たのでしょう。安心してください私にかかればすぐに倒して見せます。なんせ領主ですから!」
トトが叫ぶと、ミラーゴーレムの背後に飛び乗り首筋に剣を刺した。
魔術の呪文が削れミラーゴーレムは直ぐに倒される。
「どうです!」
いやどうです。って言われても弱点ついただけだし。
俺の見たい戦いはこれじゃない。
その力比べとか攻撃をかわす速さ。
そんなのが一切ない。
「あーあれだな。毎回ミラーゴーレム連れてくる感じ?」
「そうですけど……ゴーレム系の中でザックが使える一番強い魔物です」
「練習にならないな、いくら強い魔物でも倒し方を覚えていたらまったくもって意味がない」
めちゃくちゃ強いが尻尾を引っ張ると死ぬ魔物。
さぁ戦えって言われて毎回尻尾を引っ張っているような感じだ。
「ですが! ザックは頑張っています!」
いや、ザックの話じゃなくてトトの話なんだけど。
俺がどうしたもんかと思っているとディエ爺さんが馬車で向かってきた。
「お疲れ様ですトト様。クロウベル様。本日の訓練はこの辺で、トト様は公務もありますゆえ」
「もうそんな時間か……ディエよくベルを連れて来てくれた。不思議な戦い方をするし強い。これで弱かったら直ぐクビにしたい所だ……ではベル色々とありがとう」
「いーえ」
ディエ爺さんとトトは馬車の乗って別館から帰っていく。
俺は壊れたミラーゴーレムと共に離れに置き去りにされたままだ。
「………………俺は徒歩で帰れと」




