第79話 キャラが濃い御者
旅馬車の揺られて3日目の夜。
宿場にて馬車の入れ替えだ。俺たち以外にも乗り降りする人は多く、完全な2人旅。と、いうわけにはいかない。
俺は久々の風呂を堪能して女湯前で師匠を待つ。
「とはいえ、これといって女湯を覗くというイベントもない」
「あってたまるかなのじゃ!」
「あっ師匠湯上りも美人で」
「………………よくもまぁポンポンとじゃ」
風呂あがり師匠が俺を見ては落胆している。
ここで挽回といこうか。
「でも安心してください師匠。俺クラスになるとラフ設定画から師匠の裸ぐらいはイメージ出来ます!」
ネットにあがった師匠の立ち絵姿、有志が書いた二次創作の水着絵、そこから俺のイメージで師匠の裸まで想像できるのだ! すごくない? 凄いよね。
「ラフ設定がよくわかんが、気持ち悪い事辞めろ……なのじゃ」
「うい」
俺の特技が一つ封印された。
「所で隣に座っていいのじゃ?」
「よければ上に」
俺は膝の上を開けた。
師匠は一瞬黙って俺の隣に少し開けて座る。
「そもそも事件などそう起きるはずがないから、事件なんじゃよ」
そうはいうが、俺がプレイしている『マナ・ワールド』はこれでもか! って言うほどクエストがあった。
基本のクエストから、なんと追加ダウンロード、R18、裏ボス追加などなど。
【離れていくユーザーを引き留める苦肉の策だ】
まぁ結果離れるんだけど。
そもそも主人公がクウガだけってのはいけない。
普通オープンワールドゲームは自分自身が主人公が基本……と思った所で、ニワトリを叩けるゲームを思い出した。
あれは主人公固定だったし、巨人を狩る奴も固定か。
まぁ運営はがんばったよ……うん。
最後の方には主人公クウガを抜いての強くてニューゲームも計画されていたけど、未実装で終わった。
あれ? 主人公クウガを抜いて……自由編成編など……あっ今思えば今のアリシアがそうなかもしれない。
それにさ、基本的な目的をなくすとクエストをしても意味がないんだよね。
俺にいたっては師匠と『キャッキャウフフ』がしたい。
あわよくばR18ルート。
今は基本かなっているし、それを継続させるのに少なくとも長寿になりたいぐらいだ。
師匠が事件なんで起きないのじゃ! そう言い切ると、俺達の御者が他の御者と何やら話している。
俺の耳には「どうする?」「魔物?」「いや女だ」など色々聞こえてくる。
師匠の顔を見るととても嫌そうな顔だ。
「なんでそんな顔してるんです?」
「御者の話が聞こえてなのじゃ」
「ああ、本当の耳は長いもんですね……で、何で言っているんです?」
「ドアホウが好きな事件のようじゃな……あれか? ドアホウがワラワの旅にトラブルが起きる呪いでもかけた可能性なのじゃ」
「俺にそんな力があれば、まず師匠を物理的に縛り付ける呪いを――」
「あんたら、ちょっといいダニか」
話の途中に入ってくる御者、まずダニじゃない。
「俺は人間であってダ――」
俺が最後まで言う前に御者のおっさんが俺達の前に立つ。
どうして、世界はおっさんばっかりなのか。
たまには美人な御者がいても良いじゃないか……と思うが、力仕事もあるし仕方がないのか?
いやでも、1年ぶりにあったノラは御者が出来るようになっていた、アンジェリカだって馬に乗れる。
「なんじゃ?」
「力のある冒険者か旅人と思うダニが――」
「断るのじゃ」
師匠が話を聞く前に断った。
ほええ、師匠にしては珍しい。
まぁ師匠はダニじゃないしな。
「そこを頼むダニ! ゴールダンに――」
「行く道に魔物が出ようが関係あるまいなのじゃ」
「でもダニ!」
なるほど、俺達の目的地であるゴールダンに行く道、そこに魔物が出たって奴か。
ダニの語尾が強すぎていまいち真剣さにかける。
原作ゲームプレイをした俺でもそんなイベントは記憶にない。
ってかだ、マナ・ワールドのエンカウントシステムは敵のシンボルが見えないタイプの奴。
街道を歩けばエンカウント率はさがるが普通に魔物は出る。
それの一種だろう。
「無理にその道を行く必要もなさそうじゃしな」
「近道なんダニよ」
「ワラワは数日遅れても問題ないのじゃ」
俺も急いでいる旅じゃないし、師匠が横にいるだけで数日所がここに1年いたっていい。
「そこを何とかダニ!」
「他を当たるのじゃ」
「土下座をするダニ!」
「要らぬ!」
「話だけでもダニ!」
「聞かぬ!」
お互いに一歩も引かない。
最後に『媚びぬ』って言ってほしかった。
御者のダニダニおっさんが土下座をしながら俺を見上げてくる。
「やだなぁ、自分より年上な人が土下座までしてお願いしてくるんだよ?」
「おおお! では話を聞いてくれるダニか」
「あっ俺も師匠が聞かないなら聞かないし、依頼も受けない」
「………………この鬼共ダニ」
御者のおっさんが、ぼそっと言うと立ち上がる。
懐から金貨を投げつけて来たので俺は素早くキャッチすると、ますます御者のおっさんは顔を真っ赤にして来た。
うーん。ダニじゃなくて鬼はおっさんのほうである。
「もういいダニ! お前達は乗せないダニ! 金は返すダニ!!」
ついちょっと前まで風呂で世間話をしていた奴とは思えない捨て台詞をはいておっさんが消えていく。
「ふう……」
「行きましたね」
「そうじゃな……しかし、徒歩かぁ面倒じゃが仕方がない。行先をかえるのじゃ」
「え? ゴールダン共同墓地に行かなくていいんですか?」
「………………そうじゃな」
なんだろう。師匠の歯切れが悪い。
ぜえええたああああい何か隠してる。
「俺に黙っておかし食べました?」
「食べておらんのじゃ? ワラワは子供なのじゃっ?」
「じゃぁ俺に黙って下着替えました? あんまりラインが見えないんですけど」
「ほんっと気持ち悪いなドアホウは……褒めてないからなのじゃ。はにかむな!」
怒られてしまった。
「いいか、小声で話すなのじゃ、どうも街道に魔女が出た。と騒いでいるのじゃ」
「は?」
魔女といえばメルギナス。
メルギナスと言えば大魔法使いメルであり、師匠の事だ。
立ち上がり俺は師匠を見た。
「魔女ってここにいるでしょ!」
「のわっこのドアホウ!!」
「え?」
あっ! 思わず大声で周りに聞こえるように叫んでしまった。
先ほどの御者が俺達を見ると、急いで走って来た。
「あんたら! 魔女の話って事はやってくれるダニか!」
「いや俺達は別に――」
「街道に現れたというのは魔女ダニ。魔法が凄く魔女と名乗ってるダニよ」
「どうせ偽者じゃ……だまって国でも通報するのじゃ」
「偽物なのはわかってるダニ!」
あっそうなの?
俺はダニの御者に向き直る。
「なんで?」
「本物だったら国に通報しても無理ダニ……偽物であれば、強そうな2人で退治できるダニよ」
なるほど? 厄災の魔女であれば確かに冒険者2人で倒せるのは無理。
「行きましょうよ師匠!」
「一人で……」
師匠の言葉が止まった。
「師匠?」
「それが偽者でも本者であってもじゃ、いやドアホウがワラワじゃなくて別の女に乗り換えるチャンスなのじゃ?」
「あの師匠? 俺は別に」
「いいのじゃ! ダニよ、条件があるのじゃ!」
いつの間にかダニと定着していた御者に師匠は宣言した。




