第83話 トトの友人と何でもありの練習試合
結局3ヶ月の依頼に収まった。
表向きはトトの武術の訓練のための先生。
裏向きはトトの結婚相手を探すための条件や相手探し、なるべくトトの希望通りの相手を探したい。と、いう健気なディエ爺さんの気持ちである。
成功報酬でミレニアム金貨20枚…………金貨にして4万枚相当。
ちなみに俺の地元フユーンでちょっと贅沢な部屋に泊まっても金貨2枚ぐらいだ。
食費もあわせて金貨4枚使ったとしてええっと……1万日泊まれることになる。物価が変わる事がなければ27年前後って所か。
そんなのをポンっと出すんだから狂ってる。
その他にも飲食無料、当然屋敷への無料宿泊。
訓練に必要な費用などあれもこれも出してくれる。との事だ。
美味しい話過ぎて逆に怖い。
そんな話を昨夜のうちに終わらせて本日は1日目と言う事だ。
天幕が付いてる豪華なベッドから出るとまだ雲の上にいるような気分、柔らかすぎる。
当然俺と師匠は別の部屋で……そこだけが少し悲しい。
誰もいないので部屋の中で柔軟と魔術の訓練を軽く行う。日ごろからやっていると知らない間にレベルが上がってる世界なので。
部屋がノックされたので出るとディエ爺さんだ。
「おはようございます、クロウベル様! 本日からよろしくお願いしますよ」
「まぁ努力はするよ努力は……」
「所でメル様の部屋をノックしても反応がないのですが」
「あー…………」
寝てるなきっと。
魔女メルギナス師匠は、基本だらしないのだ。
ぐーたら出来るならぐーたらするタイプ。今はアリシアもノラもいないもんな……。
「師匠は寝ざめ悪いし、そのうち起きると思うよ」
「そうでしたか……魔女と言うのはそういう者なので」
嫌味ったらしい言葉に少しカチンと来る。
「そもそも、ディエ爺さんさ、なんで師匠が魔女って知ってるの?」
「それはもう子供の頃見ましたし」
「ん?」
「どうなされましたか?」
ん??
今何ていった? 聞き間違いかもしれない。
「もう一度言ってみてもらえる?」
「はぁ……ですからこのワシが小さい頃に起きた魔獣の暴走、その時にこの街を守ったのは何を隠そう、魔女メルギナス様です。銀色の髪をなびかせ恥ずかしながら綺麗と思ったのでございます。あの時も自ら魔法使い。と名乗ってましたが……聖都タルタン、そこであの時と同じ――――」
年寄りは話が長い。
じゃなくて、ディア爺さんが昔師匠に助けられて、聖都タルタンで同じ姿の師匠を見た。というのを力説してくれた。
あまり詮索はしないが、師匠は200年ぐらい生きてるのか?
早く俺が不老になって幸せにしてあげたい。
「あの聞いていますかクロウベル様」
「聞いてるよ……ええっとそのトト様は今どこに?」
「この時間でしたら街周辺の魔物退治ですな」
「…………領主自ら?」
「ええ、領主たるもの街を守るのが当たり前かと」
なるほど? そういう考えもあるのか。
「まぁ帰ってくるのを待つか。帰ってきたら……そうだな、訓練所ってあるんだっけ?」
「昨夜ご説明した所にありますクロウベル様」
答えは教えてくれないのか。
もしかしてディエ爺さんって俺の事嫌ってる? 気のせいだろうか。
「……別館東の外でございます」
「あっ教えてくれるんだ、ありがとう」
俺はディエ爺さんに礼を言うとディエ爺さんはめをぱちくりさせている。
とうとうボケ始めたか……まぁいいやさっさと行くか。
別館。
旧屋敷と教えてくれた場所で本館屋敷とはかなり離れている。
敷地内なのに馬が欲しいぐらい。徒歩で20分ちょっとという所だろう。
俺はその中庭で俺はぼけーっと座る。
大きな音が聞こえると馬に乗ったトトが訓練所に現れた。
馬を降りて近くの木々に縛り付けると、俺の方に小走りに走ってくる。
「待たせた。ベル先生」
「ベル先生!?」
「ああ、今日から教えをこうんだ。私の先生という所だろ?」
「いや、まぁ……先生はつけなくていいよ」
「わかった……ではベル。よろしく頼む」
一礼すると俺の近くで黙って立っている。
「何をして……ああ、そうか。俺の指示を待っているのか」
「当たり前だ。ベルは私に何を教えてくれるのか勝手に動く事もできまい」
「…………所でトトはどんな人が好き?」
トトは腰につけた剣を思いっきり地面に突き刺した。
その振動で俺が座っていた椅子が少し揺れた。
全身に殺気をこもった空気を包み込み、トトは俺の顔を見ている。
「ベル。まさかとは思うがディエから変なお願いを聞いているわけじゃないだろ? 言っておくが武人たるもの甘い事は考えていない! それにだディエは心配するが別に養子を取れば良い事だ」
「………………じょ、冗談だし。何も聞いてないよ」
あっぶね。
ディエ爺さんから、くれぐれも結婚相手探しはバレないようにお願いします。と、言われていたんだっけ。
「ええっと……まずは素振り5万回」
「わかった!」
冗談でいった回数をトトは数字を数えて繰り返していく。
「いやいやいや、まってまって!」
「まだ残り49932回もあります」
「じょ、冗談だから……」
「………………戦いの時に冗談だからといって突進させる指揮官はいるのですか?」
「ごめんって……」
怒られてしまった。
「じゃぁ……組手する?」
「してくれるんですか!!」
うおっ。
凄い食いつきがいい。
「ディエの話では、古代ダンジョンに向かって帰ってきた勇者ときいています!」
「古代ダンジョン? もしかして蜃気楼の古城の事か?」
「はい! 霧の古城ともいうらしいですけど……かの聖騎士隊アンジェリカ副隊長の背中を守った! と非公式の話を昨夜に聞きました」
かなり誇張されてる。
背中を守ったとかもないし、逆に引率された感じなんだけどさ。
素振りを見た感じまぁ何とかなるだろう。
「そこまででもない。じゃぁそこの線の前に、連中試合のやり方は?」
「知ってます。剣と剣を合わせて正々堂々と戦う奴ですよね」
「騎士のほうか。冒険者スタイルでいいよ」
何が違うかというと、騎士のほうは背後からの攻撃や禁止されている、武器を落としてそれを拾うまで待たないとダメ、相手が叫んだら気合攻撃が来るのでそれを待たないとダメ。
ほかにも、ローカルルールで奇襲は禁止、相手が参ったと思わなければ試合を続けてもいい。などなど。
騎士道精神どこいった? って言うのが多い。
一方冒険者ルールというのは、割と何でもあり。当然「まいった」など負けを認めた後の攻撃は認められてないけど勝てばいい。
魔法も大丈夫、師匠が審判でアリシア達とした試合が冒険者ルールに近い。
さすがの俺も地元の冒険者ギルドで何度か試合をした事ぐらいはある。
「わかりました!」
試合の円形の広場でお互いに練習用の剣を合わせる。
キラキラした目で俺をみるトト、その熱意がまぶしいまである。
ふと……ここで俺がトトを殺してしまったらどうなるんだろう。ととっても興味深いか俺の人生が終わる気持ちが沸き上がるがそれを抑える。
「じゃ。このコインが落ちたと同時に」
「はい!」
俺が高く上げたコインが地面に落ちた。その瞬間俺は後ろに下がるとトトはその動きについてきて剣を振って来た。
力はまぁまぁ強い。
なんだったらクウガより強いぞコイツ。
剣が重なった時に俺は両手を離した。
トトが驚く顔になるが、そのまま腹に蹴りをいれる。
蹴った手ごたえが弱い。
自分で後ろに飛んだのか、俺は地面に落ちる前に自分の剣をキャッチして間合いを取る。
「す、すごい……そんな戦い方があるだなんてベルは強い、嬉しいよ」
「どうかな……俺より強い奴はいると思うし、いくら強くても急所刺されたら終わりだよ。首とか」
「そうですけど、回復薬とかありますし」
そりゃ金持ってる奴やヒーラーが要る奴はいいだろうけどさ。
俺の奇跡の水なんてそんな回復しないよ?
まぁでも、トトは強い。
俺は練習用の剣を大きく振ると腰を落とした。
剣を持つ手を左に大きく戻しての動さ、居合切りの構え。
剣星アンジュの得意技。
と、いうか俺はアンジュから教わった事は2つぐらいしかない。
後はどんな状況でも生き残る事、アンジュからはその二つだけだ。
「い、いきます!」
「……………………」
俺は無言で何も言わない。
トトが全力で走ってくる、居合切りに対抗するには素早さだ。
結構早いな。
トトの攻撃スタイルも先手タイプか。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
トトが《《まっすぐに走ってくる》》。
俺は居合切りを先に動く動作をすると、トトの表情が少し喜んだようだ。
まぁ居合切りは間合いをミスったら終わりだもんね。
俺はまっすぐに走ってくるトトに練習用の剣を手裏剣の応用で投げる。
トトは驚くがもう遅い、自らの加速と俺の投てき、ガードしないと腹に穴が開くだろう。
「で、俺はそこにチョップを入れる。っと」
「…………い、いまのは卑怯です! 私が走ってくるのに武器を投げつけるだなんて!」
「いやだから……冒険者用って言ったでしょ?」
「それはそうですが!」
キャンキャンと文句を言うトト。
俺がどうしようかと思っていると大きな馬車が中庭に入ってくる。
昨日見た大型の馬車で確か荷台の牢部分に魔物を入れれるんだっけか。
紺色の髪、褐色の肌で根暗そうな青年が御者をしてるようだ。
「あれ」
「あっザック! いつもご苦労!」
トトは俺に文句を言うのを辞めて御者をしてる褐色の青年へと走っていく。
俺を見ると小さくお辞儀すると御者台から降りるのがみえた。
「ベル! こっちはザック。魔物使いのザック、私の親友なんだ」
「ザックといいます。お貴族様」




