第81話 師匠と爺さんの願い
「水盾!」
俺がウォーターシールドを張ると光線が水盾に消えていく。
…………弱い。
何だこの弱さ。
自慢じゃないが俺の水盾連は師匠のライトニングフルバーストを防げるほどの奴。その一枚すら貫通できないとは何て弱さだ。
「師匠!」
「ふむ……反撃にしては魔力の性質が低いのじゃ、攻撃にしては……となるとじゃ。ドアホウ、ウォーターシャベリンは行けるのじゃ?」
「ちょっと遠いですね」
「ウォーターレインは?」
「雨降らしっすよね。覚えてません」
俺がそういうと師匠は少し黙った。
敵の攻撃パターンを読んでいるのか、俺も攻略ページを思い出す。
が、こんな場所で光の光線を使うような敵は覚えてない。
「………………使えんのじゃ」
「ひっど!」
「…………ワラワは何も言ってないのじゃよ」
「絶対に言った! 俺の耳が聞いてます!」
「ドアホウよ、細かい男は嫌われるのじゃ、特にワラワに」
「俺の聞き間違いでした」
師匠は「のじゃ!」というと慎重に森に近づく。
と、いうか。
以前に師匠が他の属性魔法も使える! と言ったのなら師匠が降らせばいいんじゃないの? って思った。
ちらっと師匠を見ると細目でにらまれた。
「他の属性を使えるからと言って使いたいとは思わないのじゃ。これで納得したのじゃ? ドアホウ」
「何も言ってませんよーっと、でどうするんですか? 逃げます?」
面倒な相手には逃げるのが一番だ。
退治する。と約束はしたが別に命をかけるほどでもない。
「そうしてもいいのじゃが、ちょっとな近づくとするのじゃが、いいのじゃ? 絶対にこちらから魔法を唱えるなのじゃ」
「水槍!! 連!!!」
俺は魔力を精一杯使って水槍を唱えた。
水球が現れると森めがけて水で出来た槍を飛ばす……が森までの距離が長すぎて4メートル付近までしか伸びない。
「ド、ア、ホ、ウ!!」
「い、いやふりかと思って。それにほら届かないでしょ届かない!」
「ワラワの想像する相手であれば、ワラワが攻撃しなければもう何もしてこないのじゃ」
んな馬鹿なって思う。
相手が剣を持っているのに話し合いで終わりましょうって言うのは俺は間違えてると思う。
だって、兄のグロウベルにイジメられていたし。
「あれ? 本当に攻撃してこない?」
もうすぐ森の中に入るっていうのに全然攻撃飛んでこない。
「はぁ…………やっぱりなのじゃ……ドアホウ、ゴーレムが襲ってくるはずじゃ、魔法は効かぬ、処理できるのじゃ?」
師匠がそういうと、ミラーゴーレムが見えた、それも4体。
「うわ…………なんでこんな場所に」
「お? 知っとるのじゃ?」
「うい」
全身が鏡みたいな素材の大きめのゴーレム。
高さは3メートルぐらいで横幅は大人二人分。
光属性の光線魔法攻撃をして耐久力もそこそこ、こちらの魔法はミラーゴーレムの前では効かないという、物語終盤に行く事が出来るダンジョン。
まぁまぁ強い。
ってか普通の森には絶対に出ない敵である。
「弱点は毒針なんですけど、師匠持ってます?」
「あると思うのじゃ?」
「師匠クラスになるとほら裁縫セットもってるとか」
「持ってるわけないのじゃ……弱点は首筋の魔道文字、そこを削るのじゃ」
はいはいはいっと。
光線が飛んでくるのをかわす。
攻撃はゲーム内では弱いが一般人が当たると危ないからね、現に俺がよけた先にある木々が焦げてるし。
ゴーレムの背後によじ登り師匠の言う弱点を探す。
「あった……こっちの文字でゴーレムって書いてるのか」
いくつかの文字を消すとミラーゴーレムの動きが止まる。
他の3体は仲間がやられたのに動きを止まるような事は無い、ロボットに近いのかな。
他の3体も背中によじ登って同じことをする。
すんごい地味だ。
ゲームであれば物凄い経験値をもらって一気にレベルアップするはず…………ステータスが見れないから何とも言えないがやっぱ強敵を倒すと強くなっている気はする。
1匹目より2匹目のミラーゴーレムのほうが何となく倒しやすかったし。
4匹目のミラーゴーレムを行動不能した所で草むらから師匠が出てくる。
「トイレ終わりま――あっぶ、何かあるとすぐに杖を振り回すのは良くないと思います!」
「何かあるとすぐに変な事いうのをやめてくれなのじゃ……」
「…………善処します……ええっとじゃぁ何を?」
師匠は辺りを気にしながら俺によって来た。
「ワラワを誘い込んだ奴を探していたのじゃ」
「ほえ?」
「そもそも、ここに魔女なんておらん、あのダニ御者は頼まれただけじゃしな」
「と、言うと?」
師匠は長い耳で聞いた話を俺に話してくれた。
ダニ御者さんは、他の御者から「お前の所に乗っている女を森に行かせろ」と提案を受けたらしい。
一応は断ったらしいが、お金って怖いね。
何とか俺達をここに来るように魔女の話まで出して誘い込んだ。と。
「ああ、それで師匠は嫌がっていたんですね。今から戻ってダニ御者さんを叩き潰しますか?」
「いやいいじゃろ、金に眩んだ奴であればあの手紙をアンジェリカに見せるはずじゃ。中身はあの男を数ヶ月牢に入れとけ。としか書いてないのじゃ」
なるほど。
改心して御者に戻るなら罰は無い。
金欲しさにアンジェリカに会えば牢行きか。
「…………もしかして師匠が最初にライトニングフルバースト打ったのって」
「ワラワの事を知っているのであればそれ相応の対策はするじゃろ? もし本当に偽物などであれば……運が悪かっただけじゃしの。それこそ魔女が暴れた。それで済ますしかないじゃろに」
簡単に言えば悪人なら死んで当然。
殺して来ようとするやつは殺されてもしょうがないよね理論だ。
日本であれば大問題であるが、別に日本じゃないし。ある程度は仕方がない。
「このままゴールダンに向かうのじゃ」
「まっそれが良さそうですね」
師匠が歩くので俺もその横を歩く。
別にこれと言って会話をすることもなく淡々と、師匠は基本静かだからな。
《《土下座をしている老人》》の横を俺と師匠は無言で通り過ぎた。
いや、俺だって突っ込みたいよ。
でも師匠が無言でそれをするんだもん。
俺は一度振り返ったら爺さんが絶望の顔で俺を見たし。
爺さんは後ろから走って俺達の前にまた土下座する。
師匠はそれを踏まないように横を通って歩き続ける。
「ええっと……」
「ドアホウ、黙っていたら一緒のテントで寝てもいいのじゃ」
爺さん悪いな。
俺は師匠と同じく無言で歩く。
10回ぐらい繰り返すと爺さんの衣服はもうボロボロだ。
少し可哀そうであるが、命を取られないだけまだいいのかな?
「メルギナス様!! ど、どうが! お怒りをお納めください!」
とうとう名指しだ。
師匠の歩きが一度止まる。
「はぁ…………ワラワをメルギナスと知って何を求めるのじゃ」
師匠の根負けだ。
なるほど、師匠は10回ぐらい土下座したら言う事を聞いてくれるのか、覚えておこう。
「ドアホウ、顔がにやけておるぞ」
「気のせいです。で…………」
「英知を!」
「はっ!? 爺さんその歳で起つの!?」
あれ?
師匠と爺さんが黙ってしまった。
おかしなこと言ってないはずだけど。
「いや、えっちをって……」
俺は確認するように小さい声で師匠にたずねた。
師匠は頭を抱えてしゃがむ。
爺さんのほうはポカーンと口を開けている。
「ドアホウ少し黙っているのじゃ」
「はい……」
近くの木に寄り掛かって俺は蚊帳の外。
師匠と爺さんは小さい声で何やら話しているのが聞こえた。
あー英知ね優れた考え、困った時の頭脳というか、えっちかとおもったじゃん。
だって師匠に頼むとしたら英知より体だよ。
師匠そんなに頭よくないしさ。
「うわっ!」
俺はしゃがむと、その頭があった場所に杖が飛んできた。
「師匠!?」
「話は終わったのじゃ」
「結局何だったんです?」
「この爺さんの息子が困っているらしくてな」
「はぁ、受けるんです?」
爺さんは相変わらず土下座スタイルだ。
「ゴールダン領主のトト様をお助けください。クロウベル様!!」
「は? え、俺?」
「ドアホウはワラワの弟子じゃろ? たまにはいい所が見たいのじゃ」
いい所が見たい。
いい所が見たい。
いい所が……なんだって……師匠にそう言われるのは初めてかもしれない。
とうとう師匠が俺を認めてくれるって事だろう。
「全部俺に任せてもらえばいいから! で、何するの!?」
「トト様の結婚相手を探して頂きたいのです!」
俺は爺さんの言葉を聞いて師匠を即見る。
「任せたぞ、ワラワの一番弟子じゃしな」
「えーっと……まぁ……善処はします」




